第34話 第二回信長ちゃんねる生配信 その4

「諦める必要はないんですか?」


「そうじゃ」


 人間は争いなくしては生きていけないと言った張本人が諦める必要ないだって?


「同じ土俵に立つ者同士であれば、争っても仕方がない。そこに立つ以上、それぞれが覚悟を持って相手に挑むがよい。じゃが儂は、争う気もない者たちを無理やり土俵の上に立たせる行為だけは許さぬ。上に立つ者がどんなに力があろうが、どれだけ偉かろうが、この道理から外れる者を儂は決して許しはせぬ。そして、お主らも絶対に許すな」


「それは……つまり戦争がそうですか?」


「全ての戦がそうだとは言わぬ。お主らは儂らの世の全ての者たちが戦に明け暮れておったように映っておるのかもな。じゃがそうではない。商人や農民は戦に直接巻き込まれることはなかった。女子供もそうじゃ。儂らの戦場には覚悟を持った者達しかおらなんだ。それは上に立つものも同様。死ぬのは誰とて怖い。が、それと引き換えに守りたいもの、得たいものがあった。これが儂ら同じ土俵の上に立つ者同士の道理じゃ」


 ……なるほど。


「じゃが、土俵に上がっておらぬ者まで巻き込んだ場合、それは戦でもなんでもない。ただの侵略である」


「侵略……ですか」


「そうじゃ。お主らはそれを絶対に許してはならぬ。儂らの世でもそのような人道から外れた者がおった。そのうちの一人はこの儂」


「え、信長様もその一人!?」


「人は過ちを起こすもの。じゃが儂の過ちは人道から外れておった。土俵に上がっておらぬ、戦に関係のない者までを巻き込んだ。許しを請うにもその者達はもうおらぬ。悔やんでも悔やみきれぬわ。だから、儂は……二度と外さぬ。そして、許さぬ」


「……」


「よいか皆のもの。よく聞け。戦争を許さぬなどと唱えたところで無駄じゃっ!!人は争う。争いは避けられぬ。じゃが、っ!!なんの理由わけで争っているのか、どちらが嘘か真か。先程も言ったがそんなものは儂らでは測れぬ。じゃが人道を外した者がおればそれは絶対悪じゃ。それをまずは理解せよ。そして、はっきりとその行為は許さぬと皆で申せっ!!声は矛となり数は盾となる。何を許さぬのかをはっきりと定め、皆で声をあげること。それが戦を減らす唯一の方法であると儂は思うておる」


 戦争はなくならない。そう言われると絶望したくなる。だけど、信長は示してくれた。戦争を許さないではなく、人道から外れた行為。つまり、戦争をする意思がない人たちを巻き込む事、これを絶対に許すな。と。今まで戦争は反対だと漠然と思っていただけだった。だけど、信長は人の本質、そして戦争の何が許されない行為なのかをはっきりと教えてくれた。


「早い話、上に立つ者同士が話し合いで折り合いがつかないのであれば、本人達で殴り合えばいい。それだけの戦、いや、喧嘩であれば民が騒ぐこともあるまい」


「確かに、それならおそらく誰も文句は言いませんね」


 多田野信長。または織田上総介信長。俺の目の前にいる男はただの思い込み野郎かそれとも戦国の世からの転生者なのか……。こんなこと思うこと自体、なんだかバカバカしくなってきた。そんなことはどうだっていい。こいつは俺にとって唯一の親友。信長だ。


「もうよいか?ちなみに儂は今日この後ばいとがあるのじゃ」


「え!そんなの早く言ってくださいよ。じゃあそろそろ終わりましょうか」


「お待ちくだされ殿、次郎殿。この者の文を見てくだされ。これは一体。もしや……」



『準備が整いました殿。それに秀吉殿。拙者も早う会いとうございまする』



「ほう……こやつ」


 送り主がMitchie 


これって、まさか。

お前なのか…?ミッチー。

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