第15話 『不滅の騎士』再編成!

 窓の外から暖かい陽光が、放課後の部室に優しく射しこむ。春はそろそろ終わる時期であるがまだ桜の香りがするようにも感じ取る五月の上旬。

 ゲーム対戦部室、部員全員顔を揃わせて壇に立っている翔を見つめて。

「今日は、みんなに集めたのは……もう既にみんなが知っていると思うこと。僕の兄についての報告」

 みんなの目線に答え、翔はその目線を見回す。

「兄は今現在病院に眠っています。いつ、意識が戻るのかはわかりません。でも、僕たちはやらなくてはいけない事があると思います」

 唾を飲み、言葉を一度途切れる。

 ここまで来て、順調に来た。だから、ここで宣言すべきだ。

 勇気を振り絞り、翔はみんなの瞳を見つめる。

「この『K.T.大会』、僕たち『不滅の騎士』は優勝を狙いに行きます!」

 腹から出る声から宣言した。

「ポジションローテーションは使いません。勝つためなら、自分たちの得意な英雄を使うべきです。負けたくないです!今回は勝ちに行きます!兄さんのためにも。今後の『不滅の騎士』のためにも!」

 宣戦布告を宣告する。

 翔には兄が最初の会議で宣言してた、『負けに行く』事を撤回する。

 兄のために、兄の言い伝えを破る。矛盾をしている事は自分でも理解している。でも、『不滅の騎士』は大きな戦力を失った。戦力カリスマプレイヤー、大翔を失った。チームはまだ分裂しそうにもなった。だから、チームを統一するには優勝を狙うしかない。

 兄、大翔が作った『不滅の騎士』を世界に見せつけるためにはそうする事しかなかったのだ。

「私は賛成よ」

 最初に賛成したのは、チームの副リーダーである光だ。

「今回の大会。もう、単純で勝ちに行きましょう。ポジションローテーションはあとで特訓しましょう」

 いつも面倒くさそうで会議に無関心だった光は珍しく意見を放った。

 それに賛成を、翔の背中を押してくれたのだ。

「ガハハハ!そう来たか!」

 一定笑った陸はパチ!と陸は右手を左に殴る。

「いいだろう。この大会あいつのために勝とうじゃあねえか」

「陸さん」

 わかってくれたようにガハハと笑いながら答える陸に翔は輝きの眼差しを送る。

「私も賛成です」

 続いてのように軍師、圭太は静かに答え頷いた。

「いまは『不滅の騎士』は大きな戦力は失いました。ポジションローテーションの実験は不可能だと思います。残念ながら、我々の戦力ではまだポジションローテーションまでには至りません。勝算はかなり減るのでしょう。それに……私も勝ちたいです」

「圭太さん」

 賛成するように意見を主張する圭太に感謝の想いが強すぎて、言葉には足りない程に感謝する。

 宣言する前は、軍師である圭太が反対する恐れがあった。何しろ軍師だ。圭太は勝利より効率的の作を選ぶ可能性だってあった。

 でも、圭太は賛成した。効率的な作ではない、確実な勝利を選択した。

 残るのは……

「え?なんで?俺が最後になるっていうの!?」

 彰人はおろおろと手を振る。

 なぜなら、みんなの目線が彼に集中しているからだ。

 期待な目線なのか、全員は口を閉ざし同じ気持ちで彰人の主張を待つ。

 頭をぽりぽり、と掻き毟ってから眉間に皺を寄せる。

「いやだ……と言ったら空気読めないともいえるでしょうねえ。言うまでもない。俺はこれに賛成だ。だって、まだサポートの英雄を使い熟せないからな。それにこの大会に負けたら、リーダーに顔合わせられねえだろ?」

