第12話 模擬戦

 カン、キン。

 金属音が鳴り響く。それと僅かの先に光が先立つ。

 大地は揺れ、木は切り落され、空気が乱れる。

 白銀の鎧の騎士は槍の穂先で目の前の敵、岩の胴体をした巨人を狙い打つ。

 しかし、敵も騎士の行動を読み取ったのか、手にしている金棒で立ち向かう。その交差の連続だった。

 槍の穂先の行動が素早く、巨人に突き刺す。

 だが、

「おら!どうした翔!そんなんじゃあ、俺の『巨人鬼丸』を倒せないぞ!」

「ち…!攻撃が通らない!」

 刺すあたりの一撃一撃が浅い。全く攻撃が通らないとても言っていい。

 白銀の騎士『光の神ルー』は押されている様子だった。巨人が金棒を振り下ろすとよけるのが精一杯、反逆するのは困難な状態。例え隙が出て攻撃しても相手へのダメージも与える事は出来ないのは翔は理解しているのだ。

 しかし、無理もない話。翔が特有している白銀の騎士『光の神ルー』のレベルは相手の『巨人鬼丸』のレベル差は3もある。だからと言ってここまで苦戦するはずはない。本来であれば互角までは行かないが少しの不利になるだけである。そこには理由がある。翔もその理由は知っている。

「陸、前に出過ぎるなよ。回復が間に合わない。この回復英雄使うのは初めてなんでね」

 これは一対一ではないからである。鬼丸の後方にはもう一体の英雄が姿を表している。樹木を覆った胴体をしている、まるで歩ける森を連鎖する姿。『森の精霊ヨーム』、味方に自然の樹木を宿らせ、回復と防御力を上げる。これを『巨人鬼丸』に組み合わせる事で鉄壁の状態になれるものだった。

「悪い。俺、突撃しか知らんのでね!ここでやつを仕留めるぞ!彰人!」

「やれやれ、圭太の苦労が分かった気がするよ。しかも、可愛くない英雄をやらせるなんてうちのリーダーもどうにかしている」

 愚痴を垂れ流すと、森は迫ってくる。巨人と同時に白銀の騎士へと迫ってくる。

 これは厳しい状況、翔はその事を理解している。レベル差もいい、数もいい、連携もいい、どれもこれも一人では負えない状況だ。ここで取るべき行動は一つ。

「……撤退します!」

 いまはミッド(中央)の交戦場、つまりマップのド真ん中。ここで選択肢は一つしか残されていない。簡単で迷う必要性もない選択肢。逃げ場も封鎖されていないいま、戦えないと判断したら逃げる事が賢明だ。

 白銀の騎士は大人しく、後方へと下がった。やがてタワーの周辺にまで下がる。

「おいおい。それでいいのか?お前が逃げたら、このミッドのタワーを壊せと言っているようなものだぞ?」

 鬼丸はその言葉通り、前へ進軍する。やがてタワーの攻撃領域に入る。タワーは入って来た敵を反撃する。魔法弾が放たれる。岩に命中するように、ボン、と音は鳴り響く。

 しかし、翔は見えている。その巨人の体力をまるで削れていない。

 きっと、スキル「鬼の鎧」、受けるダメージを一定に減らす、を使用して前へと進んできているのだろう。

「一割程度か。さすが、タンク」

 その焦りの裏腹に悠長に話す翔。この状況がどれ程危険かは理解している。ミッド、ここは戦略上としてゲームでは一番重要な場所だった。ミッドのタワーを倒されるとトップやボトムのタワーへの移動手段が容易になり、結果的に全てのレーンのタワーが崩壊する。

