第19話 セトの誘惑

そのころテーベではアテン信仰復活を恐れるアメン神官団が、アルウの事件のことを、ことさら大げさに吹聴し、アメン教徒を煽っていた。「アルウはオシリス神に邪神アテンを刻んで冒涜した」と。それを聞いた狂信的なアメン教徒の一派は、アルウのオシリスに対する冒涜を断罪すべきだと気勢をあげ、アルウの家族も同じ罪に問われるべきだと叫んだ。そしてもし法で裁けないのなら自分たちが神に代わって裁いてやると息巻いた。

 アルウと別れたティアは、捨て去られた都、アケトアテンにいた。ティアは隠れアテン信者のネットワークから、アビドスでの事件や、アルウの家族に身の危険が迫っていることを知ると酷く悲しみ激しく後悔した。

「みんなあたしのせいだわ」

 ティアは、アルウが罪を被り酷い刑を受けた後、ヌビアの金鉱に送られたと、従者から知らされると、罪の意識と後悔の念で胸が張り裂けそうになるほど悲しんだ。

「今は彼のお母様とムテムイアを助けなければ」

 いてもたってもいられなくなったティアは、最も信頼できる家臣ラモーゼに行く先を告げると、夜陰に紛れて船に乗りテーベのアルウの家に急いだ。

「アテン神様、どうかアルウと彼の家族を守って下さい」

 ティアを乗せた船は月明かりだけを頼りにナイルをひたすら流れに逆らって走り続ける。風にたなびく大きな白い帆。船は追い風に煽られ川面を滑るように走った。

 ティアは愛するアルウから離れたことを後悔し、自分の血と運命を呪った。

「あたしはアルウとの結婚の誓いを破り、彼の心を傷つけてしまった。そのうえ、あたしと関わったせいで彼は無実の罪を着せられ、遠い国の金鉱に連れて行かれ奴隷のような扱いを受けている。神よどうかこの身を滅ぼしたまえ」

