第3話 戸惑い


 まいは翌日かれんに電話してあった事を話した。


「そのバイト君いい子だね」


「でしょ?一緒にいて落ち着くし、頼り甲斐があるってゆうか、大人なんだよね」


「ふーん」


「なによ」


「別にー」


「言いたい事分かる気する」


「違うの?」


「確かに普通は好きになるかもしれないけど、男としては見れないってゆうか、完璧すぎて、現実的じゃないってゆうか」


「うざ、多分その子まいの事好きだよ」


「やっぱそうなのかな、薄々そんな気はしてたんだけど」


「恋愛経験ないくせに、魔性の女かよ」


「違うって!好きなのかなって思うこともあったけど、時々冷たいってゆうか、そっけないから違うのかなって」


「冷たい時って多分まい無神経だからその子が嫉妬するような事でも平気で言ってるんじゃないの?」


「思い当たる節が見当たらないよ!」


「天然なのか鈍感なのか、健君怒っただろーね」


「なんで分かるの?」


「私には何でも、分かる!」


「私には分からないよー」

 困るまい。

 


 その日のバイトに春人はいなかった。


 (そういえば連絡先知らないな)


 他のバイトに聞くまい。

「三輪君って今日休みですか?」


「そうなんだよ、風邪引いちゃったみたいでさー。」


「そうですか」


 (もしかして私が椅子で寝させたせいかな?)


 まいは心配になって店長に聞いてみる事に。


「店長、三輪君の家ってどの辺なんですか?」


「詳しい住所は教えれないけど、ここから近いよ」


 (えっ?電車で来てるんだよね)

 不思議に思いながらも聞く。

「番号って教えてもらっていいですか?」


「番号知らないのか?君たち仲良いから知ってると思ってたけど」


 店長に番号を教えてもらい、スーパーで買い物を済ませ近くまで来た所で電話をかけた。


 プルルルル。


「はい」


「私だけど、今近くの公園にいるから家教えて」


「なんで?」


「いいから」


「そこまで出るよ」


 電話を切り、公園で待ってると春人がやって来た。


「寒いから家案内して」


「うん」


 黙って家まで歩く二人。


「おじゃまします」


「てかその買い物何?」


「風邪引いてるんでしょ?絶対私のせいだ」


「なんで何も聞かないの?」

 春人は不安そうに聞く。


「家がバイト先の近くなのも、今一人で暮らしてるのも、何か理由があるんでしょ?気にしてないよ」


 ゴホッゴホッ。


「ほら横になってて、お粥作るから」


「バイトは?」


「春人君が心配だから早く上がらせてもらった。今日はちゃんと終電までには帰るから、安心して」


「ありがと」


 まいは手際良くお粥を作ったり、溜まった家事を済ませた。時間も遅くなった頃春人が起きる。


「家のことまでしてくれたの?」


「うん、暇だったから」

 ベットの横に腰掛けながらまいは言った。


「ありがと」


「じゃあ私そろそろ帰るね」


 まいが立ち上がろうとしたその時、春人がまいの袖を持って引っ張った。


「なんでそんな優しくしてくれるの?」

 春人が辛そうに言う。


「私のせいで風邪ひいて可哀想じゃん、それに家が近くなら自分は帰れてた訳だし」


「‥‥‥」


「離して?」


「嫌だ、俺のことどう思ってるの」


「年下でバイト仲間」


「冗談なしで」


「……正直、いいなって思う時もあるけど、それは友達としてであって、男としては見れないよ」


 袖を離す春人。


「終電あるから帰ったほうがいいよ」


 (また冷たい態度だ)

「うん、帰るね」


「あっ、ひとつだけお願いがあるんだけど」


「なに?」


「今度から春人って呼んでほしい」


「頑張ってみる」


「ありがと、引き止めてごめん気をつけてね」



 ガチャ。

 振り向かずそのまま出てきたまい。


 (どうしよう、あんな春人君初めて見た、バイト気まずいな)