 初心者にはわかりにくい戦略上であった。しかし、試合を何度も検討している翔は自然理解する。ここは重要な場所、先に落とされたら後半戦で逆転勝利の道は小さくなる。

 だが、焦る必要性はない。敵はタンク、攻撃力は低い。

 このタワーを壊れるまでは時間がかかる。そのまま援軍を待つのもありだ。

 何より、正面から向かい打つのは難しい。相手はサポート付きのタンクだ。レベル差もあり勝てる見込みは少ない。勝算はかなり低いと意味をしている。

 援軍を待つのが最適な回答だ。

『翔。あなたはその場面、ミッドを耐えなさい』

「え?」

 ボイスチャットで意外な指示が下される。その声はチーム福リーダーの光だった。この対戦に置いて彼女が使用している英雄は『円卓の騎士王アーサ』、いつもの英雄だった。

 その内容は無茶ぶりにもある。翔は恐る恐る問い合わせる。

「作戦はあるのですか?」

『ええ……でも、先に言わせて置くけど、最終的にはあなた次第にもなるかも知れない。それでもこの場を逆転する可能性はある』

「……」

 翔は沈黙し、相手の侵攻を確認する。自分のレベルは9、相手のレベルは12。ここでタワーの援護に回ると何分かは時間を稼げる事になる。例えた相手を倒せはしないがここで足止めをして、味方に体制を立て直すのもありだ。

 光の作戦はどうなっているのか、自分にもわからない。ここで捨て駒にされる可能性もあるし、敵の注目させる役なのかも知れない。

「ここでクヨクヨしても意味はないか」

 と、白銀の騎士は槍を構え、前線へと向かう。先程撤退した場所へともう一度向かう。その槍を巨人へもう一度挑む。

「ほう!これぞ男の戦い!来い!翔!お前の力を見せてやれ!」

「ダメ元でもやって見せる!」

 槍は何度も巨人を刺す。細く、長く、強く、一撃一撃の連続を騎士は放つ。

 巨人もそれに応対するように、腕を上げて防御に入る。

 カンカンカン、と金属が岩を叩いたような音は鳴り響く。

「ッ!やっぱりダメージが通らない」

「何度やっても結果は同じだ!」

 しびれを切らしたように、鬼丸は金棒を握っている腕で振り下ろす。ずんと、空気が遮る音がする。振り下ろす橋は白銀の騎士の頭上。

 白銀の騎士も衝撃に構え、防御体勢にするが、

「ッ!」

 後方へ飛ばされる。攻撃はかなり通ている事はわかる。

 体力が減っている。幸い相手はタンクだ。そんなに体力は減ってはいない。あと六発は余裕で受けられる。

「まだやれる……」

 半分以上の体力はある。あと数分はなんとか持ちこたえられると確信をする。

 再び体制を整える。槍を構える、騎士らしく凛とした姿を見せる。

「悪いけどここは通さない」

「楽しくなりそうだな!翔。けれど、忘れてはいないか?こっちにはサポートがいるんだぜ?」

「……うん。忘れてはいないよ」

 巨人の体力が回復される。森の妖精からの援護。これほど巨人の攻撃が通らないのはその妖精のおかげである。

 翔は一対一で敵と対等してはいない。その事は翔自身も理解している。

 このままでは決して巨人を倒す事は出来ない。足止めぐらいしかできないのだ。

「さっさと片付けるぞ。ここで立ち止まっても時間の無駄だからな」

「焦るね。君は。そうするともてないぞ?」

「勝利を目の前にして行かないのは俺じゃない!」

「はいはい」

 巨人はもう一度動き出す。大きな息吹をむせながら白銀の騎士に一歩一歩と近寄ってくる。

 その姿は敵を威嚇するように、ゴンゴンと金棒でかき回す。タワーが魔法弾を巨人の胴体に当てるがひるむ事なく歩む。後ろに森の妖精は巨人を盾に使うように向かってくる。

 しかし、翔は知っている。あれは威嚇ではない、本気でこちらを粉砕するためにここに歩みだしている。

「もし、僕の予想が正しければ……次は」

 大攻撃、一撃の粉砕、必殺技。つまり、ウルトを放たれるだろう。対戦に置いて確実に敵を倒せるなら迷う必要性はない。死がゆっくりとやって来る。

 だけど、チャンスはある。逃げられる。逃げる事は負けることではない。全力で撤退したらまだ自分の命だけが残る。タワーが崩壊されるかも知れないけれど。

『そろそろよ』

「え?」

『あと数秒。あなたは自分で判断しなければいけないわ』

「判断?」

『ここを捨てるか。戦うか』

 二択の究極な選択にで迷う翔にまたもその選択肢を迷わせるように光から新たな謎解きをされる。

 最終的には判断するのは自分、そう聞いた翔は緊張のあまり手にしているマウスに汗を塗らせる。

「正解はなんだ……」

 無論、答えなどここにはわかるはずはない。将棋とチェスト同じ、MOBAにも駒の役割がある。『捨て駒』として役目を果たすのか『切り札』として最後に取っておくか、プレイヤーが判断しなければいけない。