 ティアの心は悲しみと自分を責める気持ちで切り刻まれ、血を流した。

 船は信じられないスピードで川を上り、深夜にはテーベに最も近い港に着いた。

 上陸すると、ティアの従者が馬車で待っていて、すぐにアルウの家に連れて行った。

 温かな優しい家族、明かりは灯っていない。二人とも寝ているのだろう。

「お母さま」

 夜の闇にティアの声が小さく響く。家に明かりが灯る。

「どなた?」

 ヘヌトミラの懐かしい声がした。

「お母様、ティアです」

 すぐに玄関のドアが開けられた。

「ティア」

 現れたヘヌトミラとムテムイアの顔は憔悴しきっていた。

「お話があるのです」

「アルウならもう帰ってこないわ」

 ヘヌトミラは涙を流した。

「どうして兄ちゃんを」

 ムテムイアが泣いた。

「あたしが悪いの」

 ティアはその場で死ねるなら死んでしまいたいと思った。

「ムテムイア、ティアを責めてはいけません」

 ヘヌトミラはそう言ってティアに頭を下げた。

「いいえ、お母様、悪いのはあたしです。どんな罰でも受けるつもりです」

「ティア、自分を責めないで。アルウのことは二人のこと。アルウが裁かれたことは、あなたのせいではないわ」

 ヘヌトミラはティアとムテムイアを抱きしめると、三人は暫くのあいだ涙を流した。

「お母さま、此処にいては命が危ないのです」

 ティアは焦った。

「なぜなの」

 ヘヌトミラはこれ以上の不幸には耐えられないと思った。

「事件を口実にアメン教徒の過激派がお母様とムテムイアを裁判にかけようとしています」

「ティア、もうあたしたちは、ここ以外に行くあてがないのです」

 ヘヌトミラは床に座り込んだ。

「大丈夫です、アルウの無実が証明されるまで、身を隠せる場所を用意しています」

「ティア……」

「お願いですから、あたしを信じてください」

 ヘヌトミラは暫くティアを見つめ、

「宜しくお願いします」

 とティアの提案を承諾した。

「馬車を待たせています」

 ティアは二人を馬車に乗せ、急ぎ港へ向かい、待たせていた船で無事テーベを脱出した。

「いったいこの船はどこに向かっているのですか」

「アケトアテンです。王宮は瓦礫の山なのですが、小さな職人の村が残っています」

 ティアは二人を隠れ家に案内したら、すぐにアルウの救出に出かけるつもりだった。彼を自由に出来るのなら命など少しも惜しいとは思わなかった。

 船は早朝アマルナに到着した。港にはラモーゼの部下が出迎えに来ていて、三人は馬車に乗って隠れ家に走った。


 セティ一世が凱旋したのはアルウの刑が確定しヌビアの鉱山に送り込まれて暫く後のことだった。アビドスで大神官からアルウの事件について報告を受けたセティ王は酷く失望した。さらにアビドスで王様に追い打ちをかける事件があった。王様が密かに寵愛していた神殿の巫女が大神官に情事を暴かれ、王様を庇うために自害したのだ。イシスに処女の誓いを立てた巫女は生涯神に身を捧げ、俗世から離れなければならない誓いを破ったからだった。うら若き巫女が子を身ごもっていただけに王様の悲しみは深く、その後王様がアビドスを訪れることは二度となかった。

 そのころヌビアの金鉱に連れてこられたアルウは、鉱山の中で最も危険な坑道に送り込まれていた。アルウは奴隷ではないので、もう少し安全な坑道に配置されるのだが、嫉妬深く執念深いコンスが、鉱山の現場監督にまで手を回していた。

 アルウが送り込まれた坑道はガスが溜まりやすく、過去に何度も爆発して落盤事故が起き多くの犠牲者をだした死の坑道だ。

 作業現場に送り込まれたアルウは、外の光にも新鮮な空気にも触れることは許されなかった。ひたすら地下の坑道を掘り進み、採掘された金を含む岩石を運ばされた。誰とも話すことも許されず、ただ黙々と作業することを強いられた。

「もうここに来て何日になるのだろう」

 アルウが考え事をしながら作業していると、

「囚人一〇一号! さっさと運べ!」

 すかさず監視の目が光った。

 アルウはこの鉱山では名前を剥奪され管理番号で呼ばれていた。

「はい」

 アルウは怯え早く石を運んだ。

 他の囚人や奴隷達も殆どが青白く痩せこけていて、毎日のように人が倒れ死んでいく。するとすぐに代わりが送り込まれ、また誰かが死んだ。

 夜なのか昼なのかわからないが、一日に一回だけ休ませてもらえる時間があった。

「今日はもういい。おまえは休め」

 体が痛くてもうこれ以上動けないと思ったとき監視がアルウを休ませた。

 坑道の中に少し広いスペースの洞穴があって、そこで囚人や奴隷達は休憩した。

 ゴツゴツした岩場に腰をおろすと、アルウは途端に眠気に襲われた。ここに来て初めの頃は、こん棒で打ち据えられた背中から腰にかけての辺りがとても痛く眠ることさえできなかったが、いまは痛みも腫れもようやくおさまった。

「眠たいのに眠れない。なにか食べたい」

 他の囚人はきちんと食事を配給されたが、アルウだけは僅かばかりの硬いパンと水が配られるだけだった。コンスの賄賂を受け取った監視がアルウを不当に扱っていたからだ。

「ネズミすらいないのか」

 アルウは岩場で動くものがあれば手当たり次第に口に入れた。それがなんなのかわからなかったが、お腹に入りさえすればなんでもよかった。

 ようやく眠りかけると今度は坑道を彷徨う亡霊たちがアルウの睡眠を妨げに来た。

「おまえもじきにこうなるのさ」

 亡霊は冷ややかに囁いた。

「消えろ! このクソやろう」

 大声で叫ぶと亡霊はせせら笑いながら姿を消した。

 寝ては悪夢に苦しみ、起きては過酷な現実がアルウを苦しめた。しかしどんなに苦しくても、どんなに辛くてもアルウは死にたいと思わなかった。

(必ず生きて帰り、俺を貶めた奴らに復讐してやる)

