第28話 「元仲間」の現状と、罪人への罰




「――次に魔術師グローブ・アーバンですが、恋人と共にマテリナの木に取り込まさせ、毎日マテリナの木から体液を搾取され、栄養とされているようです。二人の栄養はマテリナの木に住んでいるテリバチが与えている為死ぬことはありません」

「マテリナの木か、触手に凌辱され続けているようなものだなこれは」

「マテリナの木……とは何か、役に立つのですか?」

「ああ、木の実が薬の材料になる。どんな薬にも使える、そのままでも使用できる便利なものだ」

「……」

「ただ、何かの生物を取り込まさせてさせておかないと木の実がつくのに一年掛かるが、取り込まさせておけば一晩で実がなる。これで病に苦しむ民が減るというものだ」

 ストレリチアはその言葉に嬉しそうにほほ笑んだ。

「苦しむ方が減るというのはとても良い事です……」

「そうだな。では次を」

「は!」


「次に神官、リヒテル・レゼルは両性具有に改造され、サキュバスとインキュバスの玩具となっています」

「両性具有に肉体を改造された上、サキュバスとインキュバスの玩具とは。人間の神官なら死に勝る屈辱であろうな」

「……玩具?」

「あー……」

 玩具の内容がストレリチアにはわからなかったようだ。

「――触手に犯されるのと同じと思え、玩具であり苗床だ。新しいサキュバスやインキュバスを孕むための、な」

「ああ、それなら――」


「潔癖症の神官様には、耐えられないでしょうね……」


 ストレリチアは暗い笑みを浮かべた。

 アザレアはその笑みにぞくりとした。

 復讐者の恍惚的な笑みは、ストレリチアは、蠱惑的な程に美しかったからだ。


「最後にカイン・ジュダスですが――」


「苗床となっております」

「……苗床、触手、ですか?」

「触手は触手でもキメラ触手の苗床だ」

「キメラ触手……?」

「魔族――いや、ヴァチュアを産む数少ない触手でな、産まれたヴァチュアは他の者達より強いのだ。まぁ私程ではないがな」

「……」

「我ら同胞の命を奪った命を償って貰おうというものだ」


「まぁ、発狂できんようだからこちらも快楽地獄で違いないがな」


 アザレアはそう言ってからストレリチアの表情が暗くなったのを理解した。

 その意味を。

「リチア、我が妻よ。其方には罪はあらず、其方はむやみに我らヴァチュアの命を取ろうとしなかった、それだけで良いのだ」

「ですが……」

「もし罪だと思うのなら、我が国の為につくしてくれ。私の事を支えてくれ」

「――はい」

 ストレリチアの顔から暗さは無くなり、真剣な顔つきになった。


――それでこそ、我が妻――


 アザレアは心の中で笑みを浮かべた。


「さて、其方と其方の兄を産んだだけの雌についてだが――其方の兄が来てから語り合おう」

「――はい」



「……本当最低な連中だ」

 到着し、城について事の次第を聞かされたアカシアは頭を抱えてそう呟いた。

 ストレリチアも暗い表情をしている。

「……さて、この者達全員をどうしたい?」

「――日の当たらぬ地の底で苦しみ続けて欲しい」

「リチア?!」

「闇の中で魔物に襲われる恐怖を味わいながら、ずっと、ずっと苦しめばいい」

「ふむ……さて、アカシア其方に何かないか?」

「いえ、私は思いつかなくて……リチア何故……?」

「――お父さんは暗闇の中で襲われて殺されたとアザレア様からお聞きしました。だからそれ以上の恐怖を味わってほしかった」

 アカシアの言葉にストレリチアがそう返すと、アカシアは少し口と目を閉ざしてから開けていった。

「私も、それを望みます」

「良かろう――エンレイ」

「畏まりました」

 そう言うとエンレイは立ち去った。


「さて、発狂もできず、恐怖に怯え続けるというのはどれほど恐ろしい罰だろうなぁ」


 アザレアが楽し気にそう言った。





「刑の執行を開始しました」

 私が望んでから二日後、父を殺した連中と、主導者一家、母だった女の刑が執行された。

「どのような刑ですか?」

「魔物の巣の最奥部から出られぬ術をかけた上で、日の当たらぬ其処で死ぬまで暮らす系だ、発狂もできんしな、食事も魔物につかまった時しか得られない。捕まれば悍ましい凌辱が待っている、さて、どうなるか」

 思わず笑みがこぼれた。

 晴れ晴れとするわけではないけれども――


 優しいお父さんを殺した連中が死ぬまで恐怖に怯え続けるなんて考えるだけで、父のかたきを討てたきがして心地が良かった。



 簡単に死なせてやるものか。

 生きろ、生き続けて――苦しみもがけ。



 そんな感情が私の心を支配する。

 はっと我に返ると、微笑むアザレア様がいた。

「アザレア、様」

「美しい、復讐心を満たされた其方もまた美しい」

「か、からかわないでください」

「誰がからかっているものか」

 恥ずかしいと思って、視線を逸らすと兄が複雑な表情をしていた。

「……兄さん?」

「いや、お前を変わったのが、良いのか悪いのか、分かんなくてな」

「……」

 兄の言葉はわかる。


 昔の私なら復讐など考えもしなかったからだ。

 けれども、今の私は復讐をためらわない。

 だって、地獄を見て欲しいから。


 私達が味わった、私の大切な人が味わった苦しみを、それ以上に味わってほしかった。


 裏切りがどれほど、人を変えるか、理解した。


 私を裏切った、私を捨てて置いて嘘をついて利用しようとした連中を――許しはしない。


 決して決して。





 復讐心によって変わったストレリチアは以前とは違う意味で美しかった。

 もちろん善意の塊であったストレリチアもアザレアにとっては美しかったが――。


 復讐という色を知った事で、より鮮やかになったという風に見えて美しかった。


 ただ、兄であるアカシアは妹の変化にまだついていけないようだった。


義兄上アカシアよ。其方と話がしたい」

「私と、ですか」

「うむ、リチア、少し席を外してくれ」

「はい」

 頷き、立ち上がり、会釈をしてさっていくストレリチアを見送ってから、アザレアはアカシアに問いかけた。

「其方は妹が恐ろしいか?」

「いえ! そんなことはありません!」

 アザレアの問いに、アカシアは即座に否定した。

「……では、問おう。変わったリチアが狂気に堕ちるのではないかと恐れてはいないか?」

「!!」

 どうやら、正解のようだった。

「安心せよ、ストレリチアは狂気には堕ちぬ。それだけの精神はもっている」

「ですが……」

「それに、復讐対象は現状あ奴らだけだ。その上、各国への処遇に関しては現在頭からすっかり抜けている様」

「あ」

 アカシアも、妹同様すっかり忘れていたようだった。

「ふふふ、本当其方ら兄妹はよく似ている。アカシアよ。我が義兄よ」

「な、なんでしょう?」

「妹と同様とまではいかぬ、お前ももっと怒り、そしてそれを私にぶつけて良いのだ」

「そ、そんな畏れ多い事は……」

「なら愚痴を私にぶつけるが良い、それなら良かろう?」

「は、はぁ……」

「今日は酒でも飲みかわしながら、話を聞こう」

「は、はい……」

 アザレアがそういうと、アカシアは恐縮したまま頷いた。



 その後、酔っぱらったアカシアが見事に愚痴を言い続けることになったのだが、その量がアザレアの想定以上だった為、アザレアは二度とアカシアに酒は飲ませまいと誓った。






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