第6話
何だったのだろうか。
ヘルリックの最後のあの表情は。
自分が殺されるのをまるで受け入れているかのようだった。
そんな考えが頭をよぎったが今はここから逃げ出すことが先決だった。
ここにはヘルリックの実験の補助をしていた人もいるのだ。見つかったら今度は何をされるかわからない。
さっきは運よくヘルリックが油断しきってくれていたおかげで殺すことができたが、戦闘初心者のアリスではだれかに見つかった瞬間拘束されるのは目に見えている。
「せめて出口だけでもわかればやりようはあるんだけど」
この牢獄はまるで迷路だ。
分かれ道が何個もありどこも同じような通路で一度通ったことがあるかどうかもわからなかった。
魔法を使う?
いまだ鎖を無理やり引きちぎった今魔法を使うこと自体は簡単だ。しかし、魔法を使ったからと言って状況が好転するとは思えなかった。
まず単純に魔法を使うには魔力を消費することになる。もし誰かに見つかって戦闘になった時のためにできるだけ魔力は温存していたい。それに魔力を消費してしまうとその痕跡が残ってしまうそうなるとヘルリックの仲間にも簡単に居場所が特定されてしまう危険もある。
左手の法則を使うというのがアリスの中で思い浮かんだが、それだと場合によってはすべての通路を通ることになるのですべての敵にエンカウントするという状況になってしまう。
そんな状況は好ましくはないし臭いで出口を探すしか……
「いま私何を考えてた?」
臭いで出口を探すなんてまるで獣…そっか、私はもう人間じゃないんだ。普通の人が腕や足、さらには首を切られても瞬時に再生したりするはずがない。私はすでに化け物なんだな。
自分がすでに人の範疇に収まってないことを自覚した時アリスからは乾いた笑いしか出てこなかった。
アリスの体はすでにどんな攻撃を食らっても痛みを感じず、即座に再生してしまうほとんど不死身に近い状態になっている。体を木っ端みじんにすれば殺すこともできるだろうが肉片ひとつ残らずに自分の体を破壊しきる自信なんてアリスにはなかった。
どれだけつらくても自殺することもできない状況にアリスは絶望するしかなかった。
とりあえず家族に会いたいなぁ。
家族にさえ会うことができたら少しは希望を見出せるのではないかとほんの少しの期待を込めてアリスは出口を目指した。人がいる場所は避けて通らないといけないので遠回りにはなるが何とか出口にたどり着いた。
どうやらここは隠し通路になっているようでパッと見ではただの行き止まりにしか見えない。だが臭いがこの奥が出口であることを告げているアリスにはそんなカモフラージュはたいして意味がなかった。
壁を押すと回転して簡単に外に出ることができた。
久しぶりの外の景色に少しだけ感動を覚えるが、すぐにまずい状況にあることに気づく。
出てきた場所が王城の中だったのだ。
衛兵に見つかったアリスはすぐに侵入者として捕まり、そしてまた地下牢に閉じ込められることになった。
囚われ少女の人生日記 雪白水夏 @alturf
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