 まいが帰った後の部屋はいつもよりも静かに感じた。



 翌朝ゴミ捨て場で、健と会う。

 

「昨日も遅かっただろ」


「干渉しないでよ」


「なんかあったのか?」

 心配する健。


「別に」


 逃げるように家に入るまい。


 (健に冷たい態度とっても意味ないのに)


 その日の昼カフェにて。


「まいどうした?なんかテンション低くない?」


「実はね……」


 まいは昨日の出来事をかれんに話す。


「バイト君傷ついてないといいね、弱ってる時にそんな事言われて立ち直れるかな?」


「だよね、反省してるけど、思わせぶりもよくないと思って」


「まぁそうだけどさ、本当に思わせぶりがよくないと思うなら行くべきではなかったよ、相手期待しちゃうよ?」


「もうあまり関わらないようにする、バイトも気まずくなっちゃうのよくないよね」


「だんだんイライラしてきた」


「なに?怖いんだけど!」


「今日バイトでしょ?その気ないなら絶対思わせぶりはダメだからね!」


「わ、わかってるよ!」



 その日の夕方バイト先に向かうまい。


 春人はちゃんと来ている。


「風邪もう大丈夫なの?」


「うん」


「昨日はなんかごめんね」


「なんの事?」


「えっ?」


「来てくれたのは覚えてるけど、熱で頭ぼーっとしてたから何話したかあんま覚えてないんだよね」


「そうなの?えっと、急にお邪魔しちゃったからさ、風邪悪化してたら悪いなって思って」


「この通りピンピンしてるよ!」

 春人は笑ってみせた。


「よかった」

 ホッとするまい。


 バイトも終わり、駅まで歩く2人。


「そういえばなんで駅まで行くの?家すぐ近くじゃん」


「なんとなく」


「寒いし帰りな?」


「うん、じゃあおつかれ」

 寂しそうに帰る春人。


 今度はまいが春人を見送った。

 (私と一緒にいたいから駅まで着いてきてたって事だよね、そう思うとなんだか変な感じ)



 翌日。


 お節を作ったり大掃除をしたりと年越しの準備をするまいと母親。


「まいー買い物行ってきてー」


「はーい」



 近所のコンビニで健とばったり会う。


「あっ」


「あっ」


 知らん顔して買い物をする2人だったが同時ぐらいに店を出て、自然と一緒に歩く。


「まいさ、あのバイトが好きなの?」


「何言ってんの、好きじゃないよ」


「そっか、正月バイト休みだろ?」


「そうだけど」


「ちょっと遠出しない?」


「遠出?まぁいいけど」


「じゃあ2日の日空けとけよ」


「うん」

 (どこ行くんだろ)

 

 無事、年も越し、1日はゴロゴロして過ごす。


 (春人君は1人なのかな)

 一人暮らしの春人の事を考えるまい。



 次の朝用意をする

 新年だから気合を入れてオシャレをする。


 (よし、出来た!)


 ピンポーン。


 健は来るや否や私を見て黙る。


「どうかした?」


「用意なげーよ」

 少し頬が赤い健。


「女の子は長いの」

 ほっぺを膨らませるまい。


「行くぞ!」


「待ってよー」


 電車に乗る。


「どこ行くの?」


「内緒」


「サプライズ?」


「そんなところかな」


「ふーん」

 まいは電車の外を眺める。


 ずいぶんと田舎の駅に降りた。


「ここ何があるところ?」


「まぁとりあえずぶらぶらするか」


「そうだね」


 夕方まで初詣に行ったり、食べ歩きをしたり、普通のデートの様に過ごす健とまい。


 だいぶ外も暗くなった頃。


「楽しかったね!」


「楽しかった?まだ帰らねーよ」


「でも、もうこんな時間だよ?」


「着いてこい」


「??」

 まいは言われるがままついて行くとある旅館の前に着く。


「えっもしかして泊まりだったの?」


「おばさんには了承済みだから」


「それで朝機嫌よかったのか、でもなぜ年頃の娘のお泊まりオッケーなのよ!」

 まいは出掛ける前ニヤニヤしていた母親の事を思い出していた。

 

