第22話 魔王 VS 民 その4

「ふむ。皆よほど儂が詫びる姿を見たいようじゃな」


 信長さんが今から何を話すのか…。おそらく今この配信を観てる殆どの人はアキちゃんのファンなんだろう。コメント欄を見てもほとんどが信長さんからの謝罪を要求する内容ばかり。ここでまた何か問題発言をすればそれこそ大変よ信長さん。


「猿よ、もう一度今の者の文を読め」


「ははっ。畏まりました」



『アキちゃんを馬鹿にするということはアキちゃんを応援しているファンを馬鹿にするのと同じです。まずは私達に謝ってください』



「……なるほどのう」


 それから信長さんは少しの間沈黙した。どうしたんだろう。考えているのはわかるけど、それにしてもすごく長い沈黙のように思える。


「くっくっく」


 え?


「くっくっく………あーっはっはっはっはっは。いや、笑いを堪えるのを試してはみたが儂には無理であったわ。はーっはっは。」


 ……嘘でしょ。この人はなんで笑えるの?いくらなんでもこのタイミングで笑うのはまずいってことは私でもわかる。やっぱり……案の定コメント欄が大荒れしている。


「皆のもの、特に先程から詫びろとしか言っておらんうつけ者よ、よう聞け。ぬしらの道理は外れておる」


 やめて信長さん。これ以上はもうネットニュースじゃ済まない気がする。SNSでちょっとでも問題発言をした人に対して嫌がらせや悪戯は珍しくない。今はそんな時代なのよ。なのに……どうしてさらに刺激を与える発言をするの。


「詫びることはただの手段でしかない。また、ぬしらが要求するものでもない」


 え、手段?何を言っているの。


「詫びる……。儂の世では腹を切って詫びる者がおった。今の世ではそんな者はおらんのであろう。が、時代は違えど詫びる目的は皆同じ。それは許しを乞うために行うものである。許しを乞うてもう一度役目を全うする機会を得るため。腹を切ることで残された子達に機会を与えるため。詫びる行為とは、許してほしい相手がおって初めて成立するのじゃ」


 許してほしい相手がいて初めて成立する……。


「では聞こう。儂は誰に許してもらえばいいのじゃ?あの珍獣にか?それとも面も見たことのないおぬしらか?。仮に許してもらったとして珍獣から、或いはぬしらから儂はどんな機会を得ることができる?」


 誰に許してもらえばいいって……。確かに信長さんの言いたいことはわからなくもない。けど、それでももし自分が相手を傷つけたり悪いことをしたなって思ったらまずは謝るべきじゃないの。


「残念じゃが得るものはない。儂は珍獣やぬしらに許してほしいなどと思っておらぬ。ゆえに、詫びるつもりは毛頭ない」


「殿、今の殿のお言葉に対し、さらに多くの文が届いておりまする」


「ふん、読まずともよいわ。話にならぬ発言ばかりであろう」


「はっ。確かに。がしかし、中にはこのようなものも。これにはなんとお答えされまするか」



『自分が好きなものを馬鹿にされ、否定されると普通傷つきますよね?じゃあ許して貰う必要がない人であれば誰でも傷つけていいってことですか?』



 うん、いい質問。私もそう思う。信長さん、この質問についてはなんて答えるの?


「話をすり替えるでない。誰が傷つけてもいいと言った?儂は許しを乞う必要のない者にまで詫びる必要がないと言っておる。まあよい、許して貰う必要がない者を傷つけてもいいかどうか…じゃったな。人は時として意図せず傷つけることがある。……儂がそうじゃ」


 え……信長さん、自覚あったんだ。


「儂は学がない。ゆえに言葉足らずじゃ。知らぬうちに人を傷つけていることもよくある。傷つけないように話す術を儂は持ち合わせておらん」


 ………。あれ、なんだかコメントが静かになってきたような。


「では傷つけないように黙っておればよいのか?そんなわけがなかろう。黙っていては何を考えているのかわからぬ、相手に何も伝わらぬ。じゃから儂は思ったことは口に出す。それで傷つけたのであれば仕方がない。儂が意図せず傷つけてしまった場合、その者が儂にとって許しを得たい者であれば心から詫びる。許しを乞う相手は自ら選ぶ。ただそれだけのこと。にもかかわらず、ぬしらは何かあればすぐに謝れ、詫びろと要求してくる。貴様らは一体何様じゃ。儂がいつ貴様らに許しを乞うた?珍獣やぬしらの許しなど要らぬわ。」


 なんでかな、確かに信長さんの意見は極端で厳しいようにも聞こえる。だけど、なんだか少しずつ腑に落ちていっている気がする。おそらくこの感覚は私だけじゃないはず。コメントの中にも信長さんの意見に賛同している人が現れて来てる。


「もし儂が許しを乞うために詫びるとするならば……思い当たるのは一人。雪女じゃ」


 ……え。……今。……この人なんて言った?






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