第23話 魔王 TO 雪女

 私の聞き間違い……じゃないよね。信長さんは今約5000人以上がこの配信を観ている中で「雪女」って言った。詫びたい…つまり、私に?コメントがざわついている。


「儂は初めて会うた女を昨晩傷つけてしまった。思ったことを口にした。その方が伝わると思ったからじゃ。が、あの女は怒っておった。なぜ怒っていたのかは今でもわからぬ」


 嘘でしょ…。コメント欄に目をやると『あー昨日アキちゃんと最初に映っていた人じゃない?』と私が雪女だと勘づいている人もいる。そもそも大勢の前で話すような内容じゃない。っていうか……私が怒っていた理由がわからない?


 ……。


 今日の信長さんは昨日私が感じた印象とはちょっとだけ違う。確かに彼は嘘はついていないように見えるし、少しずつだけど彼の言葉の意味を理解できるようになった。この人は言葉足らずだけど、ただ自分に正直で真っ直ぐなだけなんだと思う。


「殿。雪女って誰なのかと、質問が来ておりまする」


「肌がきめ細かく雪のように白い。あれほど美しい者は久しく見ておらなんだ。じゃから、儂は雪女と呼んでおる」


 何よそれ……馬鹿じゃないの。

 そんなの……伝わるわけないでしょ。


「皆のもの、よう聞け。何度も言うが儂は珍獣やそやつに群がる烏合うごうの衆に詫びる気は一切ない。だからぬしらも儂を許す必要などない。好きにわめき好きに騒ぎたてるがよい。ただ、儂は雪女からは許してほしい。やつがこの配信を見ているとは思えぬ……が」


 ……。


「雪女よ。すまなかった」


 ……。


 どうして全く関係のない大勢が観ている中で、どうしてそんなに堂々と…あなたは頭を下げられるの。


「儂は気づかぬうちにお主を傷つけてしまっていたようじゃ。いずれまた会う時が来れば、その時は儂に怒っていた理由わけを聞かせては貰えぬか?」


 きっとはたから見れば信長さんは今、ただ土下座をしているように見えるのだろう。でも私の目には、この姿が誠実な一人の男性としてとても美しく映っていた。


 _______________________________


 その後も、秀吉さんが視聴者からの質問を拾い、信長さんがそれに答えるというやり取りは続いた。さっきあれほど誠実に映っていた信長さんの姿は観る影もなく、相変わらず過激な回答でコメント欄を炎上させている。


 それからあっという間に2時間が経過し、視聴者からの質問が少なくなってきた辺りで生配信は終了した。信長さんは宣言したとおり、最後までアキちゃんはもちろん、彼女のファンの方たちに対して謝罪をすることはなかった。


 ふと疑問に思う。信長さんはなんのために今回の配信をしたのだろう。最初はてっきりアキちゃんやそのファンの方に謝罪をするためかと思っていた。でも、信長さんはやっぱり昨日会った時のキャラのままで視聴者達に暴言を吐いていた。もちろん、配信者が視聴者と戦う構図というのは珍しいし、実際にコメント欄の中には信長さんのことを応援している人もチラホラいたぐらいだから、最初から視聴者と喧嘩することが目的だったかもしれない。


 でも、謝罪をする気はないと伝えるだけのためにわざわざ生配信をするだろうか。


 うーん……。


 ふふ。私何考えているんだろう。もう配信は終わったし彼と会うことはおそらくない。ただ、ひとつ心残りがあるとすれば……私は傷ついたんだよって正直に伝えておけばよかった。今更もう遅いんだけどね。


 さて、もう16時前か。朝からコーヒーしか飲んでいなかったんだっけ。そりゃあお腹が空くわけだ。


 あ……。


 そういえば……気になる人がいた。


 さっきのコメント欄に変なことを書いていた人がいたんだった。

変わった内容のコメントだったからどんなことが書かれていたかは覚えている。ただこのコメントを書いた人の名前が英語だったから今まで特に気にしていなかったんだ。確か……


 Mitchie


 最初はこのコメントなんか全く気にも留めていなかったのになんで今頃思い出したのか。……それは、昨日の信長さんとのやり取りを思い出していたからだ。正確には信長さんとのやり取りではなく、飲み会での出来事。

 

は言っていた。確かチャンネル名は……ミッチーチャンネルって。まさか…



 Mitchieミッチー 『殿……それに秀吉殿。やはりこの世にいらしたのですね。拙者も事を済ませ次第すぐにそちらへ向かいまする』



……いや。さすがに人違いか。
















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