新宿天才通り

 新宿駅の駅前で俺は歌を歌い続けていた。俺の夢は、自分の歌で多くの人を感動させること。でも、それはできないんじゃないかと今は自信を失っている。


「また、アイツかよ。あんな自分に酔いまくったクサイ曲なんて歌うやつが売れるわけがないだろう?」


 通行人の一人が、本音を打ち明けて目の前を通り過ぎる。そう、俺は素人から見ても分かるくらい歌詞のセンスが無いのだ。作曲の自信はあるのに、自分が伝えたいメッセージを書き起こすと、どうしても聞いてて恥ずかしくなるようなものになってしまう。このまま、俺はこうやって誰からも認められないままなのかな………。自信喪失でギターをしまおうとすると、緑髪の少女が俺の手を止めた。


「待ってよ。まだ君が歌い始めてから、五分も経ってないのにもう帰るの? せっかく来たんだから、もうちょっと歌っていけばいいのに」


「そんなこと言ったって、俺の歌はダサいんだからいくら歌っても意味が無いんだよ。そう……、どうせ何をしようが無駄なんだ……」


「ああ、そう……。じゃ、それなら私が歌うからそのギター貸してよ」


 は? 何を言ってるんだ? と俺は訝しみながらも、少女の言う通りギターを得渡した。すると、予想外のことが起きる。少女は俺が弾いていた曲のコードをいとも簡単にコピーしていた。そのくせ、歌詞は俺の書いた意味を受け取りながら、婉曲的な表現を使うことで芸術性が上がっている。同じ曲のはずなのに、周囲からは歓声が上がり始めていた。



「貴方の曲は、これだけ多くの人を感動させる力があるの。どう? 私と一緒に音楽を創ってみない?」


 一曲弾き終わった後に、少女は軽く微笑んで俺を見る。緑色の明るい髪は俺にとって新緑のような希望を感じさせた。

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