メイド食堂

 俺は最近近所にできたメイド食堂に来ていた。新規開店のメイド食堂には、オタクのような陰気な客だらけ。……もちろん俺自身もそうなのだが、メイドに群がる同族に俺は嫌悪感すら抱き始めていた。


「えーっと、ご主人様? 聞いていらっしゃいますか? ご主人様からご注文いただかないと、私達もご準備できないんです……」


 気が付くと、一人のメイドさんが立っていた。レースたっぷりのドレススタイルに、少し気弱そうな優しい目、そしてあまりしゃべり慣れていない敬語。なるほど………、この店はゆるふわ属性のメイドさんなんだな。確かに新規オープンで対応をミスしても、こんな可愛らしいメイドさんなら許してしまうかもしれない。なんとも、この店の主人は経営が上手そうだ。俺は心底感心しながら、メイドさんから手渡されたメニュー表を見る。


 サバの味噌煮定食に豚の生姜焼き定食……。一般的なメイドカフェのような品ぞろえではなく、あくまで食堂のラインナップといった感じか。メイド系ではオムライスか、チェキ付きのドリンクばかり頼んでいたから、少し迷ってしまう。とりあえず、一番大きく書かれているサバの味噌煮にでもするか……。俺は静かにメニュー表を指さすと、メイドさんは仰々しく礼をして、バタバタと厨房へと駆けこんでいった。


「おまたせしましたーー!! こちらサバの味噌煮定食でございます! ご主人様、どうか楽しんでいってくださいね?」


 

 五分後。俺の目の前にはなんともおいしそうな品々が並んでいた。驚いた。サバは骨まで煮込まれていて、味噌だれも宝石のような光沢を放っている。そして、ごはん、みそ汁、漬物に至るまで全てが一級品のような完成度に見えた。でも、問題は味だ。箸を伸ばすまでの俺は確かにそう思っていた。しかし、その疑問も簡単に打ち崩される。俺はあまりの美味しさに五分も立たないうちに完食してしまっていた。


 マジで、旨すぎた。普通にメイドさんを見るのを忘れるくらい、旨かった。なんか、メイドってこの店に要らなくないか。店主はやっぱり経営戦略を見直したほうが良いぞ。そんなことを考えながら、俺は意気揚々とレジに行く。また明日、いや数時間後にはまた来よう。そんなことを考えていると、


「では、お会計1500円になりますぅ! では、またのご帰宅をお待ちしております!!」


 高………。なるほど、価格はメイド喫茶相場か……。やっぱり、来るのは月一くらいにしよう……。俺は少しだけ現実に嫌気がさしながら、静かに店を後にしたのだった。

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