第4話 獰猛な鳥が見たい。(モズ)

「この世には、メジロという獰猛どうもうな鳥がいるらしい」


 突然、兄がそんなことを言い出した。

 メジロとは、目の周りが白くて羽が緑色をしたスズメよりちょっと小さい鳥である。春に梅の木にとまっていると、「ホーホケキョ」と鳴くウグイスと勘違いされることもある鳥である。


「メジロという鳥は、獰猛で、他の鳥を襲って食べるらしい」


 私は想像した。あの愛らしいメジロが、他の鳥を襲って、くちばしをくれないに染めている姿を。


「さらにメジロは、襲った鳥を串刺くしざしにするらしい」


 私は想像した。メジロが串を持って、狩った獲物を焼き鳥にしている姿を。


 そこまで話を聞いて、私は口をはさんだ。


「それって、モズじゃない?」


 モズとは、ムクドリくらいの大きさで、尾が長く、茶色っぽい姿をした鳥である。一見地味な鳥なのだが、虫やトカゲなどの小動物や小鳥まで襲うという、小さなハンターである。


 さらにモズは、捕った獲物を枝やフェンスの端などに刺して置いておく習性がある。これが、串刺しである。理由は、えさの少ない冬に備えた保存食と考えられていたり、近年の研究では、串刺しをたくさん食べたオスは歌が上手くなってメスにモテやすくなると考えられていたりするらしい。ちなみにこの串刺しは「はやにえ」と呼ばれている。


「そう、モズ! モズって鳥がいるんだって!」


 兄はやはり勘違いしていたらしい。そしてどうやら、モズを見てみたいらしい。


「モズなら、近所にいるよ」


 実は私は、すでに何度もモズを見たことがあった。モズは電柱の上やくいの上など見晴らしのいい高いところによくとまっている。近所では、電線の上にとまっていて、長い尾をいつもひくひく動かしている。特に秋からは、「高鳴たかなき」と呼ばれるけたたましく鳴く声が聞こえてくるので、鳴き声を覚えれば見つけやすい鳥である。


「えぇー、俺、一回も見たことないんだけど……」


 と、兄は近所にモズがいることに、半信半疑だった。


「だったら撮ってきてよ、モズ」


 というわけで、今回のミッションは「モズを撮ってくること」となった。


 後日、休日で天気の良い日に、私はカメラを持ってバードウォッチングに出かけた。


 近所のバードウォッチングコースを、いつもとは逆回りに歩く。いつもはすぐに田んぼ道に入るのだが、今回は舗装された道路を歩いていく。周囲には家が何件か並び、少し離れたところには国道があって、車も見えるような場所だ。


 そんなところをしばらく歩いていると、突然前方からなにかが飛び出して、木の枝にとまった。


 私はカメラを構えた。画面に映し出されたのは、ねらっていた鳥――モズだ。


 よく見ると、くちばしになにかをくわえている。虫だ。食べずにくわえたまま、枝にとまって、尾をひくひく動かしている。もしかして、串刺しにするための場所を探しているのだろうか。


 写真を撮り終え、しばらく観察してから私はその場を後にした。モズのとまっている木の横を通り過ぎていったのだが、モズは飛び立つことなく、虫をくわえたまま私を見送った。


 モズ。一見地味だが、獰猛な姿を見せるミステリアスな鳥である。半面、ぷっくりと膨らんだ羽や、尾をひくひく動かす仕草がかわいい魅力的な鳥でもある。


 さて、撮れた画像を兄に見せることにしよう。


「モズ、撮れたよー」

「マジ!? どこで撮ったん? 近所!? 嘘やー」


 ……。


 なぜか兄は、近所にモズがいることをかたくなに信じようとしなかった。


 撮ってきたんだから、信じろよっ!!



追伸

この時に撮ったモズがこちら。

https://twitter.com/miyakusa_h/status/1477920683359621122

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