1時間即興小説

アルパカ世界征服

 あるぱか。文字に起こすと不思議でなんとなくかわいい雰囲気すらも感じてしまう。だが、勘違いはしないほうが良い。これはそんな生やさしいものなんかじゃ断じてないんだから。


「なあ、一年前は俺達もまだまともに暮らしてたんだよな。まさか、その時はこんなことになるなんて思いもよらなかった……」


「違うわ、残念だけどちょうど一年前はあの事件が起きた日だから、一年前の今頃は大変なことになっていたはずよ……」


「そっかぁ……、あの日からもうそんなに経つなんてな。奏が消えたのもちょうどあの日だったか……」


「言わないで、奏が消えたのは全く意味不明だって警察も匙をなげたのよ。あの子のことを考えたってもう苦しいだけ。今は、私とあなたが生き残るだけで十分、それで十分よ……」


 夫婦二人で深刻でとびきり暗いため息をつく。自分の人生の何十分の一かは知らないが、俺の大事な時間は侵食されてしまった。いや、俺だけじゃない。妻の雪も娘の奏も町のみんなもそして世界中の人類も全員の暮らしが変わってしまった。そう、すべてはアイツらのせいだ。


「もうそろそろ正午だから、放送を見ないといけないんでしょうね……。きっとまた頭が痛くなって気持ち悪くなるだけの内容なんでしょうけど……」


「逆らうことは許されないからな。とりあえずテレビをつけておこう」


 ため息交じりにテレビの電源を入れると、画面には白いもこもこがいっぱいに現れた。そう、俺達人類はアルパカに支配された。信じられないかもしれないが、地球上の覇権はアルパカが握り、今や生態系のピラミッドの頂点はあいつらになってしまったのだ。


「地球上のすべてのアルパカとそしてクソ人類の皆様。ごきげんよう。本日はとても良き日です。一年前のちょうどこの日我々は神々から力をもらい受け、この地球を蝕んでいたヒトという害獣を支配下に置くことに成功いたしました。そして我々は授かった力を徐々に強めて、どんどん使いこなせるようになっています。今日は久しぶりの式典ということでお見せすることに致しましょう」


 そういうと大きい白アルパカは喋ることを止め、口をもぐもぐと動かし始める。アイツらは高度な知能と最強の武器を手に入れた。人類はそのためにビクビクとおびえながら暮らし続けているのだ。とりあえず、今日俺と雪が死にませんように……。俺と雪はただただ祈り続ける。そして準備が整ったのか、アルパカは大きく口を開けて汚いゲップをした。



 途端、画面は強く発光し激しい閃光が画面を満たす。そして引きのカメラに映像が切り替わると、その閃光は棒状になって上空へと進んでいく。そして問題の対象地点だが、今回は南太平洋の島国だったらしい。5秒程度で予測のルートが出された後、また映像が切り替わり、その島々を移す衛星カメラからの視点になった。そしてそこからわずか3秒で棒状の閃光が到着し、海の大陸棚ごとその島国は消滅してしまった。だが、こんなことはここ一年間で何回も起こったことだ。もはや怖くもなんともないし、ましてや自分の命が救われたのだから安心して頬を緩めてしまう。俺と雪は映像を確認すると、抱き合って生を実感したのだった。




 一方そのころ、アルパカサイド。

「いやぁ、今回も成功でしたなぁ。力もどんどんと精錬されて行って、同じアルパカとしてこれ以上ない誉であります」


「まだまだ、こんなのおこちゃまレベルですよ。我々に力を与え下さった方々からすれば、この程度の力で落ち着いてしまうのは良くない、つまらないと判断されかねません。私達はかわいさと強さを兼ね備えた生物の最上位にならなくてはいけないのです。でなければ……、私達もいつせん滅されるのか分からないのですから……」


 我々アルパカの群れに占領されたホワイトハウス。ここでは今回、大きな出来事が起こる。人類なんかに関することではなく、あの神のような圧倒的な方々がここに来られるのだ。丁重に対応しなければいけない。そんなことを考えていると、急にやかんのような金を少しひねったような形状の乗り物が姿を現す。到着しなさった……。我々が長い足を丁寧に曲げてお辞儀すると主はその姿を現した。


「やあ、君たち元気ですか。相変わらず可愛さは変わらないみたいですが、強さの方はどうでしょう?」


 日本人の女子高生のような姿をした宇宙生物様は、もふもふとした毛を触りながら、丁寧な口調で語り掛ける。会見をし、とびきりの力を見せつけた私は畏まりながら、モニターに数時間前の映像を見せた。


「ほう……、なかなか強くなりましたね……。でもこれじゃ、ゲップが汚くてかわいさにかけますね……。こんなんじゃ、こんなんじゃ……………」


 女子高生は少し爪を噛む。そして腹立ちまぎれに隣のもふもふなアルパカを軽く叩いた。その瞬間、肉がえぐれ、見るに堪えない死体に変わる。ホワイトハウスも一部が崩れ、振動で建物どころか地盤自体が揺れていた。


「申し訳ありません! 次は注意いたしますので! 今回はどうかお許しを……」


「次は無いですからね……。かわいさと強さの両立は私がここに来てからの悲願なのです。まぁ、もともと宇宙寄生生物だった私の意見だけならば、今回のようなものでも許されるんでしょうが……。この体がかわいくないものを受け付けないのです。わがままだと思われるかもしれませんが……」


「いえ、滅相もありません! 我々は貴方様からもらった恩を返すために必死で働かせていただきます!」


「ありがとうございます……。それより、日本から荷物は届きましたか? もうそろそろ例のものがないと私の心と体が壊れてしまいそうなのですが……」


「はい! 届いております! こちら、日本からの品になります」


 私は、日本からのアルパカをモチーフにしたあるくんとぱかくんという名のキャラクターグッズを大量に渡す。すると我々の主はとびっきりの笑顔を見せた。我々がこんな風に過ごしていられるのは、宇宙生物だった主がかわいいアルパカが好きな体を手に入れたおかげ。本当に感謝しなければならないな。我々は大きくお辞儀をする。目の前のアルパカの可愛い視線に我々の主である奏様はまた素直で最高の笑顔を見せたのだった。

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真砂絹の極短編集 真砂絹 @ranjarini2

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