第29話 最後の復讐、こうして断罪王妃は生まれた~終わりそして始まる~




 アザレアが「勇者」達を捕えて十の月が過ぎた頃、最後の罪人が赤ん坊を産んだ。

 だが――


「赤ん坊を育てようとしない、だと?」

「……」

「はい『お前の父親の所為でこんなことになったのになんで私が』というような事を言って赤ん坊に乱暴をしようとした為、赤ん坊と引き離しました」

「……エンレイさん、赤ん坊は何処にいますか」

「今、姉が保護し育てていますが――」

「……連れてきてください」

「リチア」

 アザレアはストレリチアの顔を見る。

 彼女の顔は、悲壮と憤怒、呆れに染まっていた。

「本当、どうしようもない聖女サマね」

 静かな声に、アザレアはぞくりとし笑みを浮かべた。


――ああ、何と美しい――

――どんな罪も許す聖人というのも悪くはないが、やはりヒトとしての形がある方が何倍も美しく、そして気高いことか――





 私は赤ん坊を抱いている。

 あの女と、あの男の子どもを。

 憎しみは無いが利用はさせてもらう。

 この子を育てようともしなかった、愚母に罰を与えるために。

 私から幸せを奪ったあの女に罰を与える為に。


 扉を開けると、そこにはあの女がいた。

「お久しぶりね聖女サマ?」

 皮肉を込めて言う。

「アンタ誰よ?」

 その言葉に少し面食らうも、私は愉快で笑みが浮かんできた。

「貴方に勇者サマという恋人を寝取られた女よ。ダチュラ」

「な……?! う、うそ?! なんでアンタがそんな綺麗な身なりをしてんのよ!! アンタここから私を出しなさいじゃないと――!!」

「貴方の国はとっくに貴方が虐げていた弟さんが統治しているし、貴方の事は好きなようにしていいって」

「な、何ですって!?」

「貴方の母親は向こうで、晒し者にされた上で処刑されたそうよ。良かったわね、ここにいて」

「い、いいから私を出しなさいよ!!」

「実はそれも考えていたんだけども……」

 嘘だ。

 考えて等いない。

 私は赤ん坊を見せた。

「貴方、この子をロクに育てようとしなかったじゃない、だから――」


「恩赦は無し。貴方も処刑することにしたわ」

 ダチュラの顔が真っ青になる。

「ち、違うのよ、違うの」

「何が? 監視役からしっかり聞いてるわ、この子に暴力迄ふるおうとしたと」

 ガタガタと震えているダチュラに私は微笑む。

「大丈夫、さらし者になんてしないし、殺さないわ」

 その言葉に安心した様に顔を上げた、ダチュラに告げる。

「快楽だけ欲しいなら、一生快楽だけ貪っていればいい、死ぬまで」

「え……」

 ダチュラが闇に飲まれていく。

「なにこれ?!」

「触手の苗床になってもらう」

 アザレア様が姿を現した。

「死ぬまで触手に犯され、触手の子を産み落とすと良い。死ぬまで」

「いや、いやよ!! ねぇ助けて!! 助けてストレリチア!!」

 今更私に助けを求めるなんて、頭がお花畑すぎる。

「嫌よ」

 そう言って私は赤ん坊を抱きかかえたまま独房を後にした。

 悲鳴が聞こえたが、気にしないことにした。


 その後、転移魔法で故郷の村にアザレア様と共に戻る。

 おばさんと、おじさんの家をたずねる。

「おばさん、おじさん、すみません。頼み事があるんです」

 一時期やつれていたおばさんは、いつもの優しいおばさんに戻っていた。

 おじさんも、同様。

「どうしたのリチアちゃん?」

「この子を……お願いします」

 そう言って、カインの子を渡す。

 カインそっくりの男のあかちゃんを。

「この子……まさか……?!」

「私とカインの子ではありません……カインと……ダチュラ……私から彼を寝取った女の間の子です」

 その言葉に、二人は安堵と落胆が混じった顔をした。

「どうか、大切に育ててください」

「だが……」

「お願いします、どうかどうかお願いします」

 私は頭を下げる。

「……分かった、リチアちゃんがそこまで言うんだ育てよう」

「貴方……」

「お願いします」

「リチアちゃん……」

 私はそう言っておばさん達の家を後にした。



 広場では――


「アザレア様?!」

「はっはっは、いやはや、この村の子は元気がよいなぁ!!」

 お忍びの服というのもあって、王様だと誰も気づいてないのか――否、子ども達は全く気付いておらず、大人たちだけはどうしたらいいか手出しができない状態でおろおろしている。

