第38話:情熱はまるめてこねて8《うるちサイド》

「親父、朝ご飯置いておくよ」

仮眠中で聞こえないだろう父に一応声をかけておく。

お盆を床におろすと襖の向こうから小さく父の声が聞こえた。誰かと話しているのか。でも、誰と?

「……親父?」

ほんの少し襖をずらし部屋の中の様子を伺う。

そこには母の遺影に話しかける父の姿があった。

「ウルチがよ、やっと基礎を覚えたんだ。別に好きにやらせればいいってお前は言うんだろうな。でもよ、俺はウルチにうちの伝統を継いでいってほしいんだ」


あのみたらしの味は、俺とお前とウルチの三人の思い出の味だから。


父の想いにウルチは瞳を見開いた。


「でもよ、いつも熱心に新しいだんごを作ってるウルチも応援してぇんだ。お前も言ってたな。アイツは新しいものを生み出す力があるって。ったく、継いでほしいとか変化してほしいとか俺も矛盾してるよな」


親父、そんなこと思ってたのか。


知らなかった。


家族との思い出を守るために父は伝統を守っていたなんて。

ただの頑固者の意地っ張りでだんごの味を変えたくないだけだと思ってた。

決して自分の革新や斬新な発想を毛嫌いし反対しているわけではなかったのだ。

「……」

ウルチは静かにお盆を置き、部屋を後にした。


そして自分の中で問いかける。


大事なのは伝統か革命か。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る