 憎悪と執念が彼を生かし復讐心が彼の希望となっていた。

 繰り返される暴力に体が怯えることがあっても、アルウの目は悪魔のように鋭く輝いた。その目はオシリスを激しく妬み、殺してはまた殺し、執拗にその体を切り刻んだセト神のようだった。

(なにがオシリスに愛されし者だ)

 アルウは吐き気を感じた。

(あの黄金のオシリスさえ見つからなければ、こんな酷い目にあうこともなかったのに)

 アルウはオシリスを憎んだ。信じる心が純粋で強かった分、裏切られたという思いは激しく、オシリスに対する憎しみは大きかった。

(オシリス、とんだ疫病神だ!)

 そう口にした瞬間、オシリスを信じる心が揺らいだ。すると彼の心のバランスは崩れた。不安は不安を呼び、不信は不信を呼んだ。心は荒み、心は暴れ狂った。自分の運命を憎んでも憎んでも憎みきれなかった。

(オシリスなんて信じた自分が愚かだった)

 アルウは子供時代の様々な不幸な事件を思い出した。辛いことばかりが思い出された。幸せなんて一つも思い出せなかった。

(殺してやる)

 アルウは母や妹を侮辱したパロイの家族を思い出しては殺気だった。

 祖父や自分を妬んで貶めたパネブとコンスの親子を殺したいと思った。

 憎しみと憎悪は激しさを増し、その怒りはエジプトという国家にまで及んだ。

(ティアは僕をすてた。でも彼女を追い詰めたのはこの国。エジプトという国家がティアを追い詰め苦しめた。そのせいで僕らは引き裂かれたんだ。オシリスが作ったこのエジプトという国家が諸悪の根源なんだ)

 アルウは心を閉ざした。すると神々の声はますます届かなくなった。彼の心の闇が極限にまで達したとき、闇の中を真っ黒な影が豹のように素早く走った。

「誰だ!」

 次の瞬間、目も眩むような光が広がりその中に邪悪な神の姿が現れた。

「我が息子よ。我が僕よ」

 光の中の神は、首から上が人間でもなく、獣でもなかった。

「あなたは」

「セト」

 アルウは咄嗟にひれ伏し、セト神を恐れた。

「顔を上げよ」

 アルウはセトを見上げた。

「お前の怒り、憎しみ、悲しみ、孤独、恐怖の心が私を呼んだのだ」

 セトの冷たく凍りつくような視線がアルウの心を貫いた。

「確かに俺が呼んだのかもしれない」

 アルウは頭を垂れた。

「恐れることはない。怒りや憎しみ、嫉妬の感情に素直になるのだ」

 魂と心に絡みつくようなセト神の声は、この世で最も邪悪な旋律を奏でた。

「我が息子よ、おまえの望みを叶えてやろう。さあ来るがよい」

 セトは両手を広げアルウに来いと目で促した。

 アルウの目がセトの凍り付くような青い目と合うと、

「俺を騙そうとしているんだろう」

 アルウは身震いし反射的に叫んだ。

「我に仕えよ」

 セトの凍り付くような青い目が笑った。

「……」

 アルウの中で天使と悪魔が激しく戦った。

「オシリス助けて!」

 アルウは悲鳴にも似た声を上げた。 

 その瞬間、光は消え、セトは魂に絡みつくような邪悪な笑い声を上げながら姿を消した。

 

