第21話 記憶 ―――水瀬風香

私は水瀬風香。

大好きな彼氏に浮気をされ、しかも、その相手が親友だったなんて…

最初は「そんな事ない、たまたまだよ」って自分に言い聞かせていたけれど、流石にホテルから出て来るのを目撃したら、冷静な気持ちなんてどこかへ行っちゃって。

どうして、ホテルから出て来たのを見れたのか?

それはね、彼氏の親友が教えてくれたんだよね。

純平君って言って、私も学生時代から知ってて、仲良かった人。

「この二人が怪しい」って、ずっと思っていたらしくてね。

その現場を見て、私は彼氏に別れを切り出したの。

理由?

そんなのは、何でも良かったから「別に好きな人が出来たから」って言ったのかな?

言うだけ言って、すぐに私は帰ったけどね。

その日の夜、夢を見たんだよね。

思い出したくない過去の夢を。その夢は、小学二年の時に、友達を見捨てて逃げ出した出来事。

今でも、その日の事は鮮明に覚えている。

かくれんぼしている時、くるみちゃんが居なくなっちゃって。

「助けて」って声がする方へ行くと、井戸の中に落ちていてね。

私も、一緒に遊んでいた祥子も怖くなっちゃって、その場から逃げる様に離れちゃって。

助けを呼べば良かったんだけど、親とかに怒られたくないから、祥子と「二人で遊んでいた」って、口合わせをしたんだよね。

その後、親や警察にも聞かれたけど、祥子と嘘を付き続けてね。いつしか、嘘が現実になった様な錯覚がして、暫くすると記憶からも薄まってね。


彼氏と別れて3日過ぎた頃だったかな?久し振りにあんな夢を見たから、あの場所に何十年振りかに行ってみたんだよね。家からもすぐ近くだし。

近いけど、敢えて近付こうとしていなかった曰く付きの場所。

久し振りに丘の上まで上がると、くるみちゃんの姿が神社の横に見えたから、目の錯覚かな?と思って、何度か瞬きをしたんだけど、それでも姿がはっきりと変わらず見えていてね。

怖いけど、気が付いたら近付いていたの。きっと、導かれたのかなって…

「風香ちゃん、久し振りね。ずっと一人で怖かったよ」

確かに、そう聞こえた。

私は、急に怖くなって逃げ出そうとしたけど、金縛りになって動けなくなっちゃって。気が付いたら、くるみちゃんが私に触れて来てね。

「一緒になろうよ」

その時、脳裏にくるみちゃんの苦しみや怨み、そして、あの日から今日までの出来事が伝わって来てね。

このままじゃ取り入れられちゃうって思ったから、くるみちゃんと話をして、交渉をしてみたの。

だって、くるみちゃんは、私を利用しる目的で憑依したいみたいだけど、逆に私が利用して上げたんだ。実体を持たないくるみちゃんより、実体のある私の方が何かと便利だし都合が良いからね…

ま、実体の有無なんか関係はないけど、私主体の方が何かと良いしね。

車の運転も出来るし、必要であれば祥子達を呼び出す事も可能だし。でも、そんな事はしない方法でみんな殺しちゃったけど。


祥子の家の火事、あれは私が火を付けたの。

そして、焼き焦げた家で純平君を首吊らせたのは私。くるみちゃんが誰かを操って、成増家で手に入れた禁忌のお札を使って、そうする様に仕向けたの。一種の遠隔操作が出来て、言われた通りに実行するって言う呪術の一つね。

その後は、大好きな彼氏を殺したの。

入院先の高崎北総合病院、二階と三階の間にある踊り場で。特に意味も理由もないけど、何となく両目を抉り取って上げたの。

あんなに大好きだったのに、この手で殺したの…

裏切られた怨みも、これで半分は晴れたから気分が良かったわ。

そして、最後は彼氏の浮気相手と、その旦那と家族を皆殺しにしたのよね。

祥子の時と同様に火事で。

あの警官達によって、井戸が掘り起こされると知った。

だから、私は行く事にした。

彼等と丘の上の神社で対峙し、全てを告白しようと決めていたの。

伝える事も、聞く事も大切だから。

私は、全てを告白した。彼等は全ての真実を知った。




後一人で全てが終わる。全て、私の計算通りに事は進んでいる。

何一つ、誤算などもなく。

私の描いた完璧なシナリオも、もうすぐにフィナーレを迎えるでしょう…

最後の夜が訪れた。

とても穏やかな気温に包まれた静かな夜。

「ねぇ、くるみちゃん」

「なぁに?」

「新しい器は見つかってるからね」

「あの子でしょ?」

「うん、だから、何とか誘き寄せるからね」

「お願いね」


私は、体内にいるくるみちゃんとの自問自答を終えると、護嶺神社へと向かった。


まだ、理性は残っている。

冷静にシナリオ通りになる様に思考を巡らせ、彼等をあの場所へ誘き出す術を考えて、それを言葉にして伝えた。


―――赤い橋で待つ。


その前に、邪魔者が一人いるから、どうにかしなきゃね…


護嶺神社に到着した男女の内、私が欲しいのは女の子の方。

この子は、穢れのない純粋な子。

この場所に来る様に、実は私が仕向けていたの。

あの警官を利用して。

そう、禁忌のお札で操ってね。

もう少しで、赤い橋に到着する頃ね。

最後に警官を操ろう。

あの女の子が一人でここに来る様に仕向ける様に…

私は、思考を巡らせ、どうやってここへ向かわせるかを考えた。


どうやら彼等を乗せた車が到着した様だ。

三人が車から降りるのも確認した。

「くるみちゃん、大丈夫だからね。もうすぐだから…」

私は、赤い橋の近くに聳え立つ木々の間に身を潜め隠れている。

ここにいても何も始まらない。

ゆっくりと私は赤い橋へと向かった。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る