「彰人さん」

 仕方がないように答える彰人に翔は感謝する。

 いつもチームのムードメーカーであるが、彼の意見を尊重しているつもりだ。

 もし、彰人あるいはこの中に誰かが反対すれば翔はこの件をなかった事にしようとした。でも、全員は賛成した。

 なら、言うまでもない。

「次回の大会は全力で、自分たちの得意の英雄で行きたいと思います!」

 宣戦布告、全力で大会に立ち向かう。

 これぞ、翔が導いてた答えだ。優勝する事だった。

「早速作戦会議に入りたいと思います。これが僕たちのチーム構成です!」

 言葉を終わらせると、壇に立っている翔はパソコンから繋いだモニターの画面を映し出す。

「ふうん」「ほほう?」「ほう」「え?」

 それが掲示板に映し出すと、部員は様々なリアクションを見せる。

 無理もない、この作戦が勝利へ導く作戦。

 誰もが予想しない戦略が映し出されたのだ。

 次に対戦する相手、「GaGa」チームに勝利するにはこの方法しかない。


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 いくつかの眩しい光を放つスポットライトがステージに集中し差しだす。

 ステージでは、大きく双方に赤陣と青陣、左右に分かれている。各陣にはパソコンが並べられ、誰もがわかりやすい程の陣営。双方はこれから対戦をする。

 ステージの中央には双方のチームが起立している。片方の青い陣営は翔の『不滅の騎士』チームとその相手は対戦する『GaGa』チームだ。

 対面しながら火花を送らせ、光と鈴子はいがみ合っていた。

「逃げずにこの場に来たのは褒めてやるわ」

「逃げるわけないでしょう?大会なのよ?」

 光が言うと翔はステージの周りを見回す。

 観客席には観客が埋まっている。一か月前まで自分がその場に居たものが今はステージの上に立っている。不思議にも思える。

 観客以外にもカメラが何台も設置され、翔達を捉えている。大きなモニターにも映し出されている。

「約束、破らないでよね?」

 そんなことを気にせず鈴子は確認なようにもう一度訪ねるように遅い口調とほほほと笑いを上げる。

 彼女は余裕な表情で光を見つめている。自信があるのか、その態度を取っているのだろう。

「破らないわよ」

 はあ、と呆れたように息を吐き応答する光だった。

 こちらも勝気満々なのか、あるいは鈴子を相手に見ていないのかそう応える。

 対立している二人に、光の隣に立っている翔は二人の会話を横で聞くと違和感を感じる。

「……それ不公平じゃない?」

 その違和感をはっきりに口すると、二人は翔の顔を見つめる。

「不公平ですて?」

「だって、これじゃ一方だけの契約じゃない?」

 約束を思い返している翔。あの夜、もし鈴子が勝利したら光に家に戻ることを主張した。しかし、光が勝利した時に得るものはないこと。

「じゃ、じゃあ、私にどうすればいいのよ?」

「そうね、相応の対価としては『言うことをなんでもする』のはどうかしら?」

「はあ?」

 絶対にいやだ。と言うように鈴子は光の提案を拒んだ。

「あのー。それもちょっと不公平だと思う。久……光さん、なにか会う対価を求めましょう」

 翔も苦笑し危うく二人の苗字を呼ぼうとした。

 姉妹でいる限り名前で呼ぶことは決しておかしい事ではない。うん、おかしくない。

 緊張で光の名前を他人の前で語る翔だったが、表情を表さずに駆け引きの交渉をする。

「……私に願いはないわ。なら、翔、あなたが決めなさい」

「ええ!?嫌だよ!僕、何も知れないもん」

「……あはは」

 毛虫を見るように辛辣する鈴子の目線がものすごく痛い、だから苦笑いで答える事しか出来ない翔だった。

 ひどい有様だ。

 確かに自分は初心者だが、そこまで嫌われるものなんだろうか?

