第2話 募る思い


 いつものようにバイトも終わり帰る2人。



「今日も無事終わったね」

 春人が言う。


「ところでさ、うちらって結構な確率で同じシフトだよね!まぁお互い高校生だし時間帯限られてるのもあるけど」


「そうだね」


「バイト掛け持ちしてるって言ってたけど何のバイトしてるの?」


「秘密」

 

「なにそれ?!」


「うそうそ!まいさんって休みは何してるの?」



 (今話そらしたよね、聞かれたくなかったのかな)

「休みの日は友達とカラオケ行ったり、ショッピングとかかな?」


「好きなアーティストとかいる?」

 

「急な質問攻めだね。好きなアーティストいるよ、NSって知ってる?」


「知ってる!俺も好き!」


「そういえば夢があるって言ってたけど、よかったら教えてよ!」


「秘密!」


「秘密多いな!」


「ミステリアスの方が興味湧くでしょ?」

 そう言って春人は笑った。


「そおゆうもんなのかねー?」

 不思議そうに春人を見るまい。


「まいさんは夢ないって言ってたけど、子供の頃はさすがにあったでしょ?」

 

「子供の頃はなんだったっけなー?秘密にしとこ!」


「真似しないでよ!」


「ミステリアスな感じするんでしょ?」


「興味持って欲しいって事?」

 春人がからかうように言う。


「あっ、そんなつもりじゃなくて!」


「ハハハ!!ピュアかよ!」

 焦るまいを見て微笑む春人。


「年下にまでいじられるとは終わってるわ」

 まいは両手で顔を隠しながら言った。


「いい意味だよ!純粋でいいじゃん、変に取り繕ってないし、俺はいいと思うよ」


「はいはい、フォローありがとう」 

 情けない表情のまい。


「今日すっごい星出てるね」

 空を見上げて言う春人。



 まいが思い出したかのように言った。

「本当はさ、暖かい家庭を築く、なんだ」


「あ、子供の頃の夢?」


「そう、私両親離婚してて、母親に着いてきて2人で暮らしてるけど、父親の事すごく好きだったからさ。本当は寂しくてさ、もし将来結婚して子供ができたら、私みたいに寂しい思いさせたくないんだ」


「………」


「ってなんか重いね!ごめんごめん!」


「まぁ子供の頃の夢なら俺も同じ、男のくせに女みてーってよくからかわれたなー」


「マジで?確かに女の子みたい」


「まいさんまでやめてよー!」


「うそうそ、夢は自由だもんね」


「そうだよ!」



 そうこうしてるうちに駅に着く。


「じゃあ気を付けて!」

 いつもように春人はまいを見送る。

 

「また明日ね!」

 まいは手を振り駅のホームに向かう。


 まいの後ろ姿が見えなくなると春人も一人暮らす家へと帰る。



 翌朝


「おはよ」

 まいは眠そうにあくびをしながら言った。


「おはよ」

 スマホをいじりながら健が答えると。

 

「誕生日どうする?去年はうちでしたから今年は健の家でする?」


「そうだな、適当によろしく」


「おっけー!」

 

 

 12月16日健の誕生日当日。


「おじゃましまーす、って誰もいないか」

 預かっておいた鍵で健の家へと入る。


 まいはエプロンを付け、買ってきた食材をキッチンに広げ、料理を始める。


 外も暗くなり始めた頃。


 ピロン。


 まいのスマホが鳴った。


 《仕事が終わったから今から帰るね》

 母親からだ。


 《健の家にいるから》

 まいはそう返信し、みんなの帰りを待った。



「おめでとー!」

 みんながそろい4人で乾杯する。


 誕生日会も無事終わり、プレゼントも渡して解散する。


 

 翌朝マンションのエレベーターで会ったまいと健。

 

「昨日はさんきゅうな」


「CD貸してね!」

 

「お前最初からそれ目的だろ!」


「いいじゃん減らないし!」

 まいは健を見上げながら言った。


「毎年プレゼント貸してくれってどうゆう事?!」

 

「やっぱ自分で選ぶと愛着わくじゃん?」

 

「自分が欲しいもの選ぶからだろ」

 健は少し嬉しそうにそう言った。

 

 そんなやりとりを今年もしながら学校に着く。


「プレゼント喜んでた?」

 かれんは満足げに聞く。


「うん!ありがとね!」


「ところで健君は大学どこ行くの?」

 

「そういえばそんな話しないわ。聞いとくね!」



 その日のバイト。


「昨日珍しく休みだったね」

 春人がさっそく聞く。


「幼馴染の誕生日でさ、お祝いしてたんだ!」


「そうなんだ、仲良いんだね!」


「まぁ家族みたいな感じだからね」


「ふーん」

 不満そうにまいを見る春人。


「なに?」


「幼馴染の話初めて聞いたから」


「あっ言ってなかったっけ?家隣なんだ」


「……もしかして男?」

 

「そうだよ」


 春人の顔が一瞬曇ったように見えた。


 ベルが鳴り注文を取りに行く春人。


 (気のせいかな?少し怒ってた?)

