第4話 通過点



「三輪君もうすぐ誕生日だね」 

 店長が言った。

 

「そうなの?」

 まいがそう言いながら近づいた。


「うん、まぁ」


「お祝いしないとね!」


「えっしてくれるの?どうゆう風の吹き回し?」

 春人は少し驚いた。



「もちろんだよ、なんだかんだうちら出会ってもうすぐで1年だしね!」

 (この前悪い事しちゃったし)


「それは嬉しいけど」

 不思議そうに春人は言った。




 数日後。


「何がいいかなー?」 

 まいとかれんはショッピングモールにいた。


「なんで毎度付き合わされるんだろ私。あのさ、バイト君に思わせぶりしないって約束したよね?」


「なんか言った?」


「バイト君の事好きなの?」


「てか紹介してくれるって話どーなったの?」

 とぼけるようにまいは言った。


「まいのドロドロ話で忘れてたわ、そうだ!彼に電話してみる!」


 かれんか電話すると丁度友達と出かけてるらしく、一緒にランチをすることになった。



 まいとかれんは先に店に着き席で待っている。緊張してるまい。


「何緊張してんの?」


「だって私人見知りだもん」


「そうだっけ?あっ来た!」


 かれんの彼氏と友達がこっちに向かってくる。


「ごめん待った?」

 かれんの彼氏が言った。


「うちらもさっき来たばっかだよ!」


「まい、これが彼氏のゆうた」


「あっいつもかれんがお世話になっております」

 まいはたどたどしく挨拶した。

 

「こちらこそ、よろしくね」

 ゆうたは爽やかな笑顔で言った。


「友達さんの名前は?」

 かれんに言われて自己紹介が始まる。


 まいとかれん、彼氏のゆうたとその友達のだいきの4人でランチを楽しむ。


「イケメンでよかったね」

 かれんがまいに耳打ちする。


「何がよかったよ?!」


 それを見ていたゆうたが言った。

「まいちゃんは彼氏いないの?」


「はい!」

 

「だいきも彼女と別れたばっかりで今フリーだよな?」


「うん、いやー、浮気されちゃってさーハハハー」

 

「だいきは優し過ぎるんだよ!彼女が何しても許すんだから」


「俺の話はいいからーハハハ」

 だいきは恥ずかしがる。


 ランチも終わり、まいとかれんは買い物を続ける為解散する。


「だいきさんいい人そうじゃん」


「そうだね」


「何?興味なし?」


「なんか大人の余裕みたいなの感じたね、自分が幼稚に思えてきた」


「まぁ年上ってそんなもんでしょ。で、プレゼントどうするの?」

  

「そうだ、何がいいかなー」


 かれんにアドバイスをもらいながら無事春人のプレゼントも買え、ぶらぶらしているとかれんのスマホが鳴った。

 

「もしもし、どうしたの?うん、あーじゃぁ聞いてまた連絡するね!」

 かれんは電話を切る。


「だいきさんがまいの連絡先教えてほしいらしいよ!やったね!」


「えっどうしたらいい?!」


「なにが?」


「何をどうすればいいの?」


「普通に連絡取ってデートの約束したらいいじゃん!」


「だってさっきもほとんど喋らなかったし、いきなり無理だよ」


「まぁ教えておくから連絡待ってみたら?」


「わかった」

 (人見知りだって知ってるくせに)

 まいは少し不機嫌な顔になった。




 翌日のバイト中。



「誕生日は予定ある?」

 春人に聞くまい。


「特にないよ」


「じゃあ、食べたいものある?」


「うーん、ハンバーグとか?」


「オッケー、その日家行って大丈夫そうなら私が作るよ!」


「マジで?!」

 春人は突然の提案にビックリするも、

「でもいいの?なんか悪いよ」


 (あっちょっとでしゃばりすぎかな?)

 まいは返答に困っていた。


「あっ!是非うちに来て作ってよ!」


「うん!楽しみにしてて」

 まいはホッとして言った。



 当日は買い物に行き、そのまま春人の家へと向かう。


 ピンポーン。


「どうぞー」


「お邪魔しまーす」


「あっこの前来た時より片付いてるね!」

 (片付けたのかな?)


