第47話

 それからルーカスさんに会う機会はなく、謎は解決される事なく三年の月日が流れる──俺は図書館で勉強しているホープの所へと行った。


 ──お~……真剣に勉強しているじゃないか。俺はホープの隣に座り「どうだ? 何か分かったか?」と話しかける。


 ホープは古びた本を優しく閉じると、こちらに顔を向けた。


「父様。はい、あの時に手に入れたこの本を読んでいて、火種の一族について少し分かりました」

「へぇー……興味あるな。話してくれるか?」

「はい。まず火種の一族と呼ばれる様になった理由は、一人の錬金術師の女性が魔法石、別名でスピリット・ストーンを作り上げた所から始まります。残念ながら、その女性が何で魔法石を作ったのかは、ボロボロで読めませんでしたが、一人の魔法使いの男性が関係しているみたいでした」


 こんな所で魔法石と関連していたんだな……何度も助けられた魔法石だから、何で作られたのか前から気にはなっていたが、分からないなら仕方ないか。


「魔力を高めてくれる魔法石……その情報を知られてしまえば、誰もが欲しくなる」

「じゃあ……」

「はい、父様が想像している通り、魔法石が争いの火種となってしまった……だから、そのきっかけを作ってしまった一族の事を火種の一族と呼んでいたみたいなんです」

「そうだったのか……」

 

 その内容が記された本があそこにあったって事は、あの研究所は錬金術師の女性が使っていたものだったのかもしれないな。


 ファシナンテがあの岩の扉は火種の一族しか開けられないと言っていたから、ホープにも間違いなく、その一族の血が流れている。


 だから古代語を読めたり古代魔法も使えるのか? ──その辺はちょっと違う気もするが、今は分からないな……。


「ねぇ、父様。ファシナンテは何であの岩の扉を開けられたのかな? あいつも火種の一族だったとか?」

「どうだろ……? あいつと俺が初めて戦った時、あいつは瞬間移動や呪いの炎を使ってこなかった。もし使えるなら、使ってきただろうし、あの時点ではまだ、あの研究所を見つけてなかったのかもしれない」

「じゃあ最初から火種の一族の力は無かったって事?」

「多分な。考えられるとしたら……あいつは色々な人の身体をの一部を移植していた。そうやって、たまたまなのか俺達と戦った後に、火種の一族の一部を手に入れたんじゃないのか?」

「あぁ……なるほど」

「さて……そろそろ試合をするかと思って呼びに来たんだが、大丈夫そうか?」

「はい、父様。いつでも行けます」

「じゃあ、いつもの草原に向かおう」


 ──俺達は王都から少し離れた草原へと移動する。魔法を使う時は何が起こるか分からないから、さすがに王都の周辺では出来なかった。それに──。


「父様、お願いします」

「お願いします」


 俺達は草原の中央に立ち、二メートルぐらいの間隔をあけ、頭を下げる。ホープは頭をあげ、構えると「じゃあ行きますよ。今日こそ、参ったと言わせてみせますからね、父様」


「よし、来い!」


 俺が構えると、ホープはいきなりファイアボールを三発、連射してくる。俺はマジック・シールドを使わず、後ろへと飛んで逃げた。


 それにホープは旅から帰ってきた後、現代魔法もメキメキと覚えていって、魔力は俺がデストルクシオン城に乗り込んだ時ぐらいまで跳ね上がっているから、十分の広さが必要だった。


 ホープが現代魔法をなかなか覚えられなかったのは、現代魔法と古代魔法を覚える順番が逆で、いきなり応用問題をやらされているみたいな状態になってしまい、覚えづらかったのかもしれない。


 ホープは俺の様子を見ながら、後ろへと下がっていく。


「俺との距離を離してどうするつもりだ? 上級魔法を唱えるための時間稼ぎか? ホープ」

「教える訳ないでしょ、父様」

「ちっ……生意気な奴だ」


 別に殺される様な戦いではないのに、こいつと対峙しているとボスと向き合っている様な緊張感がある。魔法使いとしてなら、こいつはもう子供じゃない……油断していると足元をすくわれる。


「じゃあ俺から仕掛けちまうぞ」と俺が言うと、「イリュージョン・ミスト」と、ホープは魔法で濃い霧を発生させ、俺の視界を奪う。

 

 どういうつもりだ? ホープは魔力を感知する事が出来る俺にイリュージョン・ミストは意味がない事は分かっているはず……。


「ディセラレーション・スライム!」


 ウゲェ、マジかよ……ホープはすかさず動きを鈍くさせるスライムを大量に空から落としてくる。

 

 俺はフレイムでスライムを焼き払ったが、何匹か体に当たってしまった。こいつ等、ネバネバで気持ち悪いんだよな……。


 そうこうしている間に、一瞬、ホープの魔力が消える。


「ヤバッ……」と、声を漏らしたときにはもう遅く、前にあったはずのホープの魔力は背後にあった。後ろに視線を向けると、霧が晴れていき、ニヤッと微笑むホープの顔が見える。


「父様、降参ですか?」

「お前、どうやって瞬間移動したんだ? 詠唱はどうした?」

「瞬間移動には目印となる魔力が必要です。だから俺はディセラレーション・スライムで父様に自分の魔力を付けました。後は簡単、遠くに飛ばなければ、無詠唱で飛べるようにひたすら練習をしてきたんですよ」


 サラッと言っているけど、魔法をアレンジするなんて、並大抵の魔法使いが出来る事じゃない……。


「どうですか?」


 ──ホープは俺の背中に自分の手を突き出して、いつでも魔法を放てるようになっている。ゼロ距離発射の魔法だ。マジック・シールドでも間に合わないだろうし、本当に放たれれば致命傷は避けられない。


 それに溢れんばかりのホープの才能……認めざるを得ないだろう。


「──参った……降参だ」

「やっ……たぁ~!!!!! じゃあ、旅に出ても良いよね!?」

「うん……認めよう」

「ありがとう、父様!!」


 ホープはガッツポーズをしたり、飛び跳ねたりと大いに喜ぶ。余程、俺に勝てたことが嬉しかったようだ。エマの言う通り、本当……子供の成長は早かったわ。

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