第4話 不思議な女の子

 

「え、え?ぇあの、すみません、何でしょう?」


 とても分かりやすくうろたえてしまった。

 

 だがしょうがないだろう。


 今話しかけて来た言語はきっと別の次元のものだろうから。俺の気のせいかもしれないしな。いやこれはきっと現実ではない。ありえない。そうだ。きっとそうだ。

 

「読みたい本があるのじゃが、置いてある位置が高すぎてとれないのじゃ。こっちにきてとってくれんかの?」



 「あ、はい。」



 一呼吸置いて現実へと引き戻された。まさか本当にあんな話し方をする人が実在するとは。 


 (あれこの本...)

 「この本でよろしいでしょうか?」


 「そうじゃ。そこに座って読んでも良いのかの?」と、カウンター席の方を指差す。

 

 「ご自由にどうぞ。戻したい時はまた声をかけてください。」

 

「ありがとう。」

 


最後だけ妙にぶっきらぼうで、他と比べて不自然な返事だなと感じた。


 その本は、自分がここに初めて売った本だった。


 内容はよくあるミステリーだったが、人物描写が細かく書かれていて、感情移入がしやすく、それでいてとても読みやすかった。


 お気に入りの本だったので高くしようとも思ったが、それよりも、誰かに手に取って読んで欲しいという思いの方が強かったので、かなり安く値段をつけさせてもらった。


 それがまさか自分の目の届くところで読んでもらえるとは。

 

 「本、お好きなんですか?」

 

「君が好きなら分かるだろう?あまり話しかけないで貰えると嬉しいのだが。」

 

「あ、はい。すみません...」

 

 少し興奮して舞い上がってしまったようだ。確かに真剣に読んでいる最中に話しかけられたら、誰でも腹が立つだろう。



 「この本、買ってもいいじゃろうか?」

 

 しばらくして、少女が話しかけて来た。

 

 「もちろんです!レジはこっちです!」

 


 ついつい嬉しくなって大きな声を出してしまった。少女は少し萎縮しているようにも見える。

 

 「あ、すみません!その本俺が誰かに読んでほしくて売った本なんですよ。だからなんだか嬉しくて。」


  「そ、そうなのか。というかこんなに安くて良いのかの?」

 

 「そういう店なんです。売っていく人が本それぞれに値段をつけるんですよ。ここに来る人は、みんな本が好きなので、大体安く値段をつけて行くんです。」そう言いつつ、少女に本を手渡す。

 

「ありがとう。あの、また来てもいいですか...?」

 

 「もちろんですよ。また是非お越しください。」

 


なんだか語尾が先ほどからごちゃごちゃだが、そんな事は気にしなかった。

 

 「日曜日と月曜日はお休みなので気をつけてください」

 

 「分かった。ありがとう店員さん。」

 

 「ありがとうございました。」


 そう言って、とても気分が良さそうで、満足げな少女の後ろ姿を見送った。

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強気な博士は、チビで弱虫で!? 白石 はく @DELTORA

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