「時間がない。考えろ!」

 巨人が魔法弾を受けながらもミニオンと共に迫ってきている。時間はもうない。翔はもう一度自分のステータスを確信する。すると些細な数字に気付いた。

「あ……そういう事か」

 些細な事をずっと見落としたように声を漏らす翔。

 なぜ、『あと数秒』と光が告げていた意味がわかった。それはこのゲームを左右することができる技だ。『最終的には自分の判断』、とはその意味を要約理解した。

「人が悪いよ。光」

 愚痴を言う時間はない、早くしなければ行けない。敵がもう前に迫っている。棒立ちすることは許されない。逃げる時間は無くなった。巨人はタワーを無視して白銀の騎士の前に歩んだ。タワーの魔法弾を追ってまで、やりに来る。

「諦めたのか?翔。もっと骨があるやつだと思ったぜ」

「いいや。諦めてはいません。ここで立ち向かいます!」

「なら!これを受けるがいい!」

 陸の言葉を終わると巨人の周囲は大きく変わった。

 風だ。風向きが変わってきている。

 大地から蒼空に舞い上がろうと、風は吹き始める。その大地に運ばれた風は土が上空に舞う。

 この光景を見た人間であれば風が大地から土を運ぶようにしているようにも見えるが、事実上は違った。それは、

(……重力が逆流した)

 重力があるべき場所に行かず、逆の方向に舞い上がった。蒼空に土を運ばされルと思い気やとある場所に土は集中していく。

 巨人の金棒だ。土は、金棒へと吸い込まれていくように金棒に取りつかれる。やがて、金棒は大きくなり。巨人のサイズまでに大きくなった。

「この渾身の一撃を受けるがいい!行け、『大地砕き!』」

 陸の言葉が終わると、巨大な金棒を振り落とした。

 『巨人鬼丸』のウルト、『大地砕き』。大範囲にいる敵を防御貫通するダメージを与える。まさに、タンクの特性を捨てたアタッカーに等しいウルトだ。

 だけど、それは間違った選択ではない。いま、対戦をしているのは2対2のゲームだった。この万能な英雄とスキルを選択するのが妥当な判断だ。

 賽は投げられた。

 金棒はあと数秒で、白銀の騎士に当たる。逃げる方法はもうない。

 深刻で絶対絶命な刹那に、翔のヘッドホンからカピーン、と音が鳴り響く。

「来た!」

 この瞬間を待っていたように翔は素早くマウスを動かす。最後の賭けに入る。ここでミスしてはいけない。アト秒、100京分の1秒でミスをしてしまったら全て水の泡だ。光の作戦を台無しになる。

「いまだ!」

 最大最速な反応で手を動かし、マウスをクリックする。

 すると画面の中の現状が大きく変化していった。

「『アッサルの槍』!」

 翔の叫びと共に、白銀の騎士は動き出す。振り下ろす金棒に飛び上がる。

「なに!?飛んできただと!?」

 巨人の操作主は唖然な声を漏らすが巨人の攻撃は止まる事はない。そして、白銀の騎士はその金棒へと飛びあがる。

 すると、金棒が当たる寸前に、白銀の騎士は体を捻り。数ミリの金棒を交わした。

「な!?交わした」

「巨人の攻撃は防御力貫通だけど、命中をする規定ではない。なら、僕の選択はこの技しかないだ!」

「まさか、君はこの瞬間でレベル10になる事を想定してこのウルトを選択したのか!?」

「はい!」 

「丁度レベル10になるなんて!まさか、久遠か?」

 巨人の後方で待機していた森の妖精の操作主は唖然に音を上げる。

 この場であるものは全て理解した、何が起こったのかを。

 出来事はこうだ。巨人が攻撃をした寸前、白銀の騎士はちょうどレベル10に上がった。このゲームのレベル上げはチームの共同で配布されるシステムになっている。そうなった鍵は光だった。

