第7話 探鳥会へ行こう。
これは、カメラを手に入れる前、昨年、夏の話。
『〇日に××町で
知人Bさんから、こんなお誘いのメールが来た。Bさんは、近くに住んでいる知り合いで、鳥に関しては初心者なのだが、私が鳥好きであることを知ってから一緒にバードウォッチングへ行ってくれる貴重な仲間である。
『ぜひ、行きたいです』
私は早速、返信した。××町なんて、自転車ではいけない場所だ。けれどもBさんは車を持っている。私一人ではいけない場所へも連れて行ってくれる貴重な仲間である。
『ありがとう。じゃあ、参加申し込みの電話しておいてね』
……ん!? 私が申し込みをするのか!?
Bさんはたまにびっくりすることをしてくるのだが、優しくて車を持っていて頼もしい、貴重な仲間である。
申し込みをしてから数日後。探鳥会の日が来た。
Bさんの車に乗せてもらって、集合場所に着くと、すでに十人ほどの参加者が集まっていた。まずは主催者らしき人のもとへ行って、
「おはようございます。申し込みをした宮草です」
「おはようございます。ではこちらの名簿に、名前と住所を――」
到着してからほどなくして、探鳥会は始まった。今回のコースは、林の中や棚田を二時間ほどかけて歩いていくのだそうだ。里山の自然を味わいながら、野鳥を観察する。運が良ければ、キビタキやサシバが見られるという。
探鳥会は順調に進んでいった。参加者はみなさん良い人たちで、初参加の私たちに対して、野鳥について優しく教えてくれた。
「ほら、あれがイソヒヨドリだよ」
「こっちにホオジロがいるよ。今、スコープに入っているから、見てみて」
フィールドスコープと呼ばれる野鳥観察用の望遠鏡があるのだが、それを持ってきているベテランの方たちは、野鳥を捉えては、私たちに覗かせていた。ちなみに「入っている」とは、バードウォッチング用語で、レンズに鳥を捉えているという意味だ。
和やかな雰囲気に包まれながら、傾斜のある棚田を歩き、コースの中間に差し掛かったところだろうか。突然、その声は聞こえた。
「――ホイ、ホイ、ホイ」
私は思わず立ち止まり、後ろを振り返った。
「今のは……」
すると、近くにいたベテランも立ち止まり、口を開いた。
「今、サンコウチョウの声が聞こえましたね」
やっぱり! 私は心が躍り出した。
サンコウチョウ。スズメほどの大きさの小鳥で、黒っぽい羽でお腹は白く、目の周りに青いアイリングがある。そして、オスは尾が長い。夏に南からやってくる渡り鳥で、きれいで特徴的なさえずりをする。
一行はしばらく立ち止まって、林のほうへと耳をすませた。
「
間違いない。今度ははっきりと聞こえた。サンコウチョウの声だ。
鳥の鳴き声は、「ききなし」と呼ばれる人の言葉に例えた表現がある。サンコウチョウは「月、日、星、ホイホイホイ」と鳴く。この鳴き声から、三つの光の鳥――
まさかこんなところでサンコウチョウの鳴き声が聞けるとは。内心、踊り狂うように興奮しながら、私はBさんのほうへ振り返った。
Bさんは、ポカンと固まっていた。
「サンコウチョウの、声、ねぇ……」
どうやら、Bさんにとって、鳥は見るものであったようだ。声を聞いただけではいまいちすごさがわからないらしい。
だがしかし、声を聞くことはバードウォッチングの重要な要素である。林の中にいる鳥は、そもそもほとんど見えない。発見できない。すぐに隠れる。なので、鳴き声を聞くことでその存在を知り、声を観察することも、見ることと同じくらいバードウォッチングにおける楽しみのひとつなのだ。
そんなこんなで鳥を見たり声を聞いたりしながら、一行は集合場所へと戻ってきた。
お目当てのキビタキやサシバは残念ながら見られなかったのだが、代わりにノスリというタカの仲間に出会うことができた。初めて見た鳥だったので、それも私はうれしかった。
さて、本日の探鳥会は無事終わりを迎えた。最後に「鳥あわせ」という今回観察できた鳥を総ざらいして、主催者が挨拶をした。
「今日はみなさん、お疲れ様でした。では最後に、宮田さん、なにか感想はありますか?」
「……」
「宮田さん?」
「……ん!? 私のことですか!?」
私は宮田ではなく宮草ですが。そして急に感想を振られた。
最後の最後でコメントを求められるというびっくりを味わうことになったのだが、とても楽しく勉強になるイベントだった。参加して良かった。ぜひ、次の機会も参加してみたいと思う。
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