第16話 天国と地獄

家に帰った。

まずは直人に、ずっと子供を見てくれた事お礼言わなきゃ!


そう思って、

「ただいまー!」と玄関を開けるが留守だった。


あれ?一旦家の中へあがったが、玄関をもう一度開けて駐車場を見た。

車がない。※直人専用の車

なんだ。どっか遊び行ってんだ。

逆に良かったぁ。


そう思い、バックを置いてコートを脱ぎ、ハンガーにかけた。

洗面台で綺麗に手を洗いうがいをする。

手を綺麗に拭いた後は、常に近くに置いてある消毒液を手によくすりこませる。


リビングへ戻り、

「ニコ~!!ただいま!散歩行こっか。」

と良い、すぐにリードを付け、今度は汚れても良いジャンパーを着て、外へ出る。


2人、凄く良い感じだったなぁ。

30代になってからのこういう大人な恋愛も、良いもんだねぇ。

と、ババくさい事をしみじみ思った。


今日の夕焼けは綺麗なオレンジ色だった。

思わず携帯で写真を撮った。


「うん!きれ~~。後で司にも送ってあげよ♪」


充実した1日だった。

辺りに誰もいないのを確認して、綺麗な夕焼けを拝む。


どうか、2人が上手く行きますように。。


そうして家に帰ろうとしたその時、人が通りかかった。

ニコが強い勢いでリードをひっぱった為、リードが私の手からスルっと離れてしまった。

その人に吠えかかる。


ヤバい!!!!!噛みつく!


ニコはその人の周りをぎゃんぎゃん吠えまくる。

私は慌ててニコのリードを踏んで、こっちへ引っ張った。


「ごめんなさい!ごめんなさい!怖かったですよね。

本当にごめんなさい!!!!」

そういって深くお辞儀をした。


「いえいえ、大丈夫ですよ。犬は大好きですから。時々お見掛けするんですよ。朝と夕方、お子さんとお散歩へ行かれてますよね。こんな寒い時期に、ちゃんとお散歩へ行ってあげて

わんちゃんは幸せですね。」と言ってくれた。60代前半ぐらいの上品な女性だった。


だが、当の私は申し訳無さに謝るのに必死だった。

女性は、「大丈夫ですから。」と言って笑って去って行った。


あぁ、なんでもっとリードをしっかり持っていなかったんだろう。

良い人だったから良かったけど・・。もしニコが噛みついていたら?

事態はこんなに穏やかには終わらなかっただろう。

きっとすごく大ごとになってしまって・・。


しょんぼりしながら家へ帰る。

すると、家に明かりが付いていた。あ。帰ってきたんだ。

でも、正直今は会いたくないな。こんな暗い顔、見せられない。きっとまた心配される。

しばらく玄関の前で突っ立っていたが、きっと30分経ったって、1時間経ったって、私の暗い表情は変わらないと思い、意を決して鍵を開け、家の中へ入った。


「ただいま~。」

なるべく、明るく明るく!!

せめて、子供の前だけでも明るく!!!!笑うんだ私。

あぁ、笑い方が分からない。普通でいいや、普通。そう。普通。


リビングへニコを抱っこして入る。

直人たちも今帰って来たようで、

「おぉ、どうだった?楽しかった?」と直人が聞いてきた。


「うん。楽しかったよ~。」

と良い、洗面台へ向かいニコの足を洗う。


「??美羽、なんか顔暗くない?」

直人が洗面台までついてきて聞いてくる。


ギクリ。

なぜ分かる。


周りをきょろきょろ見渡し、小声で

「後で話す。」

とだけ言った。


ニコの足を綺麗に洗った後、ゲージへ入れ

私は先にお風呂へ入った。


あぁ、「後悔」の2文字だけが頭の中でぐるぐる・・・。

なんて私って駄目な人間なんだろう。。

涙が出てきそうだった。


カチャっと音がし、直人が入って来た。

「美羽~一緒に良い?」


「うん。」


「で、何が有ったの?」

直人は私を励まそうとしているのか、半分笑った感じで聞いてきた。


言おうか言うまいか悩む私。

言ったら直人、呆れた顔すんのかな。それとも、しっかりリード持っとけって怒るのかな。いい大人が小型犬がちょっと強く引っ張っただけで手から離すなんて、聞いて呆れるよね。