 先程から光の姿は消している。乱戦に入ろうとしていなかった。なぜなら、彼女はこの乱戦に加える事で勝利をもたらす事が出来ない事を理解しているからだ。

 そう判断した彼女はある行動を取った。経験値稼ぎだった。レベル差が離れていたら対戦するには不利な状態。相手と対戦できるために一人で別行動、ジャングルに入り誰も気づかないようにファーム、中立のモンスターを倒し経験値稼ぎをしていた。

 それに気づいた翔はレベル10まで待ち、ウルトを選べるレベルになって素早くステータス、スキルの選択をし『アッサルの槍』を選び行動した。

「それでも選択をミスしないで選択するなんて。人間じゃあ出来ないよ翔君」

「彰人さん、忘れられては困りますけど、僕は元プログラマーの研究者ですよ。これぐらい出来ないと研究者として失格です」

 入力は誤選択をすることなく、素早く振られたのはプログラミング経験があったのからだ。超人並の素早さはプログラミングするためのものだった。

 そして、なぜ翔がアルティメット『アッサルの槍』を選んだのか。それは一秒の間、全ての攻撃を回避し上空に飛び、一体の敵を大強力な攻撃をする。ボーナスダメージとして回避している状態の時に攻撃されたらそのダメージの半分を吸収して攻撃力を上げる。まさにカウンター攻撃に使う技だった。

「僕にはこの選択肢しかなかったのです」

「わずかな時間でステータスを振り分けるとは、見事だ、翔!だけど、その攻撃で鉄板の巨人に倒せると思っているのか?」

 上空へと舞う白銀の騎士。体制を立て直す。槍を構え、炎を穂先槍に集い始める。反撃体勢に入ったのだ。

 しかし、巨人も防御体勢にする。第一のスキル、『鬼の鎧』、防御力を十倍にするスキルを発動させた。十倍な防御力かつサポートからの防御力向上。絶対防御になり始めた。白銀の騎士のアルティメットを防御できるだろう。

「確かに、防御力が高い鬼丸では倒せないかも知れない。でも時間稼ぎにはなる」

「ほう。ここで俺の鬼丸に打って、長戦に運ぶつもり、相打ちが狙いか?翔。一歩進化したのではないか」

 陸の言葉を聞いて翔は現実の世界で頭を左右に振る。

「違いますよ。陸さん。長期戦にするつもりでもあなたを倒します。相打ちにはなりません」

「ほう。どうやってかね?」

「簡単なことですよ。これもプログラミングと同じです。順番にやればいいのですよ」

 順番にやる、翔の頭の中に勝利の道が再生されていく。プログラミングする時と同じ構造が頭の中に浮かんできたのだ。

 白銀の騎士は槍をもう一度強く握りしめる。放つ寸前の合図だ、炎が舞い上がる。穂先に一定の熱が集まった。

「まず先に倒すのは……そっちです!」

 槍は投げられた。

 真っ直ぐと、空から超一撃が大地へと放たれる。稲妻の速さが走る。

 目標へと真っ直ぐに一直に炎が道を作り始めた。

 槍は『巨人鬼丸』を通り過ぎた。

「まさか!」

「はい。そのまさかです。僕が狙ったのはそっちですよ。『森の精霊ヨーム』に!」

「あ!?」

 そこでこの場にいる者は見落としていた。『アッサルの槍』は一体の敵英雄限定を選択する技。

 いつもで合う試合であれば、選択する相手は交戦している相手が多かった。自然に『巨人タイタン』に狙いが行くと思っていたのだ。

 しかし、『アッサルの槍』は対戦以外の範囲にいる英雄を選択する事も可能だ。ここで翔が狙いを決めたのはサポートの『森の精霊ヨーム』、この場に置いて一番体力が少ない英雄だ。

