第33話 第二回信長ちゃんねる生配信 その3


「では続いての者にまいりまする」



『どうやったら彼女が作れますか?』



「人は作れぬわ」


「やや、さすがは殿。つづいてはこちら」



『本当にアキちゃんやファンたちに謝らないつもりですか?』



「まだ詫びろと申す者がおるのかしつこいのう。こやつ何話目の話をしておる?そもそもあきちゃんって誰じゃ?もうよい、次」


「仰るとおりでござる。この者は河馬並みの頭じゃ。では続いての者にまいりまする」



『たわけって言ってくださいw』



「黙れ。次」


「ははっ。どんどんまいります」



『信長様大好きです。私を叱ってください』



「黙れ。次」


「痺れますなぁ。つづいてはこちら」


「猿。真面目にやらぬか」


「やややっ!大変失礼仕りました。それがし真面目にやっておるつもりでしたが殿が答えるまでもない文ばかり選んでしもうた。されど、なお機会を与えてくれる殿に……」


「猿っ!!」


「ひぃーすみませぬ!では続いての者にまいりまする」



『戦争はなんでなくならないの?』



「……どういうことじゃ次郎?この世では戦はなくなったと聞いておったが」


「あ、信長様。俺は日本で戦がなくなったって事を言ったつもりでした。実は他の国、世界ではまだ戦争はなくなっていないんです」


「なるほどのう。変だと思ったわ。この世に戦がなくなったと聞いた時は半ば信じられなかったが、やはりそういうことか。人は争いなくしては生きていけぬからな」


「信長様…今なんて言いましたか?人は争いなしでは生きていけない?信長様とはいえ言っていいことと悪いことがあります。戦争がこの世からなくなることはない、とかは偉そうな学者なんかが言ってそうですけど、いくらなんでも信長様のその言い方は…」


「仮に人が争いをやめることができたのであれば、それはもう人ではない。人がこれからも存在し人が人で有り続ける以上、戦はなくならぬ」


 信長、悲しいよ。そんな事言わないでくれ。


「次郎、そして皆のもの。なぜ戦は起こるのか。なぜ人は争うのか……考えたことはあるか?」


「そんなのわかりませんよ!どうして信長様はいつも厳しいことばかり言うんですか…」


「逃げるな次郎。考えるのじゃ。これを観ておる者たちもよく考えろ」


 頭の悪い政治家が私利私欲のためだけに勝手に火種を作って争ってるようにしか思えない。そして、なんの罪もない国民が巻き込まれていく。それが戦争。なのに争いがないと人は生きていけないっていう信長の考えは絶対おかしい。認めたくない。


「どうじゃ。わかったか?」


「……いえ」


「ふん、まあよい。ところで次郎よ。お主の野望はなんじゃ?」


「……は?いや、急になんですか。戦争の話は?まあ…んー野望。それはもちろんトップYoutuberになること……ですかね」


「どうやったらなれる?」


「そりゃあ動画たくさん撮っていっぱい観てもらって登録者数増やしていけば近づけるんじゃないですかね」


「お主がやろうとしていることは戦と何ら変わらん」


「は?え、どういうことですか?」


「ゆうちゅーぶのいただきには何人いける?」


「……一人ですけど。でも俺は別に一番になりたいとかそんなんじゃないです」


「同じじゃ。頂きを目指す。それは他者がおって初めて成立する。そやつらと争い、勝ち取ることでお主の野望は叶う」


「違います!」


「お主はただ見えていないだけ。勉学もそう。点数というもので他者と競い、勝者となることで喜べるのが人。では蹴鞠けまりなどの遊びはどうじゃ?これも同じ。他者よりも稼ぎたい。うまくありたい。強く、そして賢くありたい。この、他者よりも特別でありたいという感情は人特有のものであり、それがなくならぬ限り争いはなくならぬ」


「……言っている意味はわかります。でも、争いなくして人は生きていけないというのはどう考えても無茶苦茶です」


「本当にそうか?人は必ず区別をしてしまう。尾張と甲斐。日本人と南蛮人。生活しておる場所や肌の色、言語や文化の違い。人は同じではないというだけで分別し分ける。この区別をなくした世界というのが仏の世であると坊主は言うが……次郎、それの何が面白い?皆、同じ顔。同じ商いで同じ額の金を稼ぎ、内面や性別までもが全て同じ。こんな世を人が望むと思うか?お主はこのような世で人として生きていると言えるのか?」


「……そんなのわかりません。ただ、じゃあ信長様は戦争がなくならないから仕方がないって言いたいんですか?それって悲しすぎます」


「そうは言うておらぬ」


「え?」


「人は区別をするから争う。これが戦がなくならぬ本質じゃ。まずはそれを理解せよ。そして区別なき世では人は生きていけぬ。これもまた人の本質である。じゃが、儂にも道理がある」


「信長様の道理?」


「そうじゃ。お主の野望はゆうちゅーばーの頂に立つこと。競う相手はもちろんゆうちゅーばーであろう。であればこれは同じ土俵の上で起こる争いじゃ」


「同じ……土俵」


「武士は互いに死ぬ覚悟があった。だからいざという時刀を抜ける。じゃが刀を持たぬ者を切ることは言語道断。なぜならその者は同じ土俵におらぬから。争うのであれば同じ土俵に立つ者同士でやれというのが儂の道理である。人というのは同じ種族で争うという哀れな生き物であるが、そのおかげで文明を発展させたということも忘れてはならない。このゆうちゅーぶもそう。儂の世にはこんなものなかった。あきないを行っておる者同士が少しでも他者より良い物を作ろうと競いあった結果生まれたのであろう」


「言っている意味はわかります。いつの間にか誰かと比較しながら生きているとも思います。それでも……俺は戦争は反対です。諦めたくない」


「次郎よ。諦めろと誰が言った?」


「え?」


 だって、信長が争いはなくならないと言った。だから諦めろって。そうじゃないのか?





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