第14話 防犯カメラ ―――高部 陽介
2022年 5月3日
続きまして、5月2日の午前2時頃に、高崎市で起きた火事のニュースをお伝えします。高崎市浜尻町の一軒家で、4人が死亡しました。
警視庁は、放火の疑いがあるとみて、火事の原因を調べています。
この火事によって亡くなったのは、
小林秀美さん(72)
小林正美さん(47)
木村敦司さん(24)
木村宏美さん(24)
普段は、秀美さんと正美さんの二人暮らしでしたが、ここ最近は結婚した娘の宏美さんと旦那の敦司さんが頻繁に訪れていたと、近隣の方がおっしゃっていました。
現場からは以上です。
「おい、高部!どうなってるんだ?本当に放火なのか?」
怒鳴り口調で、友人の太田直人が電話で聞いて来た。まだ、捜査中って事もあり、詳しくは解らない状況だが、放火の疑いもあると思うが、それにしても出来過ぎた話にもなってしまう。
そもそも、あの件に関わっている人間が、次々と亡くなっているのも事実。
そうなると、次のターゲットは、俺か?それとも…
太田に、状況説明をしていると、後輩の山中に肩を叩かれ、一枚のメモを渡された。
近隣に設置されている防犯カメラに、不審な女が写っていたと。
「太田、また後で掛け直す。それから、お前も妹も気を付ける様に」そう言って電話を切ると、山中に映像を見せろと言った。
山中は、俺より2歳年下の後輩で、気は利く男だけど、何でお前みたいな奴が警察に?と、思わせる様な軟弱な体型と、弱々しい表情をしている。
この仕事、向いて無いんじゃないか?と、何度も思ったが、それでも俺にとっては相方でもあり、こいつの頭の良さは認めているから面倒を見ている。
山中と二人で防犯カメラを見ると、明らかにおかしな女が映像に写っていた。
最新のカメラだろうか、映像はカラーで写し出された。
現場である家から数十メートルの場所に設置されていたカメラには、髪が長くて、赤い服装の女が写っていたが、どうも動きがおかしい。
カメラに気付いているのか、その場所を行ったり来たり繰り返し、突然、カメラの前で立ち止まった。
何か言っているのだろうか?口元が微かに動いて見える。俺は、山中に指示を出し、その場面をアップにして貰った。
『○○○○○○○?』
何を言っているのか解らなかったが、口元の動きで、七文字の言葉を発しているかの様に思えたが、音声がない為、確信は持てない。
山中は、口の動きをメモを取っている。
その言葉を発した後、その女はゆっくりと歩き出し、画面からいなくなった。
やはり、何かがおかしい…
「山中、この映像をDVDにダビング出来るか?」
山中は、満面の笑みを浮かべて「勿論です」と、自信満々に答えた。数分でダビングを終えると、俺達は現場付近へと聞き込みへ行く事にした。
ちょうど、防犯カメラの場所に来ると、中野 明希人から電話が鳴った。普段なら、捜査中は電話には出ないけど、今日は違った。
何故なら、中野 明希人もあの件に関わっている人物だから。山中には、近隣への聞き込みを頼み、俺は車の中で電話に出た。
「高部さん、火事って宏美さんの家でしょ?涼太さんといい、宏美さん達といい、やっぱおかしくない?」何か、怯えている様な声と感じた。
「宏美さんのお宅だよ。それで、このままでは君にも危険が及ぶかも知れないから、今からメールする番号に電話して、そいつと一緒にいて貰って良いかな?今夜、みんなで会おう」そう告げて、中野に太田の連絡先を送り、太田には中野と言う男から電話が来るから合流してと、メールを送った。
昨夜、この場所に不審な女がいた。そして、この防犯カメラに写り込んでいた。まだ、そいつが犯人とは確信はないけど、それ以外の人間があの時間にここを通っていなかった。この防犯カメラを背にして、右に行けば宏美の家。しかし、あの女は左へといなくなった。
そうなると、犯行は不可能か?この道を通らない限り、家には行けないのだから。
いや、それなら放火した後なら可能だ。
しかし、左からやって来て、左へといなくなった。つまり、右には行っていないと言う事になる。他に、家に行く方法は?
