第5話 再戦 桶狭間

 信長が考えた末に出した答えはYesだった。勢いでYoutubeを提案してみたものの、当の本人は案外乗り気だ。撮影や編集は俺が行う。ヒデはまだ混乱しているようだがまだ俺の推測は言わないほうがいいだろう。すまんヒデ。


「信長様、他にヒデに聞いておきたいことはありませんか?」


「うむ、ではない方の猿のことや金柑頭の居場所などについて聞いておきたかったが。どうやら無駄なようじゃな」


「今ヒデは混乱していますからね(怯えてもいます)。それにしても信長様。なぜ秀吉と光秀がこの世にいると思っているんですか?それに、それ以外にも武田信玄とか前田なんちゃらとか、有名な武将や家臣は他にも居そうな気がするんだけどなぜその二人なんです?」


「藤吉郎に十兵衞。どちらも信に値する者だからじゃ。それに二人はこの世におる。儂にはわかる。」


「は、はあ」


「いずれお前にもわかる時が来るわ」


 中身も見た目も多田野信長のはずなのになんだこの自信は。この男がそうやって言い切ると本当にそう思えてくるのが不思議だ。三十三歳のイタイおっさんには思えない。


「猿よ。もうよい。何か考え込んでいるようじゃが儂はもう帰るぞ」


「あ、は、はい。殿。またいつでもあ、遊びに来てください。じ、次郎くんも」


「ああ。ありがとうなヒデ。お前のおかげで色々と分かったよ」


「ぼ、ぼくは何もし、してないよ」


「こっちの話だ。信長様。行きましょうか」


 帰り道、俺は信長がYoutubeでどのような企画をするべきなのかを考えながら歩いていた。彼の個性を活かすのであればそのままの日常生活を撮るだけでも充分面白くなるだろう。俺のチャンネルの視聴者の層は高校生から大学生ぐらいが多い。織田信長が一体どんな人物なのか、俺よりも詳しいだろう。


「信長様、早速Youtubeについてなんですけど」


「次郎。その前に片付けることがある」


「はい?」


「義元じゃ。」


「え?」


「今川義元じゃ。ゆくぞ」


……え?


 _____________


 二人はまたあの日と同じ戦場へと舞い戻ってきた。俺は向かいのラーメン屋を見るだけでもあの日の恐怖が蘇るのに、信長はなんとも思わないのか?


「次郎っ何をボサっとしておる!!はようせいっ!!」


「は、はい!!」


 この日も打つのはもちろん「信長の野望」。この台はこの店に二台しかないのだが運良く一台だけ空いていたので信長だけが打つこととなり、俺は少し離れたところで彼を見守ることにした。なんでだろう。なんか…すごく嫌な予感がするんですが。


 信長は何の迷いもなくお金をサンドに入れ普通にパチンコを打ち始めた(なんで織田信長がパチンコの仕方を知って……いや。もうツッコむのはやめよう)。すると最初の1000円で熱い展開が来ているようだ。問題はリーチの発展先だ。


おいおい嘘だろ、こんなことって。


『桶狭間の戦い 今川義元を倒せば大当たり』


「来たか義元ぉおおおお!!!あの日の雪辱……今こそ…今こそ晴らしてくれるわぁぁぁああ!!!!!」


 ……。


 やばい…やばすぎる。こんなに離れているのにすごい声だ。尋常じゃないぐらいキレている。まさかの桶狭間の戦いリーチ。あの日最後に引いたリーチと同じものを最初のリーチで引いてくる信長の引きにも驚きだが、あの騒ぎっぷり、異常なキレ方、はっきり言ってドン引きだ。パチンコを打つと必ず一人はいるであろうイライラしてパチンコの台を叩くおじさん。怒って叩くのは良くないことだが叩きたくなる気持ちもわからなくもない。現に、信長の隣で打っているおじさんは明らかにイライラしており今にも台パンしそう。しかし仮にそのおじさんがキレたとしても、今の信長のキレ方には足元にも及ばないだろう。


「行くのだっ!そうじゃ!!今じゃあああっ!!!!敵はすぐそこにおるっ!!!!何をしておるっ!このうつけがあぁっ!!!かかれぇぇぇええええ!!!!!!」


 お、まさか


「義元の首ぃい獲ったぞぉぉおおおおおおおお!!!!!!」


 当たった。信長が座ってまだ3分も経っていない。よかったな信長。後は連チャンさせるだけ。うまくいけば前回の負けを取り戻せる……ん、待てよ。なんか…すごく嫌な予感がするんですが。


 『天下統一モード 突入』


 『斎藤道三を倒せば 天下統一モード継続』


「ど、道三じゃと。おのれ…おのれマムシめ。貴様、謀りおったなぁぁぁあああああ!!!!!!」


 ……。


「行くのだっ!そうじゃ!!今じゃあああっ!!!!敵はすぐそこにおるっ!!!!何をしておるっこのうつけがあぁっ!!!かかれぇぇぇええええ!!!!!!」


 『勝利〜』


「道三の首ぃい獲ったぞぉぉおおおおおおおお!!!!!!」


 『浅井長政を倒せば 天下統一モード継続』


「き、き、貴様もか。貴様もまた……儂を…この儂を裏切るかぁぁあっ!!!答えよぉぉ長政ぁぁぁあああっっ!!!」


 ……。


「二度目はないぞ長政ぁぁぁああああ!!そうじゃぁぁ今じゃぁああ全員かかれぇええええ!!!」


 『勝利〜』


「長政の首ぃい獲ったぞぉぉおおおおおおおお!!!!!!」


 『上杉謙信を倒せば 天下統一モード継続』


「け、謙信じゃとお!!??おのれえぇぇ越後の虎めが!!!儂に歯向かうとはいい度胸じゃぁああああっ!!!!」


 ……。

 _______________


 こうしていつの間にかギャラリーに囲まれた信長は順調に連チャン数を伸ばしていき、長年夢だった天下統一を成し遂げた。が、しかし


 ドンっ!!!


 ……嫌な予感というものは当たるものだ。がついに信長に牙をむく


「おい、兄ちゃん。お前、いい加減にしろよ。さっきからぎゃあぎゃあとうるせえんだよ」


「ん?なんじゃ貴様。儂に何か物を申したいようじゃな。よかろう」


 パチンコ台を叩き、立ち上がった隣のおじさんは信長よりも一回り大きい四十代ぐらいの大男だった。





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