 まいは少し不安になる。


 バイト終わりいつも通り駅まで歩く。


「あのさ、今日私なんか気に触る事言ったかな?」

 まいが聞いてみる。


「いやー、言ってないと思うよ、なんで?」


「なんか怒ってる気がしたから」


「まいさんに怒るわけないじゃん、気のせいだよ」


「そっか!よかった!」

 まいはホッとした。


「じゃあ気をつけてね!」

 春人はいつもの笑顔で言った。

 

「うん、おつかれ!」



 帰りの電車の中。


 (もうすぐクリスマスか)

 まいはスマホを開いて、かれんにメールをする。


 《今年のクリスマスは彼氏と過ごすの?》


 《その予定ー、まいはどおすんの?》


 《彼氏もいないし、家で過ごすかバイトでも入れてやる!》


 《やけくそだな》


 《まぁいつもの事ですよ》


 電車を降り歩いて帰ってるとコンビニから出てきた健と偶然会う。


「もうすぐクリスマスだね、予定あるの?」

 二人で並んで歩きながらまいは聞いた。


「クリスマスは用事があるかな」


「そんな日に用事あるの?」


「大事な用なんだよ」


「そっか、あんまイベントとか興味ないもんね、私はなにしようかなー?」


「かれんと過ごすの?」


「彼氏とデートだって」


「そういえば彼氏いたんだっけ」


「年上で優しくておまけにイケメンらしいよ!」

 

「会った事あんのかよ」


「ないけど想像」


「なんだそりゃ」


 マンションに着く。


「さみーからあったかくして寝ろよー」


「親かよ」

 ふてぶてしく返事をするまい。


 布団に転んでスマホをいじる。


「NSライブするんだ、行ってみようかな」


 NSのライブがクリスマスの日にするのを見つけて行く事にしたまい。


 健とは朝会う以外はなかなか会う事はなくなっていた。



 12月25日


「お母さん、今日は少し遅くなるから」


「あら彼氏でも出来たの?」


「出来たら速攻報告するって言ってんじゃん、ライブ行くの!」


「小さい頃は健君と結婚するって言ってたのにねー、今じゃ相手にもされてないもんね」


「昔のことでしょ!」

 まいはムッとした。


 夕方、電車に乗ってバイト先のある隣町まで来た。


 (少し早く着いたかな、うろうろして時間潰そ)


 暇潰しのつもりで入った本屋で雑誌を見ていると見覚えのある人がいた。


「春人君?」


「え?まいさん、なにしてるの?」


「そっちこそ、今日バイト?」


「バイトではないけど‥‥あっ!今日NSのライブがあって、早く着いちゃったんだよね」


「私も同じだよ!」


「そう言えば好きって言ってたね!」


「よかったー1人でなんか寂しいと思ったけどクリスマス予定なかったし思い切って来たんだよね!」


「じゃあ一緒に行こうよ!」

 春人は目を輝かせて言った。


「うん!てか、私服姿初めて見た」


「俺も、いつも制服だからなんか変な感じ」


「私服似合ってるね!」


「私服が似合うってどうゆう事?」


「なんか大人っぽいね」


「ありがとう!まいさんも私服可愛いよ」

 春人は少し照れながら言った。


「えっ?あ、ありがとう!」

 まいもなぜか照れる。




 ライブも始まり、隣で楽しそうにしてるまいを見つめる春人。


「ーーー」

 春人が何か言った気がした。


「ん?ごめん聞こえなかった!」


 春人は何事もなかったかのようにステージの方に視線を移す。


 (なんだったんだろ?)

 

 ライブも終わり歩く2人。


「すごく盛り上がったね!アンコールが意外と長くて終わらないかと思った!」

 春人が言った。


「ほんとほんと!てか、お腹空かない?」


「空いたけど、店はどこもカップルばっかりでいっぱいだよ」


「なんか買ってベンチで食べない?寒いけど」


「いいね!」


 テイクアウトでハンバーガーを買って、少し人混みから離れた所のベンチに来る。


「そういえば今何時?途中で電源きれちゃって」


 まいが聞くと春人はスマホを見て言った。


「終電って何時だっけ?」


「確か11時30分かな」


「今、11時30分」


 目が合い一瞬時が止まる。


「どうしよ?!今日私の帰りが遅いからって親、友達の家に泊まりに行ってんだよね、迎えも頼めないし」


「どーすんの?」


「あっ幼馴染に自転車で迎えに来れるか聞いてみる!電話かして!」


「えっ?うん‥‥」


 まいは健に電話するも出ない。

 (寝てるのかな)


「電話出ないから多分寝てるし春人君も電車ないと困るよね?!」


「え?お、俺は頑張れば歩いて帰れるから」


「いいな、私歩いてたら朝だよ。朝になったら始発もあるし、ネカフェで朝まで時間潰そうかな」


「じゃあ、付き合うよ!」


「えっ?一緒に来てくれるの?やったー、2人なら退屈しないし、安心だよ」


「遠慮がないな」


「私、春人君には素直に甘えられるんだよね、不思議だけど」


「寒いから早く行こ!」

 顔が赤くなったのを、悟られないようにそそくさと先を歩く春人。



 ネカフェに着き、さっそく個室に入るも意外に狭い。靴を脱いで上がるマット席だ。

 