 それにこの森の妖精を倒さない限り、巨人も倒す事は出来ない。防御力向上のスキルを使わせれば長期戦で敗北する事は確定だ。

「あっちゃ、回避は……」

 狙いをされた森の精霊は移動を始める。攻撃範囲外に移動すれば回避できる可能性を感じている。しかし、それは無意味だ。

「無意味です。回避のスキルを使っても回避できない技」

「あー」

 先回りを読んだような翔の口調で彰人は息を飲んだ。驚いているのは回避だけではない。先ほどまで初心者がここまでゲームに詳しくなっているのだ。

 『アッサルの槍』、ケルト神話に出て来る伝説の武器。その武器は『光の神ルー』が受けつかれた槍の一つ。神話的な伝説では、ある言葉を放てばそこ槍は必ず命中する槍。

「イヴァル!」

 翔はその言葉を口にする。

 すると槍は超スピードで光より早く、炎の道が一本の線が森の妖精に放たれた。

 ドーン、と炎の槍が森の妖精を燃やしつけた。

 言うまでもない、『森の精霊ヨーム』の体力はゼロになった。倒される。

「あー。やられた。ごめん陸。後は頼んだよ。やっぱりサポートは難しいなー」

 自分の英雄が倒されて少しほっとしたのか、彰人は両手を思いっきり上へと伸ばす。長期間の戦いから一時退場されたのだ。

「任せな。この場は引き受けた」

 期待を託された陸は鼻を鳴らせる。

「これで一対一になったな」

「いいえ。一対一にはなっていませんよ」

「なに?」

「僕にはタワーがあるのですから」

 翔の言葉が合図のように、魔法弾はタワーから放たれる。巨人の背に打たれる。

 ここで忘れたかも知れないがここは白銀の騎士の領内だ。タワーの周辺で交戦をしていたのが陸の判断ミスだ。

「それがどうした?俺の鉄板はまだ続いている」

 しかし、その判断ミスを気にするようすはなく。巨人は前に歩む。『鬼の鎧』はまだ発動中だった。魔法弾のダメージは全く入っていない。

「タワーを無視して、僕を倒すわけですか?」

「さっき、俺を倒すと言いながらここで弱音か?逃げるならいいぞ?」

「そんなことないですよ。陸さん、ここで撃たせてもらいます」

 巨人のスキルは想定外だったが翔の目的は最初から変わっていない。ここは打ち倒す。巨人を必ず落とす。

 着地した白銀の騎士は戻ってきた槍を取り構える。穂先を巨人へと向ける。

 巨人もその挑発に乗ったように金棒を構え始める。

 攻撃と防御、どちらが先に折れるか対戦が始めようとする。

 どちらも必殺技を使った、クールダウンでこの状況に置いて使う事は出来ない。

 正々堂々な対戦になる。逆転の大技はもう存在しないのだ。

「行きます!」

「来い!翔!」

 言葉が合図のように双方の英雄は前へと進む。

 騎士と巨人が正々堂々と交戦をしようとした。

 白銀の騎士は槍を突き、巨人は金棒を振り下ろす。同時に双方の攻撃が相手に届いた。

「ッ!」

 金棒に振り下ろされた白銀の騎士の体力は2割も残っていた状態。叩き落とされるが、手にしている槍もまた巨人の胸に指す。

「ぬ!?」

 槍を突かれた巨人もまた吸所に当たる。胸のド真ん中に槍の穂先が埋め込む。『光の神ルー』のサブスキルとして高確率でクリティカルヒット、防御の貫通が出来る。その急所に当たったのがクリティカルを招き、貫通を与えた。

 巨人の体力が半分以上削られた。4割以上の体力が存在している。

「まだです!」

「おお!防御貫通か!」

 戦闘は休む事なく、続く。二人とも理解しているのだ。先に動きを止めた方が負けると。

 巨人の攻撃は重いように見えるが実際そうではない。『タンク』の役割としては攻撃力が重視されている英雄ではなく、体力を重視している英雄。白銀の騎士に与えているダメージはそこまでではない。1割までも届かない攻撃だが、白銀の騎士の威力は底をつき始めている。攻撃し続ければ倒す事は出来る。