直人はお湯を肩からザーっとかけて、おしりを軽く洗い、湯船に入った。


私は頭を洗い、顔を洗い、最後に身体を洗って湯船に一緒に使った。

決して広いお風呂ではないが、大人2人ぐらいならぎりぎりは入れるぐらいの大きさだ。


「あのね・・、怒らないで聞いてくれる?ぜ~~ったい怒らないで聞いてくれる??」と繰り返し言うと、


「分かった。怒らないよ。で、何に悩んでるの?」


「実は・・、今日ニコの散歩でリード離しちゃって・・。たまたま近くにいた通りすがりの人の周りをグルグル回りながら凄い吠えたの。慌ててリード捕まえて、謝って帰ったんだけど・・。噛みつかなかっただけが救いなんだけど、なんで離しちゃったんだろうって後悔ばかりが頭に有って。突然ニコが走り出したからって言うのもあるけど、、。それでもリードをちゃんとつかんで無かった私が悪いんだもんね。――ほんと、私って駄目な人間。落ち込むよぉ。」


そこまで言うと、直人が

「へぇ、ニコ噛みつきはしなかったんだ。」

と、感心しながら言った。そして続けて、

「リードをしっかり持ってなかった美羽も悪いね。いや、怒ってる訳じゃないよ?引っ張られても大丈夫な持ち方をしていなかったって事だろ?」


「そうだね。そう・・。はぁ・・・・・。私ってなんでこうなんだろう。

ホント駄目な人間だよ・・。もう自分で自分が嫌になっちゃう。次の散歩行くのが怖くてたまらない。」

泣きそうだった。やっぱり私はどうしようもなく、『駄目な人間』だ。


「あははははは!そこまで悩む事?噛まなかったんだろ?相手もケガとかしたわけじゃないって事だろ?謝罪もして。許して貰えたんだろ?じゃぁもうそれで良いじゃん。次気を付ければいいだけ。それだけじゃん。」

直人は軽く言いながら、湯船から上がり頭を洗い、身体を洗いだした。


へ?そんな考え方でいいの?


「美羽さ、深く考えすぎ!!や~っぱ当分働けないなこりゃ!」といって笑い、

最後に顔を綺麗に洗った後、ザパーっと頭からお湯をかけ、お風呂から上がって行った。


私は湯船の中で、ひたすら悶々していた。

涙が出る。


すると、突然扉がかちゃっと開き、

「お山座りしながら深く考え込んで、お前は小学生か?」

直人がガハハと笑って扉を閉めた。


あ、ほんとだ。お山座りしてる・・。

なんかプッと笑いが出た。


人によって1つの物事でもこんなに受け止め方や考え方って違うんだなあ。

でも、話してだいぶすっきりした。

私は深く深く考えすぎなのか。やめよう。


気持ちを入れ変えてお風呂から上がった。

パジャマを着た後、脱衣所に直人がひょこっと顔だけ出してきた。


「うわ!ビビった!!」と言うと

「よっ!小学生。人生経験がまだまだ浅いわおぬし。」

フフフと笑い、ゆっくり扉を閉めてリビングの方へ帰ってった。


ハイ。ごもっとも。

と、私は心の中で思いながら、髪の毛を乾かした。


リビングへ戻る頃にはすっかり明るい顔になっていた。


直人がソファに座ったまま声を掛けて来た。

「今日は司ちゃんたちとお茶してきたんだろ?どうだった?」


「うん。楽しかった!話しも盛り上がって、司と、黒木君、ラインの交換もしてた。」

私が嬉しそうに言うと


「そうかぁ。悩むだけ損だっただろ?」といって直人が笑った。


「直人の助言通り、悩んだだけ損だった!(笑)その節はグダグダ悩みを聞いてもらって、どうもありがとうございました。」と至極丁寧に言った。


直人はケラケラ笑っていた。

「今度ビールよろしくねぇ~。」


ぬぬぬ。無職の私に金は無い!と言い返したかったが、

翌日、ビールを買って「感謝」と太いマジックで書いて冷蔵庫へ入れといた。

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