第3話 木島先輩の部屋

 そうこうしながら平戸大橋から約一時間をかけて大塔にある木島先輩の家に着いた。

 木島先輩は、家族の家とは別の離れに自分の部屋を持っていて、そこに由真は案内された。木島先輩がどこかへではなく、何故、由真を自分の部屋に連れてきたかは由真にも分かっていたが、先輩とならいいかとも思っていた。

 木島先輩の 部屋は意外と片づいていて、テレビとテーブル、少し広めのベッドが置いてあった。テーブルには灰皿があり、たばこの吸い殻が二本だけあった。由真はわざと挑発するように木島先輩が窓を開け、空気を入れ替えながらエアコンのスイッチを入れる間にベットに座った。木島先輩は、それを見るとまだ完全には空気を入れ替えぬまま窓とカーテンを閉め、由真の隣に座って腕を肩に回してきた。由真は内心やっぱり来たかと思ったがドキドキで心臓ががはりさけそうになるのをこらえながら木島先輩の手を払いのけ、気持ちとは裏腹に「いや、ダメ」と木島先輩から離れた。

 木島先輩は、バツが悪そうにテーブルにつきタバコに火をつけた。

「ごめん、そんな軽い女じゃなかったんやね。直ぐにやらせてくれるのかと思った」由真は、そう言われてそんな風に見られていたのかとがっかりしたが、本当にまだ経験はなかった。

木島先輩は、そう言って一口か二口吸うとタバコを灰皿に置き「飲み物取って来る」と部屋を出て母屋へ入って行った。

一人、部屋に残された由真はまだドキドキが止まらないでいた。恋してるんだとも思った。膝をたててテーブルについて、タバコの煙を眺めながら、こんなん、おいしいのかと思いつつ、そっと指でつまみ、口にくわえてみた。煙を吸ったか吸わないくらいに部屋のドアが開いて木島先輩が麦茶を持って帰って来た。

「あっ、タバコ吸うとか?」

「いいえ、まさか、私、真面目で通ってるんですよ」 由真は、本当にタバコはこれまで一度も口にしたことはなかった。

「初めつか? 美味しくないやろ? おいも飾りで吸いおるだけぞ」

「いや、吸ってないです。くわえただけ」由真は慌てて否定した。

「まあ、そう慌つんなさい。吸うてよかぞ。まあ、そん前に麦茶、飲めさい。こいしかなかったし」木島先輩は、コップに麦茶を注いで由真に渡した。

――やっぱり優しい。

「ねえ、名前なんて言うと?  下の名前」由真は麦茶を飲みながら尋ねた。

「あっ、そうか、言うとらんやったね。なつき、夏に希望の希」

「へぇ、夏希か、かっこよかねぇ」

「由真も可愛かやっか」

「可愛ゆうなかけどね」

 由真は、こんな危険な恋に走り始めた自分は可愛くない。ヤンチャだぞと言う意味も込めて返事をした。

「可愛かやっか。裕美と一緒ん時、会って可愛かなあと思っとった」

 夏希はそう言いながらまた由真に近づいて来て肩に手をかけた。今度は由真も成り行きに任せることにした。

 二人はベッドに腰掛けたままお互い向き合って抱き合った。そしてキスをした。由真のドキドキは最高潮に達していた。夏希は、背中に手を回し、ワンピースのホックを外し始めた。

――ほらやっぱり来た。由真は、ドキドキしながらも冷静に予想通りの展開に覚悟を決めた。由真は、ワンピースを脱がされ、水色の水着になっていた。夏希は更に肩紐をほどいて遂に由真の白く若い胸、腕や脚のような日焼けの小麦色を免れた純粋で勢いのある小さめの胸が現れた。

その時である。

「なんやこりゃ?」ベッドの上にドサドサっと落ちた砂をみて夏希が叫んだ。由真の水着と胸の谷間や乳の下の間に潜んでいた根獅子海水浴場の白い砂が一気に落ちたのである。由真にも予想外の出来事で、砂があることに全然気づいていなかった。

「お前、面白れぇ、気にいった。付き合うぞ。よかろ?」

「うん」

 ムードはすっかり壊れてしまったが夏希らしい求愛に由真は、それだけ返事をして再びキスをした。

 由真は、こうやって木島先輩、夏希と付き合うことになった。由真にとってはこの危険な恋が生まれて初めての交際であり、社会人になるまで付き合うことになったが、夏希の独占欲による嫉妬や度重なる浮気に愛想をつかし、とうとう別れてしまった。

その頃、既に店で働いていたが、それから以降は、店で若い男性に出逢うことはあっても、ときめくことはなく、恋愛感情を持つことはなくなっていた。夏希との恋愛生活を思い出しては、 酷かったなあ。なんであんな男と付き合ってたんだろう と言いつつもあの頃の刺激を懐かしがる由真だった。

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