第13話 反省会
「はい。何か弁明あるかしら?確かに、あなたに任せると言ったけれど、死ね、とは言ってない。相打ちになるなんて」
「でも、あの時はああするしか……」
「『森の精霊ヨーム』を倒して、撤退する選択肢はないの?」
「………ごめんなさい」
「反省の声がもっと大きな声で」
「ごめんなさい!何でもしますから胸を僕の頭に抑えないでくれません…!?ぐえ……!?」
翔の言葉を遮るように翔の頭は、水風船のようなものに押されていく。
座っている翔に光は後ろから胸を押し当て、全力で頭を抱きしめる、強力な力を使っていたのだ。
そして、彼女はヘッドロックし始めた。
(……く、苦しい)
など、翔は脳内で呟きながら苦しむ。降参をとるが、光は容赦することなく、力を増した。
弟が痛い目にあっているのを見て、そろそろやめさせようと声を描ける大翔だ。
「なあ、その辺にしてくれないか?俺の弟が本当に死ね」
「結構うらやましい……じゃなくて、翔君は頑張りましたよ。その辺にしてください」
虐待の光景が目に毒だったのか、大翔と彰人は止めるように助け船を出すが、どうやらパワーバランスが違っていたのだ。
「へえ!?このマンションから追い出されたいの?」
「「ごめんなさい!!」」
光の脅しにすぐにも尻尾を巻いて逃げた。
区悪な性格をしている彼女の事はよく知っている二人だ。彼女が語っている言葉は本気で実行する。
どうやら、翔のプレイが気に入らないらしい。どうも一人で突っ込むのは好きになれない。
だから、翔に説教しているのだ。
「まあ、でも、あの時はよくも二人を倒した。ここは褒めてやる。まさか、あの時にスキルの選択に間に合うとは思わなかったわ」
「あ、ありがとうございます」
「でも、死なない選択肢を考えなさい!」
「げえ……」
力が一瞬溶けたと思えば、またも強い衝撃は翔の頭を襲う。
すべき事は出来なく、残酷な光景を見つめているだけの二人に絵里子は慰めるように声を上げる。
このゲームにおいて死ぬことは時間をロストすること。
なるべく死なないことを選択するのが正しい戦い方なのだ。相討ちは正しい戦法ではない。愚人が選ぶ選択肢だ。
ダメージトレードをいかにも考慮しなければいけないことでもあった。
「光さん結構怒っているねー」
「まあ、いつもはぶっぎらぼうで無口な奴なんだけどさあ。ゲームに不満があるといつもこうなるんだよなー」
「そうかなー?私にしては少し違う方に見えるけど」
「どういう意味だ?絵里子?」
大翔は首を傾げながら、幼馴染を見つめる。
その彼女の瞳はどこか遠くを見つめているように、まるでその二人を見ているのに存在していない亡霊を見ている遠い目。
「なんだかなー。光さんが少し嬉しそうでね」
「嬉しそうか……」
「うん。なんだかなー。怒っているのに嬉しそうにしている。矛盾しているよねー」
男子二人は顔を見合わせる。絵里子の言葉に疑いを持った。
過去から久遠光という人間を長い付き合いしている自分たちには光が嬉し志うにする姿はあまり目にしていない。いつもはぶっきらぼうで不愛想でゲームの事であれば本気を出す、女性だった。
本当に絵里子が言うように嬉しく感じているのか?