「そうかな?」


「キッチン借りるね」


「うん」

 春人は嬉しそうな顔が隠せないでいた。


 キッチンで料理するまいを春人は眺めながら待っていた。


「おまたせ!」


「わー美味しそう!」

 春人は子供の様に喜ぶ。

 

「冷めないうちに食べよ!」


「うん!」


 料理を食べながら2人は話に花を咲かせる。


「まさか、祝ってくれるとは思わなかったからビックリしたよ」


「初めて会った時の事覚えてる?」


「えっ?まぁ覚えてるよ、俺が高校入ったばっかで初めてのバイトだったからさ」


「春人君入ってきた時、私の方が先輩なのにミスばっかりして、逆に助けられてたよね」

 

「そうそう、まいさんおっちょこちょいだなーって思ってた」


「そんな事思ってたの?!」


「でもそれがすごく可愛くみえてさ」

 そう言って春人は微笑んだ。


「からかわないでよ!」

 

 春人は気にせず続けた。


「前にバイト掛け持ちしてるって言ったじゃん、実は土日だけライブハウスでバイトしてるんだよね」


「そうなの?」


「うん、バイト終わったらそこでバンドの練習させてもらってる」


「えー意外だね!」


「意外かな?」


「うん、だって春人君ってなんだか落ち着いてるし雰囲気も派手な感じしないから」


「そうかな?メジャデビューするのが夢なんだ」


「大きい夢だね!応援するよ!」


「ありがとう」

 照れる春人。

 

「ところでなんで急に教えてくれたの?」


「それはね、俺の事少しでも知って欲しくて、まいさんは色々教えてくれるけど俺の事ってあんまり聞かれる事ないから」


「なんかごめん」


「謝らないでよ!俺が勝手にそう思ってるだけだから!」


「うん」


「ご飯すっごく美味しかった!ご馳走様!」

 

「あっそうだ!」

 そう言ってまいはカバンの中から箱を取り出し春人に渡した。


「はい!おめでとう!」

 

「ありがとう!開けてもいい?」


「大したものじゃないよ!」


 箱を開けるとそこには腕時計が入っていた。

 

「かっこいい、これまいさんが選んでくれたの?」


「もちろん!」

 (本当はかれんが選んだけど……)


「ありがとう!嬉しい!」

 

「喜んでくれてよかった!」

 とても喜ぶ春人を見て安心するまい。


「もうそろそろ時間だから帰るね!」


「送るよ!」


 2人は駅まで歩く。



「まいさん、一つ聞いてもいい?」


「なに?」


「もしかして忘れてる?前に言ったこと」


「何か言ったかな?」


「やっぱり忘れてる、前にうちに来た時帰り際に俺言ったよね、春人って呼んで欲しいって」


「あーそうだったね、やっぱ恥ずかしいからさ、今まで通り春人君じゃダメかな?」


「そうだよね」

 

 がっかりする春人を見てまいは決心した。


「えっと‥‥はる、ひと?」

 小さな声でまいは言った。


「嬉しい、ありがとう!」

 

「頑張ったんだからね」

 まいは恥ずかしそうに言う。


「じゃあ俺も言っていい?」


「なにを?」


「まいちゃん!」


「ハハハ、なんか違和感!」


「それぐらいいいじゃん!」


「いいよ、いいよ、もちろん!」

 (なんだ可愛いじゃん)