 アルウがヌビアの金山で刑に服しているころ、テーベの王宮ではネフェルタリが父王セティ一世に、アルウの冤罪を証明するものがあると訴えていた。

「お父様。アルウの無罪を証明するものがあります」

「どこにあるのだね?」

「神官が保管しているはずです」

「どういう意味なのだ?」

「アテンが刻み込まれていたという、落下してきたオシリスの首から上の部分です」

「それはアルウが罪を犯したとされる証拠とされたものだが」

「いいえ、ちがいます」

「どうしてそう言い切れる」

「お父様。あたしはオシリス像の完成間近にアルウの工房に行きました」

「一人でいったのか」

「家臣を伴って」

「誰がおまえをアビドスまで連れて行ったのだ?」

「秘書官のイブイです。でもお父様、イブイを咎めないで下さい。あたしが命じたのです」

「おまえは本当に困った子だ」

 セティ王は深いため息をついた。

「アルウはオシリスの秘密をあたしに教えてくれました」

「オシリスの秘密?」

「あのオシリスは一塊の大理石から造ったのです。ですから十四個のパーツは全て同じ石材から出来ているのです。つまり十四個のパーツを組み立てると石の切り口は全て完璧に一致するです。石の結晶の流れも柄も何もかもが」

「つまり証拠として保管されているオシリスの首から上の部分は違う石というのだな」

「そうです。事故の直後あたしは兄のラムセスと一緒に落下してきたオシリスの頭部を見ました。ところがその頭部はアルウの工房で見た石材と違う石から出来ていたので不思議に思ったのです」

「やはりアルウは冤罪であったか」

「お父様もそう思われていたのですね」

「あの少年とはオシリス神の御縁で知り合ったのだ」

「本物のアテフ冠を被ったオシリス像の頭部が神殿のどこかに隠されているはずです」

「いやそうとはかぎらない。あの像がオシレイオンに運び込まれる前に頭の部分だけすり替えられたのなら、本物は砂漠のどこかに埋められているかもしれん」

「お父様、証拠として保管されているオシリス像の頭部の材質と、オシレイオンに残されたオシリス像の胴体の材質が違うことが確認できればアルウの無罪を証明できます」

 ネフェルタリは進み出て、大きな声で言った。

「わかった。すぐにイブイをアビドスに遣わそう」

「あたしもイブイと一緒に行っていいですか」

 王様は困った顔をして眉間に皺をよせたが、

「よかろう」

 そう言ってネフェルタリを優しく見つめ、すぐに秘書官のイブイを呼んだ。

「これからすぐにネフェルタリに従いアビドスへ行き、オシリス事件の再捜査をしてこい。アルウの無罪を証明するのだ」

「畏まりました。すぐにアビドスに行って参ります」

 イブイは跪き頭を下げた。

「お父様、アルウをすぐに釈放して下さらないのですか」

 ネフェルタリはアルウの身が心配でならなかった。

「わかっている。ヌビア方面の暴動鎮圧にラムセスが向かっているから彼に任せよう」

 王様は微笑んだ。

「お父様ありがとう!」

 大喜びしたネフェルタリは、王様の首に飛びついて頬にキスをした。


 アビドスの神殿ではセバヌフェルがアルウの冤罪を晴らそうと、独自の調査を続けていたが、保身に走る大神官や宗教警察から、勝手な動きをしないよう調査続行を断念させられていた。

「なぜ調べてはいけないのですか?」

 セバヌフェルは大神官ブテハメンにオシリス事件調査続行の許可を求めた。

「おまえは法廷を侮辱する気か」

 ブテハメンは憮然とした。

「いいえ、決してそのようなことはありません。しかし、どうしても引っ掛かることがあるのです」

「何がだ?」

「なぜアルウはわざとわかるように、アテンを刻んだのでしょうか?」

「思い上がっていたのだろう」

「アルウは決して自分で自分の首を絞めるような愚かなことはしません」

「セバヌフェル、いいかげんにしたまえ! 証拠があるのだ」

「その証拠が怪しいと王女様が仰っているのです」

「どこが怪しいというのだ」

「はい。ネフェルタリさまは、オシリス像奉納前にアルウの工房に行かれて、完成直後の像を見られたのです。その時見た石像はアテフ冠の先端には何もデザインされてはいなかったそうです」