 一方で白銀の騎士の攻撃は軽いように見えるが外見と違い、与えられるダメージは非常に高かった。一気に2割以上のダメージを与えられた。防御貫通が成功すればの話だが、巨人の体力も4割以上は残っている。タワーの魔法弾が期待できないいま巨人を倒す方法はそれしかない。ここで貫通発生に賭けるのも悪い作ではない。

 互いに互いを譲る事は出来ない。撤退も、攻撃も、譲る事は出来ない。ここでどちらかが折れたら負ける。互いはその事を理解しているからだ。

「はあああっ!」

「おおおおお!」

 槍と金棒の交戦。ぶっつかり合う鉄と土。激戦な戦いが繰り広げられている。

 どちらかが倒れるまではこの戦いは続けられる。

「しまった」

 槍の先は巨人の胸に当たる、しかし、浅い。攻撃が通らない。貫通が入らない合図だ。

「もらった!」

 相手の不運を見逃す事はなく、巨人は金棒をもう一度握りしめ、力を入れる。騎士の体力は一割未満。この一撃で倒せると踏まえている巨人。相手が次に攻撃をする前にここで仕留めたい一心で巨人はその力を込めた金棒を振り下ろす。

 ドン!、と大地が割れる音が響き渡る。

「俺の勝ちだ……」

 衝撃で土が舞、一端と煙でその場所を見えなくなっていく。

 巨人は勝利の確証の音のあとに金棒を上に挙げ、ボオ、と大きく息を吹く。

 敵の姿を見ていないが、クリティカルが入った。倒されているだろうと巨人の操作主は思う。

「いいやまだです!」

「な!?」

 しかし、煙の隙間に一本の槍が飛び込んでくる。

 巨人へと襲撃が入った。カチーン、とクリティカルヒットの音が巨人の胸から鳴り響く。

 槍は巨人の胸を突き刺し、大きな風穴を開けた。

「どうして……まだ生きている?」

「第二のスキル。『食いしばり』です」

 翔は口調強く答える。

 その名を聞いた陸はある意味納得をした様子でそれ以上は問う事はなかった。

『食いしばり』は『光の神ルー』の三つ目のスキルの二つ目、選択スキルであった。効果もその名の通り、『体力0になった場合、体力を一になる』

「なるほど……忘れてたぜ」

 陸は納得した口調で顔を頷く。

 スキルの存在を忘れていた事が敗北への結果だと。

 いつもと大翔と対戦している癖があったからだ。大翔であれば第二スキルの選択するとき、彼はもう片方のスキル、『光の加護』攻撃速度を10秒間上げる、を選択する人間だった。もう一つのスキル『食いしばり』の存在を忘れていた。

「見事だ。まあ、悔いはない。初心者に負けたのも俺が把握しきれていなかったからだ」

「でも、ただのまぐれですよ。僕がこの英雄まだ把握しきれていくって。実は第二スキルを選んだのも『食いしばり』よく英雄の性能が分からなかっただけですよ」

「運も才能の一つだ。それを有利に使う事が出来るこそ才能の一つだ。それにお前は寸前に俺の必殺技を対応した。それで十分だ。お前は強くなれるさ」

 陸の声が終わると巨人は崩れていく。土に帰っていく。

 この戦場の勝利者だけがその場に残る。

 白銀の騎士、『光の神ルー』の姿がそこにあった。体力1になった状態と突き刺した体勢で。

「でも……僕も倒されるんだけどね。このスキルをこの場で使う事がね」

 翔が言葉を交わすと、白銀の騎士も倒れ込む。

 矢が膝に打たれ、体力が0になったのだ。

 ミニオン、敵の一般兵からの弓攻撃。この場は乱戦の場所、ミニオンが交戦する場所。ここで交戦し、体力1は何が当たっても倒される。英雄も一般兵にも倒されるのだ。

 結果としては相打ち。双方とも姿を消した。

 先ほどの激しい戦闘はあっけなく幕を閉じたのだ。

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