第5話

 3年の月日が流れた。

 きれいなプラチナブロンドだった髪はすっかりと色は抜け落ち、数メートル近くまで伸びている。

 体を洗うこともできていなかったので臭いは酷いし髪はぼさぼさ。スキンケアもまともにできていない肌もボロボロで爪は獣のように伸びていて近づくものを今にでも引き裂いてしまうのではないかと思うほどだった。そして破れて赤黒くなった血がべっとりとついている純白だった現在は紙切れのようなドレスを身にまとい座り込んでいた。


 パット見で本当に女かどうかもわからないような見た目になっており、これがもと公爵令嬢だといわれても誰も信じないだろう。食事は1日2食は持ってきてくれていたので体がやつれたりすることはなかったが、それでも栄養をしっかりと取れていたとは言い難く少しやせてもいた。


 この3年間でアリスはもう何も反応しなくなっていた。

 実験は成功だった。


 アリスはさまざまな種類の魔物の血液の複製を注射されたが体が異形になることもなく、意識もはっきりとしていた。


 しかし実験はそれだけではなかった。本当に魔物としての能力が備わっているのか確かめるためにいろいろな拷問が施された。


 例えば魔物はとんでもない再生力を持つ化け物で首をはねようが心臓を止めようが死ぬことはなく、すぐに再生して人間に襲い掛かったといわれている。


 そういった能力のテストのためアリスは何度も体を引き裂かれ、内臓や目玉をくりぬかれたり、はらわたを無理やりひきちぎられたりもした。


 しかしそれでもアリスが死ぬことはなく、すぐに再生したのを見たヘルリックは次々と熱の耐性や、電気に対する耐性、鈍器に対する耐性などいろいろと試された。


 最初こそ抵抗していたアリスだったが無駄だと悟ったのか気づけば何をされてもただぼーっと天井を眺めるだけの存在になっていた。


 能力テストのせいですでにアリスに痛覚はなく、何をされても表情すら変わらなくなっていた。


「アリス、今日からはまた別の実験をする。今から鎖を外すね」


 そういってヘルリックはアリスのことを3年間つなぎとめていた鎖を解いた。


「今日からは戦闘シミュレーションをしようと思う。本当に魔物並みの身体能力で動けたり特殊な力が使えたりするのかを見るために」


 その言葉でアリスの目に光が戻った。


 ここを逃せば2度とアリスはこの場所から逃げ出せない。それを本能的に察してヘルリックが後ろを向いた瞬間に行動を開始した。


 後ろから首をつかみ魔物並みの力でむりやりねじきった。


 終わりは案外あっけなかった。

 殺される瞬間ヘルリックが優しい笑みを浮かべたような気がした。


 この日19歳のアリスは晴れて自由の身となった。

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