「いくら幼馴染でも泊まりってありなの?」


「何?もしかして、変なこと考えてる?」


「んなわけないじゃん!健とは家族みたいなもんでしょ?ありえない、ありえない!」


 一瞬寂しい目をする健。


 部屋に案内され入る2人。


「まぁ部屋はもちろん一緒だよね」

 呆れたようにまいは言う。


「温泉入ってこい、俺も入ってくるから」


「うん!せっかくだからゆっくりつかってこよう!」


 部屋に戻ると料理が運ばれてあり食事を楽しむ2人。

 

 食べ終わった頃。


「すこし庭園散歩しね?」


「お腹いっぱいだから少し歩きたいね」


 庭園に出る2人。


「上見てみ?」


 健に言われて見上げるとすごい数の星が見える。


「わー、すっごい綺麗こんなの初めて見た」


「これを見せたくて」


 しばらくみとれるまい。


「首とれるぞ」

 

「あんまり綺麗だから感動しちゃった!」

 まいがそう言い健の方を向いたその時。


 

 ちゅっ。


 健がまいの頭を抱えるようにそっとキスをしてきたのだ。


 突然のことで驚くまいを健は真っ直ぐ見つめてきている。


「えーっと‥‥‥」


 呆然とするまいの頭をポンポンして健は言った。


「さみー、入るか」


「う、うん」


 部屋に戻ると布団が隣同士に敷いてあり、まいはさささと布団を離す。


 「ハハハハ。」

 苦笑いするまい。


 健は黙って歯磨きを始める。

 まいも黙って歯磨きをする。


「電気消すぞー」


「うん、おやすみ」


「おやすみ」



 (なんだったんだろう、気持ちがついていかない)


 健は背中を向けている。


「今日来てくれてありがとな、いい思い出出来たわ」


「連れてきてもらったのは私の方だからこっちがありがとうだよ」



「俺春から県外行くから」



「えっ‥‥どうゆう事?」

 突然の事に戸惑うまい。


「向こうの大学通う事にした」


「じゃあもう会えないの?」


「大袈裟だな、たまに帰ってくるよ」


「そうなんだ‥‥がんばってね!」


「でも」


「でも?」


「まいが寂しいとか言うなら、こっちに残ってやってもいいけどな」


「そんな、私に健の人生決める資格ないよ!せっかく頑張って勉強したのに勿体ないじゃん!まぁ一緒にいすぎて飽きてきたしね!」

 (これは言い過ぎかな?)


「冗談に決まってんだろ、まいが行かないでって泣いても行くっつーの」


 まいは体を起こして健の背中を見つめる。

 (なんだろ、この感情)


 健の肩が少しだけ震えたように見えたまいはそっと近づき布団の上から健の横に転んで背中をトントンする。


「小さい頃はよく、お泊まりして一緒に寝てたよね」


 健は黙っている。


「いつも私の事守ってくれてありがと」


 健がゆっくり振り向く。

 

 顔が近い、まいは目を見開く。


「優しいな、俺以外にはこんな優しくするなよ」


「当たり前じゃん」

 ぎこちない笑顔で笑ってみせる。


「ハハハ!なんもしねーから安心しろ」


 まいはホッとする。

「だよね、こんだけ一緒にいて何もないんだ‥‥」


 言い終わる前に健が唇にキスをした。

 


「今日だけ、今日だけは許して」

 そう言うと健は何度もキスをした。


 まいは戸惑うも自然と嫌に感じない。

 (やばい、健に聞こえそうなくらい心臓がバクバクしてる)


 健が布団の中にまいを入れ抱き寄せる。


 気づくと、健はまいがすっぽり収まるように抱きしめたまま眠ってしまっていた。


 朝になり何事もなかったかのように電車に乗って帰る。


 何日か過ぎて学校も始まり、休みの間なにをして過ごしたかで盛り上がったが、お泊まりの事は言えなかった。


 (さすがにかれんには言えない、ごめんかれん!)

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