第4話

「ペンダント落としたと思っていたんですけどあなたが盗ってたって認識でいいですかね?」

「勘がいいね」


 ここまでの話を聞いてアリスは自分がどうやってここまで連れてこられたのかは理解したがいくつかの疑問点が残っていた。


「まずは助けが来ないってどういうことですか。探知系の魔法使いがくればこの場所を見つけるなんて造作もないことじゃないですか」

「単純な話この国の人々から君という人間の記憶を消したからだ」


 アリスにはヘルリックの言っている意味が理解できなかった。魔法で大切なのは明確なイメージと魔力量だ。明確なイメージが大切な理由は魔力の消費量を抑えられるからだ。


 魔法は万能の力であり、不可能なことであっても可能にする力がある。簡単な話無から有を作り出すことができるのだ。しかし不可能なことであればあるほど必要とされる魔力量は莫大になっていく。


 ならアリスはどうやって魔法を使っているか。

 火を起こすにあたって大気中にある無数の粒子を高速で動かすことにより発生する熱エネルギーを利用して起こしている。


 この時に使っている魔力は人が重さを感じることもないほど軽い粒子を動かす程度の力を発生させるだけでいいので、それほど魔力を消費することはないのだ。


 しかしそれをイメージできないと何もないところに突然と火を生まれるという自然界では起こりえないことが起こってしまっていることになる。そのため必要とされる魔力量は自然と多くなってしまう。こうなれば当然威力も抑えられてしまうし、魔法を使える回数も同じ魔力量でも少なくなってしまう。


 これが周りとアリスの魔法を使うときの差であり、地球とこの世界の科学技術の差だ。


 だからこそヘルリックのやったことは普通ならばあり得るはずがないのだ。アリスでも人の記憶の操作などできないし、そんなもの明確にイメージできるはずがなかった。たとえできたとしても国中の人間の記憶から一人の人間の記憶を消し去るなんて不可能だ。


 だというのにヘルリックはそれを可能にしてしまったという。


 普通ならそんなこと信じられるはずがないが、ここまで自信満々なヘルリックの態度を見るに実際にそれは成功しているのだろう。


「そんなのありえないって顔してるね。でも、少し私にも事情があるんだ」


 どんな事情があるにしてもアリスにとっては助けが来ない。それだけで絶望だった。


 先程まではまだ希望があったから会話を続けることが出来た。しかし、それが無くなった今アリスは言葉を発することが出来なくなっていた。


「さて、もういいかな?そろそろ実験を始めようか」


 そうして注射器を取り出したヘルリックはゆっくりとアリスに近づいてきた。


 この日からアリスにとって地獄の3年間が始まった。


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