第29話 大狼

狼エリアで順調に強化が進んだ。

次からエリアは鹿エリア、蝙蝠エリアと順に続く、今までの嵌めパターンは通用しなくなるだろうから、このエリアで戦力を上げられるだけ上げるのが正確だと思う。


後、残すは狼エリアの中心にある。すり鉢形の窪地だけ、高い濃度の魔力を感じるエリアで狼の魔力の格が上がっている。


慎重に偵察し、今俺が直に視察に来た。


大きさが普通の狼の倍、単独で休んで動かない狼がいた。俺の見た狼王の大きさは更に倍近く大きかった気がする。コイツは狼の上位種、もしかしたらネイムドの可能性がある。


何故この窪地を残したかと云うと、近寄る事にこのレベルの個体が必ず待ち構えているからだ。必ずだ、侵攻方向を遮る様に必ず上位種は、近づくと立ち上がり、威嚇して来る。そうすると狼の群れが集まってくるので、中々近づけず、周辺の探索を優先して、後回しにしている。


あの大狼は何匹いるのか?

一匹なら有難いがこの広い森からの侵攻を一匹だけで護りきれる訳がない。

この大狼が複数いて、連携して護られた場合、こちらの被害は甚大、もしくは全滅があり得る。


狼王はこの中心に必ずいる。俺は確信したが、踏み込めずにいた。


ゴブリンが九匹、俺、

内訳はスカウト 二匹

ソルジャー 二匹

副将 一匹

全て亜人に進化している。

残りは只のゴブリン 四匹


ゴブリン達の武器は俺の魔力でコーティングされた木の槍6本と予め持ってきた棍棒のみ、


あの大狼は、俺が仕留めるしかない、

それも出来るだけ迅速に、


覚悟を決めろ!


「ゴブイチ!!」

大声で副将を呼ぶ、覚悟は決まった。

マジックバックから俺の槍を出しゴブイチに差し出す。俺を見ながらしっかりとゴブイチが槍を握る。出し惜しみは無しだ。


「お前に後は任せた!」

互いの目を見つめ、後顧の憂いを断つ、確かに頷くゴブイチを見て、俺の槍から手を離した。


「行くぞ!」

俺は駆け出した。

作戦などない。行き当たりばったり、出たとこ勝負。

兎に角、迅速に大狼を始末する。


ゴブリン達も魔力で強化した俺の走る速度に、我武者羅に着いて来る。先頭は俺、一塊になって、

大狼に突っ込む!


俺達の気勢を察知し、睨みながら大狼は機敏に立ち上がり、先に遠吠えを上げようとする。


「させるか!」


俺は空に顔を上げた大狼の口に、


「魔弾」


バンッ!と口の中が破裂する。


口から血を流しながら大狼は後ろに飛んで距離を取る。口が裂けたがまだ軽症だ。力を溜める様に低く構え、唸り声を上げる。


大狼の目の前に魔法陣が現れ、一瞬で二匹の狼が飛び出して来た。


「オウ!」と声が聞こえ、ゴブシロウとゴブゴロウが前に出る。狼に槍を向け相手は俺達だと挑発すると左右に分かれ走り出した。


空いた隙に俺は飛び込み、大狼に肉薄する。大狼は血だらけの犬歯を剥き出し、噛み付いて来た。


右手の黒剣で受けるも押し込まれ、両手で黒剣を支えた。攻撃が封じられ、前足で叩かれるが、ホブゴブリンの棍棒に比べると耐えられる強さだ。噛み付きの圧が弱まったので、左手を離し、


『魔弾』『魔弾』『魔弾』


顔に『魔弾』を三発叩きつけてやった。

流石に丈夫な大狼はのけぞるだけだったが、黒剣を離してくれた。


至近距離、俺は気合を入れて大狼の喉仏に黒剣を当て、

『スラッシュ』と共に振り抜いた。

1メートルの衝撃波が毛皮の内部から放たれ、大狼の首を落とした。


熱い蒸気の様は魔力が俺を包み吸収される。大狼は消え魔石を回収した。


「こっち!」ゴブサンの声がする。


振り返るとゴブシロウとゴブゴロウは、問題無く一匹づつの狼を仕留めていた。


ゴブサンは右手の森を指差している。

援軍が駆けつけ来た。


ゴブニンも左手の森に援軍の気配を感じ声を出す。


ゴブイチが視線を送ると、ゴブシロウとゴブゴロウが右手の森に駆け出して行く、八匹の狼の敵影が見える。2人で何とかなる筈だ。


ゴブイチが左手の森を向くと九匹の狼が押し寄せて来るのが見えた。残ったゴブリン達は武器を構え、身を隠す。


ゴブイチが槍を振り回して威嚇する。


狼達はゴブイチに殺到して来るが、潜んでいた伏兵ゴブリンが一匹一殺する。残った狼三匹がゴブイチに強襲する。


「カッ!」真ん中の狼を気合いの籠った槍で突き刺し、右の狼にぶち当てる。左の狼の顎を真上に蹴り上げ、抜いた槍を頭に叩きつけた。右の狼が立ち上がる瞬間、投げ槍が狼の脇腹を刺し貫く。


暫くするとゴブシロウとゴブゴロウが魔石を抱え戻って来た。


勝敗は決した。








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る