「あ……」 

 その手がある。これであれば問題ないだろう、

 と、途端に思いついた物を早速主張に出る。

「なら、鈴子さん。僕はあなたにして欲しい事があります」

「セフレになれ?はあ、私の妹に手を出すなんて、最低だわ」

「キモ」

「違いますよ!」

 声を合わせる姉妹を全力で突っ込む。

 実はこの二人は仲がいい姉妹ではないか、と翔は疑問を抱き始めるがいまはその事を置く。

 一度咳払いをし、もう一度思いついた事を確実に主張する。

「もし、僕たちが勝ったら。鈴子さん……僕と友達になってくれませんか?」

 強い口調で主張する。

 鈴子は「なっ!?あんたバカじゃない」と口をポカーンと開ける。

「あーあ。そうか、翔はこういうタイプな女性が好きなのねえ」

「違いますよ。ただの友達申請ですよ。それ以上でもそれ以外でもありません。ここは保証します」

「へえ、そうなんだ」

 回答を聞くと顔をそっぽに向き、翔の事を見ることなく語る光だった。

 なぜ、こうも怒られたのは不思議でしょうがない。

 友好関係を求めたのは、光のため。もう一度家族の仲を取り戻すのではないか、自分と大翔の関係のように、二人の間中間に自分が立てば二人の関係を取り戻せると思えたのだ。

『では、最初の試合!チーム『不滅の騎士』対チーム『GaGa』の対戦が行われる!各プレイヤーは自分の席についてください!』

 熱いテンションで告げるアナウンサーの声で全員は自分たちの席に向かっていく。

「あんたと友達なんてなりたくないわ!絶対に負けないから!」

「僕たちも負けるつもりはありません」

 最後に言葉を交わし、翔はステージの中央から離れ青い陣営へと向かう。

(……この試合絶対に勝つ!兄の為にも優勝して見せる!)

 翔は大きく拳を握りしめ、戦場へと向かう。電脳世界、神々が集う『G・O・F』 の仲へドライブする。勝利を得るために。


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『チーム『GaGa』は英雄の選択が終わった!なんと!今回注目する鈴子選手!なんと!今回使う英雄は『魔人バロール』だ!』

「やっぱり『魔人バロール』を選択したか……」

 実況者のアナウンスに翔はみんなの顔を合わせる。

 会議の時は鈴子が使いそうな「魔人バロール」も候補には出ていた。そして、一番厄介な相手と考慮した英雄だ。

 なぜなら、この英雄の必殺技は、

『「魔人バロール」、ウルト『バロールの魔眼』一体の英雄を即死させる、強力な英雄だ!』

 即死、だった。

 実況者が説明した通り、相手を即死させる。ダメージ関係なく。

 この概念はゲーム中でももっとも一番対処しにくいものだ。なぜなら、即死、だからだ。他の技であればダメージ計算、数字で処理されるが即死はそのことを関係なく英雄を倒すことだ。防御力を向上したり、『魔人バロール』の攻撃力を減少しても関係なく、倒される。

「作戦通りに行きなさい」

「あ……」

 それがどうした?みたいに光は翔の記憶を呼び覚ます。

「翔君。君の作戦で行きましょう。私もあの作を思いつくことはできませんでしたよ」

「おお!男前を見せてみろ」

「ここまで来てやってやろうぜ」

「みなさん……」

 チームの言葉に翔は勇気つけられる。

 一腹と呼吸を入れると、翔は目の前のモニターに集中する。

「はい!あの作戦通りに行きましょう!」

 選択した英雄を見つめる。

 対戦に後出しじゃんけんは存在しない。鈴子が『魔人バロール』を選んだ瞬間こちらも既に英雄は選択しているのだ。

『おっと!チーム『不滅の騎士』大翔選手のの弟、翔選手が選択したのは……なんと、サポートの『孔明』だ!』

 実況者がいつも通りの熱いテンションで放つと、向かい側から『なっ!?』と鈴子の声がしたような気がした。

 観客も同じく、ざわざわ、と声を上げる。感激の意味ではなく、その逆の方向を意味している。混乱がこの会場にざわついていた。

 その理由を翔はよく知っている。 

 なぜ、全員がこんなにざわつかせているのかを。

『英雄の中では、一番『最弱』と言われている『孔明』を選んだ翔選手!一体何を考えているのか!』

 最弱の英雄と言われている英雄を選らんだ。

 それは翔達以外には思わない行動を取ろうとしていたのだから。

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