第37話:情熱はまるめてこねて8

こうしてビターとウルチは大将にだんご作りの基礎を叩き込まれた。


翌日、朝。

「うん、美味しいわ」

メルトがビターの作っただんごを食べて感想を言う。

「私が寝ているうちに随分上達したじゃないの」

「太陽が昇るまでだんごこねてたからな」

特訓は明け方まで続いた。

二人に一通りの基礎を叩き込むと、陽が出ると共に大将は奥の自室へ戻っていった。仮眠をとるらしい。

「さて。基礎も学んだし今から応用の特訓だな」

「だね」

「ええ!? アンタたちまだだんご作るの?」

「当然だろ。俺の目標は『秋のお月見だんご大会』優勝だからな」

「むしろ今からが真骨頂だよ。応用やりたさに嫌々基礎を学んだんだもん」

「あとはひたすら」

「己の自己表現!」


二人の背景に情熱という名の炎が燃え上がっている。もはや近くに立っているだけで熱さを感じる。

「熱っ」

フィナンシェが前足を軽く火傷した。

「大将の熱血さが伝播してるわね……」

メルトは戦いた。


……とは言ったものの。

「ううむ」

意気込んで数分後、ビターは腕を組み考えこんでいた。


『秋のお月見だんご大会』で審査員に出すだんごは一本のみ。

串に刺さるだんごの数は指定はなく、味もまた然り。

ただし、この国の名物はみたらしだんごなのでみたらしを出す参加者が多い。なんせ大将が毎年みたらしだんごで優勝している。


「その大将に基礎を教わったんだからなァ」

ある程度良いとこまでいける気が、する。

「でもそれだけじゃ良いとこ止まりだ。基礎を踏まえた先にある特筆したなにかがないと優勝には届かない」


だけど……


優勝するだんごってどんなだんごだ。


頬が落ちるほど美味なもの?

はたまた、目から鱗が出るような斬新なもの?

「ウルチの言ってたこともあながち間違いじゃなかったのかもな」

「なんか言った?」

自分の名前が出てきたのを聞いて作業中のウルチが振りかえる。

「いや、なんでもねェ」

少しくらい自分で考えないとな。

「そうかい? あ、ちょうど朝食できたから休憩しない?」

朝食作ってたのかよ! てか卵焼き旨そうだな!

人数分のお盆の上にはご飯にお味噌、漬物、卵焼きの皿が上品にのっている。料理は繊細なのかよ。

「ちょっと親父の部屋の前に置いてくるね~」

ウルチは朝食をのせたお盆を抱え奥の部屋へ歩いていった。

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