第3話 博士との出会い
学校での俺は、特に何の変哲もない高校生と言ったところだろう。
友達が別段多いわけでもないが、一人もいない訳でもないので、周りのイメージは、控えめで、真面目っぽい男子といった印象だろう。
そう。それで良かった。俺にはそれが1番いいことだと思っていると、
「おっはよー平ちゃーん」
と教室の入り口辺りから俺の名前を呼んだ声の主が、少しづつ近づいてくるのが見えた。
コイツは多田 輝樹(ただ てるき)出席番号が後ろのまぁまぁ仲のいい友達。
頭が良く、学年では常に上位で、運動もそこそこできて、そのくせ人間関係の構築がとてつもなくうまい。ハイスタンダードとはまさにコイツのことを指すのだろう。
「おはよう。ところでとちゃんづけで呼ぶのをいい加減やめるつもりは?」
「おっ?なんだ今日は反応が早いな。だが残念。俺はこの呼び方が一番しっくりきてるんだよ」
「俺はまったくだけどな。まぁ変に俺の特徴捉えたあだ名つけられても困るしな。」
そんな軽口を叩き合っていると、クラスメイトがぞろぞろと教室に入ってくる。
「お前いつもギリギリだよな。もっと早く来られるだろ。家近いんだし。」
「いやいや、これだけ近いと、遅刻するかしないかのスリルを楽しみたいわけよ」
「目の前なのにスリルもクソもあるか」
「HR始めるぞ〜お前ら席つけよ〜」
とあまり女らしくない口調で担任の飯田が教室に入ってきた。
さあ今日も一日が始まる。
今日も特に変化のない日常を送る事ができた。時間割通りに時間が進むだけ。昼休みに、サッカーボールを顔面にブチ当てられるとは思ってもいなかったが。
あとはバイトをして家に帰るだけ。そう思っていた。
「どうもじーさん」
「おっ来たか翔。そこに立ってるついでにそこの本とってくれ」
「はいはい」
俺のバイト先「ツギハギ古本屋」は、他とはちがった古本屋だった。
具体的には、売られている本それぞれに値札がつけられていて、その値段は元の持ち主によって決められている。
こう聞くと値段を高くして、この本屋に売りつける輩もいるのではないかと感じるだろう。
しかし、この本屋は地元の本好きや、またはコアな古本マニアくらいしか来ないような店なので特にそんな心配もない。それでよく成り立っているとは思うが。
ここは俺のお気に入りの場所だ。
客はそう多いわけではないが、本好きが集まる店かつ、皆熱心に本を物色しているので、そうそううるさくなることはない。
よく来る常連さんとの会話も楽しいし、新しくきたお客様のことも、皆温かい空気で出迎えるのだ。正直時給はそんなに高くないが、客がいない時には、本が読み放題なわけだ。(じーさん公認)本が好きな俺にとっては、時給などさほど気にならなかった。
この本屋にはバーカウンター席のような物があり椅子が3脚ほどある。客に気になった本を試し読みしてもらうためのものだ。
いつも通り、濡らした雑巾でカウンターや本棚を掃除していると、お客様が一人やってきた。
背丈的には中学生くらいだろうか。肩ほどまでのサラサラな黒髪と、縁の細い丸眼鏡が特徴的だった。しばらく本を物色したのち、彼女は俺に話しかけて来た。
「そこの上にある本を読んでみたいのじゃが、取れないのじゃ。すまんがとってくれないかの?」
...え? じゃが?のじゃ?かの?
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