第5話 大ゼンニンは巨大メカで戦うぞ!


「すごいぞ赤!」

 青と黄色が駆け寄ってくる。

「赤は女性か。あのコスメセットゼンニンをひとりで倒すなんて、よほど美しい人なんだろうな」

 黄色が妄想を語るので、ましかは思わず舌打ちした。どうか猫をかぶらせていさせてほしい。


 コスメセットゼンニンを倒したことにより、その力も失われたらしく、女性たちは夢から覚めたように現実の自分と向き合っていた。落胆した、みるみる自信を失っていく顔。

 ましかはすこぶる気分がいい。


「まさか、コスメセットゼンニンが倒されるとは。しかし、このままで済ます訳にはいかない」

 別の場所で状況を見守っていた美青年が拳を握る。知的な老人がモノクルをくいと直した。

「コスメセットゼンニンの幸せを願う心はまだのこっておる。それを増強して……」

 美青年があの力を使うのか、と絶句して息を飲む。老人は決意を込めた眼差しで倒れたコスメセットゼンニンを見、傍らの機械のレバーを引いた。

「出でよ、善なる巨人!」


 雷が落ちた。

 ましかは驚いて振り返った。

「こうなったら町中を一気にきれいにして幸せにするコスメ!」


 倒したはずのコスメセットゼンニンが巨大化している!


「何よ、こんなのずるいわ!」

「ましか、こっちも巨大メカで対抗するンゴ!」

「ヒガミンゴ、あんた私のコートはどうしたのよ」

「ましか、ヒガミンブレスでシロクニを呼ぶンゴ!」

 ヒガミンゴはあえて答えず、叫んだ。

「何よそれ」

「いいから早くするンゴ!ヒガムンインディゴブルー、ヒガムンマスタードイエローもみんなを呼んで!」

 青と黄色も緊迫した声でヒガミンブレスに呼びかける。

「……シロクニ、出番らしいわよ」

 ましかは面倒そうに、ヒガミンブレスに小声で呟いた。少し恥ずかしい。

 

 ヒガムンジャーの要請を聞き、移動要塞ヒガムーンが動いた。

 ハッチが開き、輝く銀河特急が飛び出していく。

「頼んだぞ、シロクニ、ラピート、ドクター!」

 山間田長官が、その勇姿に力強く声援を送った。


 空から赤く輝くSLが現れた。続くのは青く尖った速そうな列車と、黄色い新幹線だ。

「何あれ!汽車が空を飛んでる!」

 ましかが驚いて叫ぶと、青が即座に訂正した。

「SLは汽車でいいけれど、他は電車なので全体を指すなら列車と表現すべきです」

 うるせえ男だな、とましかは思う。

 赤いSLは煙を吐きながらましかの前に停車した。

「あなたがシロクニ?」

 除煙板に燕のワンポイントが可愛い。返事をするようにぽっと汽笛を鳴らして煙を吐いたシロクニを、ましかはちょっと好きになった。

「何だかわからないけど、よろしくね」

 シロクニはまた答えるように汽笛をならし、その背にましかをぽんと乗せた。そのまま空へ走り出す。

「し、シロクニ!」

 むき出しかよ!中に乗るんじゃないのか!

 ましかは必死でシロクニに捕まった。

「行けー、みんなー!デルクイ・アタックだンゴ!」

 下でヒガミンゴが叫んでいる。あんた腹に風穴あけてよくそんな声が出るよ、とましかが思う間もなくシロクニが、ラピートが、ドクターがどんどん加速して大コスメセットゼンニンに向かっていく。

 ちょっと、何?

 ましかは顔をひきつらせた。

 まさか、デルクイ・アタックって、つまり、


「ただの体当たりかよ!」


 ものすごい衝撃があり、ましかは吹き飛ばされそうになりながら必死に耐えた。シロクニは車両全部をガツンガツンに大コスメセットゼンニンに当て切って過ぎ去る。ましかが衝撃と揺れに耐え切って何とか後ろを振り返ると、大コスメセットゼンニンが再び爆発するところだった。


「くっ、善なる巨人の力を使っても倒されてしまうとは」

 美青年が肩を震わせた。

「ヒガムンジャー、次こそは必ず、僕らの愛を届けてやる……!」


「敵を倒すと変身がとけるのね」

 ましかはサイズの合う靴を用意させてやっと口を開いた。変身前の姿に戻るならやはり部屋で変身するべきではなかった。まあ、この靴の分で許す。

「ヒガムンジャーが使うエネルギーは莫大なので、少しでも節約するためンゴ」

 黄色だった男に包帯を巻いてもらい、ヒガミンゴは少し元気になって言った。ましかの靴はヒガミンエンスが何とかしてくれたので、今回はダメージも少ない。生きて帰れる気がする。


 黄色は小太りのもっさりした男だった。目付きが何とも卑屈なせいか、若いのかもしれないがおじさんぽい。

 青は若くて顔のいい男だったが、前を開けたチェックのオックスフォードシャツの下に、恥ずかしげもなくアニメの女の子のTシャツを着ている。そのケミカルウォッシュのジーンズは、タイムスリップでもして購入したのか。


 ないわ。2人とも、ないわ。


 ましかは思い、おそらく2人にもそう思われているであろうことを自覚した。お互い様だ。

 もちろんこういったタイプによくある通り三者三様に無口で消極的なので、戦い終わった三人の間には世間話などない。名前すら尋ねない。

「ところでましか、身代わり人形のことンゴが」

 絆を深めてやろうとかいう気遣いの全くないピンクが不意に重要そうなキーワードを口にした。ましかは少し嫌な予感がした。

「時間が切れたら、人形の使ったエネルギーは身代わりになった人から回収されるンゴ。つまり、ましかはちゃんと今日一日仕事したくらいの疲れがあとからちゃんとついてくるンゴ」

 それは、このヒーローごっこをした疲れの上にいつもの疲れが加算されると言うことか。

「聞いてないわよ!明日も仕事なのにどうすんのよ!」

「い、今言ったンゴ!」

 ましかはヒガミンゴを蹴り上げた。

 ヒガミンゴは星になった。


 

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冒走戦隊ヒガムンジャー 澁澤 初飴 @azbora

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