「嬉しそうだなー」
絵里子は繰り返してその言葉を言う。
悲し気な目で、言葉をはずむ。
合宿最後の日の事だった。
「「ただいま」」
「お帰り兄者!」
二人が玄関を開くと犬のように尻尾を揺らすように走ってくる梨奈だった。
自分たちを待っていたのかのように嬉しそうな顔にしていた。この一週間の間は彼女をと連絡していなかった。
二人とも梨奈には悪いと思っているので、何かした対応をしないといけないと考えた二人は、あるお土産を買ってきた。
「そうだ、梨奈。お土産」
「わーい!」
兄たちの罪悪感に知らず、梨奈は喜んで袋を受け取る。
その中には、梨奈が好きそうなものが入っている。お土産にとっては定番な商品。
「あ!東〇バナナだ!」
「実は合宿場所は秋葉原だったけど、一番梨奈が好きそうな物はこれだと思って……」
「ありがとう!翔兄ちゃん!」
梨奈は目を輝かせてお土産を持ち上げてから廊下を走り出してた。ダイニングへ向かった。
本当に喜んでもらえてよかった。ずっと、遊んでいない梨奈にこれぐらいはして置かないといけない。
我ながら可愛い妹だと、翔は思った。
「梨奈のお土産、ありがとうな、翔」
「いいよ。これくらい」
家族のためにこれくらいはしてやらないと、自分がずっと引きこもりになり迷惑ばかりかけていた、せめての罪滅ぼしだ。
本来は大学に卒業して、家に仕送するはずなのに、こうもやすやすと引きこもった自分を許してくれる。なんだか、少し情けない気もする翔。
「なあ、翔」
「なんだい兄さん」
翔はバックを一旦廊下に置き、靴を脱ぎ廊下に踏んだ時だった。
後ろから大翔の声で翔は首を捻る。
「もし、お前がアメリカの留学をやめたり、部屋の引きこもりの事で気になってたなら、気にしなくていいぞ」
「兄さん?」
「父さんも母さんも気にしていない。お前がやりたい事をやって欲しいと思っているはずだ。無論、俺もそう思っている。だから、無理しなくていいんだぞ。」
その言葉一つ一つが大翔の想いが翔の心へと染み込む。
大翔の言葉で足が揺ら付き、なぜか涙が瞳に溜まる。
自分はこんなにも幸せだったのだ。兄に恵まれ、妹に恵まれ、親に恵まれ庇護されている。幸せがこんな近くにあった。
「ありがとう……兄さん。なんだか楽になったよ」
感謝を込めて、翔は俯く。
この涙を見せないように手で拭う。
「いいさ。俺はお前の兄貴だ。弟や妹を守るのは兄の役目だ」
「かっこつけちゃって」
「あともう一つ重要な話がある」
「なに?」
「「G・O・F」についてお前は強い。ただ、その才能が眠っているだけだ。いつかお前は俺より強くなれる。その時になったらチームリーダーを譲るさ」
ニヒヒ、と歯を見せた大翔をやっと見つめられた翔だった。
また大翔に救われた。ゲームの事もいい、家族の事もいい。自分はいつも兄に救われたばかりだ。何か彼らにお返しできるものはないかと、思ってしまう。
いつか兄みたいに強く、楽しくゲーム選手になりたらいいな。
「あっ!?」
感動している最中にいきなり驚愕を上げる大翔。
ひょっと、全ての感動を失い翔は瞳を丸くして聞いてみる。
「どうしたの兄さん?」
「いやー、買い物を忘れてさー。コンビニを寄ってから帰ろうと思たんけどそのまま帰ってきた」
「一緒に行こうか?」
「いや、俺一人でいいよ。お前はもう靴を脱いだんだし、大した物じゃないから大丈夫!」
そう言いながら、大翔は鞄だけ廊下に置きドアを開けた。
「じゃあ、行ってくるわ。バックを頼む」
「うん。行ってらっしゃい」
翔の言葉と共に扉から開かれる。
「おお!じゃあ、行ってきます!家のことは頼んだぞ!」
大翔はそう言い残し、玄関の外に出た。
そして、そっとパタン、と扉が占められる。
「………」
閉ざされた扉を見つめ、沈黙した。
なぜか、大翔の背中姿はなにか大きく見える。きっと、兄は自分が遠い場所にいるのだろう。どこか遠く、前に、自分が知らない場所にたどり着いたのだろう。
「さて、梨奈と一緒に夕飯作るか」
大翔のバックを持ち上げ、部屋に持って行こうとする。
今晩は久々の自宅での食事だ。ゆっくり、と味を堪能できるでしょう。
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