「じゃあ気を付けてね!」


「うん、またバイトでね!」


 春人とは駅で別れそれぞれ家路に着く。



 まいが布団でスマホをいじっていると、


 ピロン。

 メッセージが来た。


 《ゆうたから連絡先聞いたよ、だいきだけど覚えてくれてる?》


 《はい、覚えてますよ》


 《よかった、いきなりで悪いんだけど時間作ってくれないかな?》


 《なんかあるんですか?》


 《少し用事に付き合ってほしくて》


 《バイトが休みの日なら大丈夫ですけど》


 《ありがとう、また連絡するね!》


 まいはバイトが休みの日学校が終わるとすぐ待ち合わせの場所に向かった。


 だいきと合流して歩く。


「用事ってなんですか?」

 まいが聞くとだいきは深刻そうに言った。


「実は、振られた彼女の事がまだ好きで、誕生日が近いからプレゼントを選ぶのに手伝って欲しかったんだ」


「えっ?」

 意外な言葉にビックリするまい。


「そんな事で呼んだのかって思ったでしょ?」


「正直、はい」


「でもね、俺元カノが束縛激しくて女の子の友達いないんだよね、ハハハ!」

 笑いながら言うだいき。


「そうゆう事ならかれんの方が得意ですよ!私なんかついてきてもらう方だし」


「友達の彼女に頼むのはおかしいでしょ?」


「あっそれもそうですね!じゃあ頑張って選びましょう!」


 選んでいる間だいきは元カノの事を色々話していた。


「元カノさん愛されてますね」


「実は、今回の誕生日でプロポーズしようと思ってるんだ」


「振られたんですよね?」


「ハハハ!痛いとこつかれたなー!」


「浮気されたんですよね?」


「そうなんだけどさ、だからこれできっぱり振られて前に進もうと思ってる、でも誰にもとられたくないからプロポーズするんだ」


「一か八かって事ですか?」


「そうなるね!応援してくれる?」


「はい、もちろん」


「ありがとう!」



 まいとだいきはしばらく見て周る。



「これなんかどうですか?」

 まいはショーウィンドウに飾ってあるネックレスを指した。


「めっちゃ可愛いね!これにしよ!」


「決めれてよかったです!」


「まいちゃんって可愛いね、素直で一緒にいて自然体でいられる」


「えっいきなり何ですか?!」


「ハハハ!まいちゃんならきっといい人が現れるよ!」


「ありがとうございます」

 (だいきさんめっちゃいい人じゃん)


「まいちゃん今日はありがとね!」


「はい、だいきさん、頑張って下さい!」


「うん、じゃあね!」


  

 その帰り道、健と偶然会い一緒に帰る。

 

「どこ行ってたの?」


「久しぶりに会って言う事がそれ?」

 まいは冷たく答える。


「いいだろ」


「実はさ‥‥」

 まいは今日あった事を健に話した。

 

「あんなに想ってくれる人がいるなんて正直羨ましかったな」


「‥‥まいはさ、俺の事家族って言うけどさ、一人の男として見た事ないの?」


 (ドキッ)


 まいはその一言で温泉での事を思い出す。


 (そういえば、あんな事があってから健と会ってなかったから、忘れてた)


「私は初めて‥‥だったんだからね」

 まいは聞こえないぐらいの声で言った。


「聞こえなかったけど」


「け、健は私の事どう思ってるの」

 はぐらかすかのようにまいは言った。


「質問に質問で返すなよ 俺は‥‥」


 プルルルル。


 その時、まいの電話が鳴る。

 春人からだ。


「ちょっとごめんね!」

 (助かったー)


 春人からライブが決まった事の報告電話だった。


「すごいじゃん、よかったね!」


 少し話をし、電話を切るまい。


「ごめん何の話だっけ?」


「もーいいよ」

 健は1人歩いて行ってしまった。


「‥‥‥」


 

 家に着き、カレンダー見るまい。


 (卒業式終わったら出発するのかな、本当、私は健の事どう思ってるんだろ。自分でも分からない、一緒にいすぎたのかな)



 それからも慌ただしく過ぎていき、卒業式も無事終わる。


 健の父親に夕飯に誘われて最後にみんなでご飯を食べた、健は次の日出発するらしい。


 

 翌日。


「健君見送り行かないの?」

 布団でごろごろしているまいに母親が言った。


「まぁ最後だし、送ってやるか」

 まいは重い腰をあげ健の家に行く。


 ピンポーン。


「何?忙しんだけど」

 健は少し冷たい。


「お母さんが送れって」


「もう少し待って」


 健は準備を終えるとまいと駅まで歩いた。

 その間会話はなかった。


「じゃあ元気でな」


「一生の別れじゃないんだから!でも、元気でね!」

 (私も受験頑張らないとな)


 

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