「あとからアルウが刻んだのだろう」

「しかも、オシリス像の石材は一塊の大理石からなるので、十四個のパーツは全て同じ石材で出来ているのです。つまり、証拠とされたオシリス像の頭部の石材は、ネフェルタリさまがアルウの工房で見たオシリスの石材とは全く違う石材だと仰っていました」

「もう裁判は終わっているのだ」

「大神官さま、あなたは神に仕える人間ですか!」

「セバヌフェル! 出過ぎるな!」

 大神官ブテハメンは激怒した。

「いいか、おまえが密かにオシレイオンの水をアルウに差し入れしていたことは明らかに法に反することだ」

「わかりました。どんな罰でも受けますわ」

 セバヌフェルは死をも覚悟した。

「セバヌフェルに無期限の謹慎を申し渡す」

 ブテハメンは大きな声で宣告した。それからすぐに神殿警護官を呼んでセバヌフェルを神殿内の彼女の部屋に軟禁した。

 セバヌフェルを罰したものの、彼女の言葉が気になったブテハメンは崩壊したオシリスの組み立てを担当したマーネを呼びつけた。

「マーネ、コンスと一諸に調べて欲しいことがある」

「なんでしょうか?」

「崩壊したアルウのオシリス像だが、落下した頭部の石材と体の石材が、同じ石から出来ているか調べて欲しいのだ」

「今更なにを仰るのですか。あの事件の犯人はアルウだと裁判で判決が下されたではありませんか」

 マーネは激しく動揺した。

「王女様が違うと仰っているのだ」

 ブテハメンも蒸し返したくなかったが、照合しておかねばいずれ王宮から調査が入ると予感していた。

「畏まりました。では明日すぐにでも調査いたします」

 マーネは恭しくブテハメンに頭を下げ神殿を出た。日が暮れかかっていた。マーネは急いで帰ると、すぐに使いを走らせコンスを自分の屋敷に呼んだ。

「王女様がオシリスの石材の違いに気づいたらしい」

 マーネが激しく動揺しているのがわかる。

「まだ子供じゃねえか。同じだって強く言えば大人しくなるんじゃねえか」

 コンスも内心の動揺を隠しきれない。

「テーベからの噂じゃ、王女様が秘書官のイブイを伴って、オシリスの石材の違いを確認しにアビドスに向かっているそうだ」

 マーネはそう言うと、急ごうとコンスを促した。

 慌てた二人はすぐに従者を連れて神殿に向かった。夜のうちに偽物のオシリス頭部を、神殿内に隠している本物の頭部と入れ替えなければならない。

「裏口から入ろう」

 マーネが走る。

「衛兵に見つからないか」

 コンスが後から追いかける。

「安心しろ。衛兵にはたっぷり大麦を渡している」

「そうか、なら大丈夫だな」

 神殿裏の門に来ると、衛兵がすぐに門を開けマーネとコンスを手招きした。

「行くぞ」

 マーネが門をくぐると後に続いてコンスと従者達が走った。迷路のような回廊を走り五分ほどすると、偽のオシリス頭部が保管されている部屋に着いた。

「急ごう」

 コンスがその部屋の壁面の隠し扉を開けると、本物のオシリス頭部が現れた。マーネとコンスはいつでも証拠隠滅出来るように本物を同じ部屋に隠していたのだった。

「入れ替えるぞ」

 マーネとコンスは、従者五人に指示して本物のオシリス頭部を隠し部屋から運び出させると、証拠として保管されていた偽のオシリス頭部と入れ替えた。その際、コンスはアテフ冠の先端の丸い大理石に記憶をたどりながら、手際よくアテン神のレリーフを刻み込んだ。それから彼らは偽物を隠し部屋にしまい込んで秘密の扉を閉じた。

 翌日、マーネはブテハメンの部屋を訪れ、

「証拠のオシリス頭部は本物に間違いありません」

 と白々しく報告した。

「マーネ、ご苦労であった」

 ブテハメンは安堵すると同時に、王女とはいえ、まだ子供のネフェルタリに振り回されていることに腹が立った。

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