第24話 計算外

 はあぁぁー。……やっと終わった。はっきり言って地獄だった。こんなに時間が経つのが遅いと感じたのはいつ以来だろう。学生時代の昼休み前の4限目の授業。このときも退屈と空腹で時計を見る度に思ったものだ。「この時計絶対壊れてる」と。


 今回の信長の配信はそれよりも長く感じた。実際に2時間程動画を回し続けたわけだから長く感じたのは当然だろう。だが、この配信が退屈だったわけではない。あまりにも過激で刺激が強すぎたのだ。信長が沈黙していても時計の針の音でより一層緊張感が増し、何かを話し始めたかと思えば視聴者に対する攻撃的な発言で俺の鼓動は加速した。このまま続けて大丈夫なのだろうか。何度中断を考えただろう。結局俺は見守ることしかできず、終始コメント欄は荒れに荒れた。


「殿、お役目ご苦労さまでございました」


「うむ、猿も次郎も大儀であった」


 大義……この配信が大義だって?


「信長様……大義ってどういう意味ですか?俺は戦国時代の人間ではないので言葉の意味はわかりません。それはただ、お疲れ様って言っているだけですか?それとも…」


「うつけめ。よくやった。と言えばわかるであろう」


「よく…やった?」


 我慢の限界だった


「どこがだよっ!!今回の配信のどこがよくやったって言ってるんだお前はっ!!」


「……」


「視聴者を煽るだけ煽って、しまいには配信中に雪さんへ謝罪?ふざけんなよっ!!」


「次郎殿、落ち着きなされ」


「うるさい。俺は二人を信じて動画を回し続けただけだ。一回目の大事な配信だったんだぞ。それなのに…」


 俺は何に怒ってるんだろう。信長の発言が過激なことなんて最初からわかってた。じゃあヒデのふざけた挨拶や質問?いや、違う。俺は……


「お主の非力さゆえにか。儂や猿の自由な発言、態度。それをお主は止めれなかった」


「……止めようとしました」


「が、できなかった。儂はお主に責務を全うしろと申したからじゃ。違うか?」


「……そうです。だけど…」


「それでよい。次郎、それでよいのじゃ。お主はすべきことはやった。それ以上は何も申すな」


「……」


 この時の信長はものすごく穏やかな顔で優しい目をしていた。


 ________________________________


 あの配信から2日が経った。俺はある数字を見て震えている。


 登録者数…11万1552人!?


 あの日の生配信は一切編集せずに動画を残している。その動画は12月26日に設立した「信長チャンネル」というチャンネルの一本目の動画として誰でも閲覧することができる。


 その動画の再生数は既に60万回再生を超えている……。


 確かに話題性はあった。あのタイミングで配信をしたのもその話題性に乗じて多くの視聴者が観てくれるだろうとある程度算段は立てていたからだ。それにしてもチャンネル登録者数がたったの2日で11万超え……はっきり言って異常だ。


 動画の再生数が伸びるのは想像がつく。それでもこんなにチャンネル登録をしてくれる人が現れるなんて思ってもみなかった。とてもじゃないが、あの内容は失敗だったと言わざるを得ない。コメント欄もアンチ(信長に対して否定的な)コメントで溢れていたはずだ。にもかかわらず……


 俺は気になってYoutubeを開いてみた。すると、あの日の配信動画の内容について俺の知らない誰かが解説をしている動画や、信長に対し物を申す動画などが数多く上がっていたのだ。


 この流れは……悪くない。今後の動画の内容次第ではこのチャンネル、相当化けるかもしれない。






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