16話「嫌な相手と思わぬ救世主」
入学して早くも一ヶ月が経過し、1年生も授業に部活と、高校生活に完全に溶け込みつつある。
「今日はコンビニで昼飯を買っていくかな」
高校へ向かう電車に乗る前に、市街地駅前にあるコンビニで、昼ご飯を買っていくことにした。
俺の一人暮らしも大分慣れて来たのだが、自分で弁当を入れるということは、出来そうにない。
そのため、学食か購買部で買ってきたものを食べ続けてきたが、気分を変えてコンビニで買っていくことにした。
この登校ルーティンに慣れてきて余裕が出てきたのもある。
コンビニ内に入って商品棚を見ると、様々な商品がある。
比べたらいけないが、購買部で買うよりもバリエーション豊かであることは間違いない。
そんな風に、何を買っていくか商品を眺めている時だった。
「え、奥寺じゃね?」
「あ……。よ、よう」
その声の主を見て、一気に俺はコンビニから出て行きたくなってしまった。
声をかけてきたのは、同じ中学に通っていた連中だった。
「奥寺の行ってる高校、楽しいか?」
半笑いで尋ねてくる。言うまでもないが、完全にバカにしている。
冷やかすような質問をぶつけて来るが、あくまでも冷静に返答する。
「ま、まぁまぁかな」
「へぇ、どんな友達ができた?」
何とか回答するが、少しずつ辛くなってきた。
本来、ここまで馬鹿にされると感情的になるくらいでちょうどいいのかもしれない。
ただ、目の前にいる奴らの頭の良さなどは、中学3年間で嫌というほど知った。
感情的に対応すればバカに映るし、大人しくしていればただの怯えているようで、情けなく映る。
どんな対応をしても、自分が醜い様に映る。
もうコンビニから急いで出よう。
そう思った時だった。
「あのさぁ。みんな急いでる朝っぱらから、通路塞いで騒ぐの止めてくれない? キモいんだけど」
俺を煽る奴らのさらに後ろから、新たな声が飛ぶ。
その声には、聞き覚えがある。
「す、すいません……」
「謝んなくていいから、さっさと退いてくれない?」
そう言って割り込んできたのは、相変わらず攻めたコーデをしている中原さんだった。
そんな中原さんの姿を見て、俺の冷やかしていた奴らはすぐに大人しくなった。
勉強が出来る分、中原さんのような見た目と話し方の女子生徒には見慣れていないためだ。
「お、学級委員長君じゃーん。おはー」
「お、おはよう」
俺の姿を見つけた中原さんは、いつものように軽い感じで声を掛けてくる。
まさかの知り合い同士ということを知った連中は、びっくりしたような顔をしている。
「学級委員長君も、ここで買い物するのね。さっさと買って、電車乗ろー」
「お、おう」
中原さんに促されて、手早くおにぎり等を買ってレジへと向かう。
「あいつ、あんな見た目の女と仲いいのか……。落ちるとこまで落ちたな」
まだ後ろからボソボソと何かを言ってきている。
さっきは挫けそうになったが、中原さんのおかけで持ち直せた。気にしたら負け。
俺は、そんなことを思いながら、レジに並んでいた。
「ごめん、学級委員長君。これ持ってて」
「え?」
中原さんは、俺に商品を渡すとすたすたとあの連中に歩みを進めた。
「あのさぁ。言いたいことがあるなら、はっきり言えよ。あと頭が良いからって、コンビニで人に迷惑かけて良いわけじゃねぇぞ」
中原さんが、ドスの利いた声で詰め寄った。
見た目がギャルのような姿なので、キレられると相当怖い。
「す、すいませんでした……」
流石にこれには縮み上がったのか、すっかり大人しくなった。
その後、会計を済ませるとさっさと自分たちが乗る電車のホームに向かった。
「何か申し訳ない……」
「朝から大変だったねぇ。中学の同級生?」
「うん」
「そっかぁ。まぁ途中から聞いたけど、何となく何があったか、分かるかな。ああいう時は、関係ないやつが出ていく方が効果的だねー」
「……助かります」
「学級委員長君の通ってた中学校、めっちゃ頭良いところで有名だもんね」
「そういう事。だから、今通ってる二番手の高校に行くってことは、あの中学にいた者からすれば、落ちぶれてるってことになるね」
「なるほどねぇ。まぁみんな大体、君の中学出たなら、あいつらが通っている高校に行ってるって、自然に思うからね」
今、俺が通っている高校は、県内で二番目とされている進学校である。
それでも普通に凄いと思っている人も多いが、俺の通っていた中学に居て、一番手の高校に行けなかったとなると、「ああ……。察し」ってなる。
「言いたくなければ、言わなくていいんだけどさ。何であっちの高校受けなかったの?」
「中学の定期テストが難し過ぎて、内申点が取れなかった。入試の点数なら、問題なかったんどけどね……」
「え。中学の定期なんて、どの科目も薄っぺらい問題集からしか出なくない?」
「俺らは別に分厚いテキストがあって、そこから出たり、教師が勝手に無茶苦茶な問題入れてたからな……」
「マジかぁ、世界が違うなぁ」
「変なところ見せて、本当にごめんね」
俺は改めて詫びを入れた。
しかし、中原さんは特に気にしている様子もなく、伸びをしながらいつものように、抑揚のない声で話を続ける。
「あいつらって、やっぱり塾とかいっぱい通ってんの?」
「うん? そりゃまぁそうだね」
「学級委員長君は?」
「登校時間が長かったり、忙しくて行く余裕なかったね」
「えー何それ。じゃあ、さっきのってさ、有名私立で部活しまくって優勝するような人が、そんなに部活出来ない人に、煽ってるようなものじゃん」
「そ、そうなのかな……?」
「だってそうじゃん。月に塾に何十万とかかけてるやつが、それを出来ない人に威張り散らかしてるってことだもん」
「なるほど……」
「だから、気にしなくていいと思う! それにさ、あんな冴えない男二人組よりも、美人な私と居るほうが、充実して楽しそうに見えない?」
「それは、間違いなくそうだね」
「お、即答じゃん。嬉しいねぇ」
中原さんのそんな話に、ちょっとだけ笑ってしまった。
そりゃ男といるより、こんな美人と仲良くできる方が良いに決まっている。
「私も受験を考えるまではダメダメで内申なかったから、似たようなもんだから」
「そうなの?」
「あ、でも私の場合はやる気が無かったから、同じにするのはだめかぁ」
「いやいや、そんな事ないよ」
「あ、優しいじゃ~ん」
そんな話を続けている中で、中原さんがポツリと疑問を呟いた。
「でもさ、うちの高校に通っている生徒で、あっちの高校に行ける人2、3人くらいはいるよね。特にうちのクラスの姫野さんとか、何で行かなかったんだろうね」
「……確かに言われてみれば」
あんまり意識していなかったが、確かに姫野さんは県内のどのレベルの高校でも受かるはず。
なら、一番手の高校に行きそうなものだが。
そして自分の心の中にもう一つだけで浮かんだこと。
姫野さんは、俺がこの高校に来たことを何も思っていないのだろうか。
今まで、姫野さんがフレンドリーに接してくれて楽しく過ごせていたので、気にならなかったが。
今の高校で唯一、俺の中学受験の事を詳細に知っている。
俺のことを、落ちぶれたやつだとは思わないのだろうか。
いつも可愛らしく笑ってくれる姫野さんの笑顔を思い出して、少しだけ胸が痛くなった。
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