 とりあえず横に並んで黙る2人。


「漫画取りに行ってくるね」


「俺寝とくわ」

 

 春人は横になり目を瞑る。


 まいは漫画に夢中でしばらく読む。


「あっ充電しとかないと」

 まいは充電器を借りて、健にメールをした。


 《気づいたら電話して》


「これでよしと」


 ずっと座っていて体が痛くなり伸びをするまい。春人を見ると爆睡だ。じーっと顔を見る。


 (よく見るとかわいい顔してるな)

 

「よだれたらさないでよ」

 

 目を瞑ったまま春人が喋った。


「ビックリした!起きてたの?」


「めっちゃ視線感じるから」


「私も少し横になりたいから交代して?」


「仕方ないなあ」

 

「ありがと!」


 交代してもらって春人も漫画を取りに行き2人でしばらく読んでいると。


 ぐーぐーと、まいがいびきをかいて寝てしまっていた。今度は春人がまいの顔をじーっと見る。


「鈍感なのか?」

 春人は困った顔をする。

 

 しばらく見つめている春人。

「唇プルプルだな」


 はっとして、慌てて視線をそらす。春人は頭の中で色んなことを考えていた。


 まいは少し暑くなったのか、かけていたブランケットを蹴飛ばした。その拍子に服がめくれてしまった。


 それを見た春人は慌ててまいを起こす。

「まいさん!起きて!」


 まいはゆっくり起き上がると寝ぼけた様子で聞いた。

「もう始発の時間?」


「お腹出てたから」


「まじで!見た?」


「風邪ひくよ?」

 動揺を隠すように言ったが恥ずかしがるまいを見て安心する春人。


「見苦しい姿見せちゃってごめんね」


「別にいいけど、無防備過ぎる。俺じゃなかったら何されてるか分からないよ」


「よかった、春人君なら安心だもんね」


「その自信はどこからくるのやら」


「普段から見てるから、変な事しないってわかってるよ」


「それは嬉しいけど」

 微妙な表情をする春人。


「目覚めちゃった、椅子疲れたでしょ?転ぶ?」


「いくら安心できるからって、それはないでしょ!」

 

「あっ一緒にじゃなくて、交代してあげようか?って事だよ」


「わ、分かってるよ!てか時間になったら起こしてあげるからもう少し寝ていいよ」


「じゃあお言葉に甘えて」

 そしてすぐまた寝息を立てるまい。


「目覚めたんじゃなかったのかよ」

 春人は小さい声でつぶやいた。


 春人はモヤモヤしてるこの状況をどうにか乗り越えようと、トイレに行ったり、飲み物を取りに行ったり、しばらくして個室に帰るも相変わらず爆睡だ。


 その時まいのスマホから着信が鳴った。

 健だ。


「ま、いっか」

 名前を確認した春人はあえてまいに教えなかった。


 始発の時間が近づきまいを起こし、まだ薄暗い中駅まで歩いた。


「よく寝たー!」

 歩きながらまいが伸びをする。

 

「ふわぁぁー」

 あくびをする春人は一睡も出来なかった。


 駅でまいを見送ると、ずっと座っていて体が痛い春人は走って帰って行った。


「あっ着信がある」

 電車の中でスマホを見て健からの着信に気づいたまいはすぐに電話をした。


 プルルルルル。


「はい」

 

「あ、健?寝てた?」


「寝てはないけど、なんかあった?」


「実は色々あって帰れなくてさ、ネカフェで朝まで過ごす羽目になったんだよ」


「1人で?」


「いや、バイト一緒の子と」


「男じゃないよな?」


「そうだけど」


「は?!それでバイトのやつと今まで一緒にいたのか?!今どこだ?!」


「今地元に着いた所」


「そこで待ってろ!」


 ップープープー。


 (えっ切られた、てかめっちゃ怒ってた)


 駅を出てとぼとぼ歩いてると健が走ってやってきた。


「もしかして今まで出かけてたの?」

 よそ行きの服を着ている健を見てまいは言った。


「まぁ、って俺のことはいんだよ、どうゆう事か説明しろ」


 まいはありのままを話した。

 

「何もされてないんだろうな?」


「当たり前じゃん、そんな事する子じゃないよ!」


「よかった。今度からは何かあったら俺にすぐ言えよ!」


「電話しましたけど」


「わりー。気づかなかった」


「寒いから早く帰ろうよ!」


 2人は早歩きで帰る。


「どんなやつだよ」

 健がボソボソなにやら言っている。


 マンションに着くも何も言わずにバタンとドアを閉めて帰った健。


 (そこまで怒らなくてもいいのに)

 まいは少し悪い事をしたような気分になった。

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