第2話 翔、朝のルーティン

 目が覚めた。

 


 そこには普段と変わりない部屋の風景と日常があった。

 

針が6時を示す目覚まし時計の音、カーテンの隙間から漏れる朝日。


 俺の1日はまずベッドから起き上がり、カーテンをあけ、朝日を浴びて脳みそを叩き起こすところから始まる。その次は、洗面所へと移動し、顔を洗う。

 


 朝ご飯は昨日適当に買ってきた菓子パンで済ます。でないと男2人ぶんの弁当を作る時間がなくなってしまうからだ。

 


 いそいそと、ガスコンロの火をつける。チッチッチと音を立てて火がつく。(ボタンおすだけで火がつくなんてすげぇよなぁ)そんなどうでもいい事を考えながら弁当作りをはじめた。

 


調理の隙間時間で、いまだに気持ち良さそうな顔ですやすや寝ているヤツを起こしにかかる。

 


「起きろ!遅刻するぞ!父さん!」

 


 なんでこう、人間と言うものは素早く起きてくれないのだろうか?そんなに起きられないのなら寝なければいいんじゃ?と、一見意味のわからない考えがぐるぐると頭の中を駆け巡った。

 


 和室のふすまがスッと横に開いた。ようやく起きてきたようだ。



 平 優(たいら すぐる)俺の父親で、性格は裏表がなく、名前の通り、誰に対しても優しい。明るく接しやすい誰にでも好かれる人柄である。そして朝にとてつもなく弱い。


 「昨日の味噌汁の残りと、弁当に使ったおかずの余りがあるからそれで食べて」

 

「ほんとにいつもありがとうな翔(かける)」


 「お礼は分かったから、早くしないと遅刻だぞ。いつも家出る時間まで20分くらいしかないよ」


 「えーもうちょっと家にいたらダメー?」


 「遅刻で怒られたいなら好きにしなよ。俺も着替えたり、学校いく準備したいから、それじゃ」そう言うと、自分の部屋へ少し早足で向かう。その間に、後ろから「ふん、翔のいけず」などと年頃の少女のような言葉が聞こえた気がするが、そんな事はどうでも良いのだ。 



 ガチャリ、と音が聞こえた後、「行ってくるー」と小さく聞こえた。俺も「いってらっしゃーい」と言葉を返す。ここまでくれば、少し自分に余裕が出来る。


 高校指定の制服に着替え、寝癖などがないか鏡を見て再チェックし、鞄を持ち、靴を履き、家をでて、家の鍵を閉める。ここまでが朝の、いわばルーティン的なものだ。これがないと一日が始まらない気さえする。


 高校へは徒歩で約20分。遠くも近くもないような距離。だけど俺はこの登下校の道が、一人になれるこの時間が好きでたまらなかった。


 

今日の晩御飯は何を作ろうか、帰ったら何しようかとか、そんな普通でありきたりな事を考えつつ歩いていると、すぐに学校に着いてしまった。






 

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