「リチアねーちゃん、この人がリチアねーちゃんのけっこんあいて?」

「そ、そうよ。私の旦那様よ」

「すっげぇんだぜこのひと!」

「とってもやさしいの!! わたしもこんなひととけっこんしたいなぁ……」

「あ、あははは……」

 苦笑し、何とか子どもらを引き離して私はアザレア様と共に城に転移魔法で大急ぎで帰った。


「何してるんですか!! 本当!!」

「何、暗殺者などはおらんし、別によかろう!!」

「親御さんたちの真っ青な顔を見ましたか!! アザレア様は王様というかもともと魔王と呼ばれてたんですからそこ忘れないでください!!」

「忘れていた!」

「偉そうに言わないでください!!」

 アザレア様の態度に私は頭が痛くなった。


――そうだ、この方はこういう方だった――


 ため息をするとじっとアザレア様が私を見つめている。

「な、何ですか?」

「いや、何。晴れ晴れとしているなと」

「……」

 アザレア様の言葉に私は無言になった。



 復讐は何も生まないと誰かが言った。

 いや、復讐は何かを生み出す。


 それで終わりにする復讐ならば――


 晴れ晴れと歩いて行ける事を。

 前を向けることを。



「リチア、良い顔をするようになったな」

 アザレア様にそう言われて、私は顔を赤くした。

 顔が熱い。


「さて、ではそろそろ次へと行こうか」

「な、何でしょう?」


 復讐以外に何かあったっけと考えたところ、アザレア様は口に出した。

「最初に其方に言ったであろう、各国の処遇についてだ」

「あ」

 すっかりと忘れていて、私は恥ずかしくて穴に入りたくなった。

「ふふ、其方も人の事が言えぬな」

「あううう……すみません」

「良い良い」

 アザレア様はそう言ってテーブルに地図を広げた。

「では、各国が我が国にした行為と現状について話そうか」

「――はい」

 私は静かに頷いた。





 アザレアはストレリチアを見ながら、静かに笑った。

 アカシアは一時期ストレリチアが狂気に走るのではないかと不安になっていたがそんなことはなかった。

 復讐を終えた彼女は冷静に国々への対応を考え口にしていたからだ。

 決して私情を挟まず、この国への対応からどう処分するかを口にしていた。


「……アザレア様」

「うむ、良い。では私がそれに少しだけ手を加えておこう」

「どのように?」

「我が民を苦しめた者は根絶やしにはせんが――」


「罪人扱いはせぬとな?」


 アザレアはにたりと笑った。





 嘗て、魔王と呼ばれた王がいた。

 魔族と呼ばれた種族がいた。

 けれどもそれらはもういない。

 魔王は全ての国を統治する王となり――魔族は善き者ヴァチュアという種族へと名前を変えた。


 全ては神アルストロメリアの加護を強く持つ乙女の手によって。


 ヴァチュアを排斥した物は罪人扱いになり、罰を受けた。

 また率先して魔王を滅ぼそうとしていた国々の長等は処刑された。

 それを決定づけた王妃は断罪王妃とヴァチュアに称えられた。


 ヴァチュアは、他の種族と共存することを望んだ。

 王はそれを命じた。



 今、苦難はあれども、少しずつヴァチュアは、魔族と呼ばれた種族は、他の種族は共存の道を選んで歩いている。





「アザレア様」

 アザレアは愛しい妻の声に目を開けた。

「どうしたリチア」

「私、とっても幸せです。こんなに幸せで良いのでしょうか?」

「良いのだ」

 アザレアは微笑み愛しい妻を抱きしめた。


「あの……アザレア様」

「どうした?」

「子どもを授かりました、アザレア様との御子を……」

「何?!」

 アザレアは飛び跳ねんばかりの勢いで驚いた。

「体は大丈夫か? 何かあったらすぐいうのだぞ?」

「ふふ、はい分かりました」



 一年と半年後、アザレアは女児を授かる事になった。

 愛しい妻ストレリチアに似ていて、自分の色をした可愛らしい赤ん坊を。



「ライラ、でどうだろうか」

「ええ、良い名前です。ライラ、貴方の名よ」

 すやすやと眠る赤ん坊を抱きながらストレリチアは赤ん坊に微笑む。

「いいこいいこ」

 アザレアは愛しい妻と子を抱きしめて微笑んだ。





 アザレア様との幸せな生活、愛しい我が子を抱いて私の復讐は終えました。

 彼らが手に入れられなかった幸せを手に入れられた事で漸く復讐は終わり。

 私は子育てに忙しいお母さんになります。


 兄は、ブルーベルと良い仲になりつつあって早く良い報告が聞きたいなぁと思っております。



「アザレア様」

「どうしたリチア?」

「私、幸せです」

「私もだよ、リチア」



 本当の意味で愛する人と結ばれて、私は幸せです。

 争いがなくなりつつある世界で、これから生まれてくる子らがどうか――

 幸せでありますように――












End

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私が断罪王妃になった理由~自称聖女サマに幼なじみ勇者を寝取られ仲間に裏切られたので離脱した結果「魔王」に見初められました~ ことはゆう(元藤咲一弥) @scarlet02

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