住宅街の脇を入って突き当りの家が宏美の家で、そこに行く方法は別にはない。
ないのなら、作れば良いだけの話。
あらゆる可能性を考えてみた。
防犯カメラを搔い潜って隣接の住宅の庭を辿って行く方法もあると思い、一軒一軒の庭を確認したが、そんな事が出来そうにもない。
1メートルはあるであろうブロックの塀の上り下りが必須だ。そうなれば、物音で気付かれる可能性も生じる。
そんな馬鹿な事をする犯人はいない。
暫くその場で考えていると、聞き込みに行った山中が戻って来た。
どうやら成果はない様だ。
それもそうだ、そんな事は初めから解り切っていた事。
ポケットから煙草を取り出し、口に咥えながら山中に質問をしてみた。
こんな馬鹿らしい質問を、あついはどう答えるんだろう、そう思いながら。
「なぁ、幽霊っていると思うか?」
山中は即答だった。
「非科学的な質問ですね。何だか先輩らしくない質問ですが、僕はいると思いますよ、見た事はありませんけど」
言い終えると同時に、右手の人差し指で掛けている眼鏡を上に押し上げた。
「この前、ここの近所でも火事があったし、そこで自殺した子もいたろ?後、何日か前に、○○病院で怪死した子もいたし…」
「はい」
「その全ての人物に共通点があるんだよ。偶然ではなく、必然的な。こう言う話は、お前としてはどう思う?」
「実に興味深い話です。それに、僕は資料を見ただけですから、詳しい内情は存じていませんが、僕が尊敬する人の言葉で『根拠のない事実から目を逸らすな、真実は手の届く範囲にある』と言っていました」
『根拠のない事実から目を逸らすな、真実は手の届く範囲にある』か…
確かに、その通りだなと思った。やっぱ、山中の頭脳や知識は、俺や他の警官にはないものを持っているから、こいつには全てを話しても良いかと思った。
ただ、一方的に喋るのではなく、まずは、山中が聞きたいか聞きたくないかの選択肢を与えなければいけないけれど。
それを聞いた事で、巻き込む形になってしまうから、全ては山中に決めさせよう。
「ちょっと、聞いて貰いたい話があるから、移動するぞ」
そう言って、俺はエンジンを掛けて車を走らせた。
ちょっと遅い昼食を摂りながら、俺は山中に質問をした。
「これから話す事を、聞きたいか、聞きたくないか。例の火事や自殺にも関わる話だから、お前が決めてくれれば良い。もう俺は関わってしまっているんだけど…」
山中は真剣な眼差しで俺をジーっと見て即答した。
「聞きます。是非、聞かせて下さい。尊敬する先輩の為に、協力がしたいです」
その言葉を聞いて、俺は全てを山中に話した。
俺の話を聞きながら、山中は何も言わずにメモを取り、聞いている。
何も疑わないのか、こんな信憑性のない話を。
全てを言い終えると、何一つ疑う事なく、一緒に解決しましょう、そう言って来た。
目の前のチャーハンを一気に口へ運ぶと、山中から思わぬ事を言われた。
その話とは、この事件に直接的な関係性はないけれど、近隣の住民が何かに対して恐れていると言う内容。ここ何日か、この地区で火事とか自殺もだけど、交通事故や小さな事件や不可解な怪奇現象が多発していると言う。
交通事故は解るけど、事件って何だ?そんな話、警察には届が来ていないぞ?
その内容は、花壇に植えられている花を何者かが全て抜き取ったり、近所にある公園のブランコが誰もいないのに揺れていたりと、事件性があるものも、不可解な怪奇現象的な事まで、最近は増えていると聞いたと言う。
中には、着物姿の女の子が、ぬいぐるみを抱いて歩いていたとか、写真を撮ったら心霊写真みたいなのが撮れたとか…
こう言う話が、後を絶たないと噂らしい。
ただ、その話も、一部の場所に集中しているらしく、怖いもの見たさで物好きな大人や子供が、その場所に最近はよく出没していると言う。
その場所とは、例の丘の上にある神社周辺。
俺と山中は、すぐに現場へと戻り、先程聞き込みをした人にもう一度話を聞かせて貰おうと思い、車を走らせた。
一軒一軒、話を聞いた家を訪ね直した。中には、涼太や宏美達と同級生だと言う人もいて、色んな話を聞く事が出来たのだが、一つだけ気になる話を聞けた。
その話をしてくれたのは、二人の同級生の堀口と言う男。
「俺さ、涼太が死んだのを知らなかったんだけど、あいつが死んだって聞いた日の夜に、神社の階段で蹲っているのを見たんだよ。で、話し掛けたら無視して歩いてどこかに行っちゃってさ…で、何か気になって後姿を写真撮ったんだけど、あいつの体が透けててさ…」
そう言うと、スマホで撮った写真を見せてくれた。
確かに、背格好や髪形は涼太そのものだったが、確かに体が透けて見える。
「警察にこんな話をしても、信じて貰えないと思うけど、俺の話は本当ですよ?ほら、写真の日付を見れば納得でしょ?」
スマホを操作し、日付を出すと、確かに涼太が亡くなった二日後の日付が記載されていた。その写真を貰えないかと、頼むと快くメールで送ってくれた。
その写真を、すぐに太田へと送信した。
一言、鑑定を頼むとメッセージを添えて。
聞き込みを終えると、一度署へと戻ったが、太田達と会う予定があったから、雑用をさっさと終わらせて外へ出る。
俺を追い掛けて山中が来ると、一緒に行きたいと申し出された。断る理由などなかったから、俺の車に乗せて、待ち合わせのファミレスへと向かった。
ファミレスには、先に太田と、太田の妹、中野が到着していた。
俺は、三人に山中を紹介すると、すぐに本題へと話を進める。
さっきの写真だけど、あれは涼太さんで間違いないと思う、と中野が言う。
それに二人は同意した。勿論、俺も涼太だと確信していたのだけど、そうなると話がおかしな方向へと行ってしまう。
山中がその話に割り込んで来た。
「この際だから、その場所へ行ってみたらどうでしょうか?」
『根拠のない事実から目を逸らすな、真実は手の届く範囲にある』
山中が言った言葉が頭に浮かんだ。
確かに、目を逸らしたままじゃ、何も始まらない。何事にも、全ては行動あるのみ。その提案に俺は賛成する。
みんなが賛成する形となり、俺達は例の場所へ行く事となったのだ…
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