第15話 決戦の日

決戦の日(と、私は呼んでいる)がやってきた。


小学から高校までずっと一緒だった私達。

待ち合わせ場所は、母校の大宮高校の近くのカフェにした。


黒いジャケットにチノパンの男の人が立っている。

どうやら黒木君のようだ。


駆け寄って

「ごめん!呼んどきながら、待たせちゃったね。」と言って謝る。


「俺も今来たところだから、気にすんな。」

さらっと答える。


気を使わせない所とか、もてそうなのになぁ・・。


「司は後もうちょいで着くってライン入ってたから、もう来るはず。」

周りをきょろきょろ見渡す。


すると、司がやってきた。いつも結んでいるロングの髪を今日はおろしていた。

スラっとしている体形なうえに、ピタッとしたジーンズを履いていたから、尚更スマートに見えた。


「ごめんごめん!時間には間に合ったよね?」

と言って腕につけてある時計を見ていた。


「うん。大丈夫。寒いし、中入ろうか。」


お店の扉を開けると、とても懐かしい匂いがした。深い、コーヒーの匂い。

放課後、よくここで司とおしゃべりしてた。

他愛無い話しがとっても楽しくて、やっぱ10代って青春真っ盛りな時だったんだなあ。

しみじみ思っていると、


「席、ここで良い?」

と、司が聞いてきた。


「あ、うん!私はどこでも良いよ。」

そこはよく司と座っていた席だった。

4人掛けの席で、テスト前にはよくこの席で勉強していた(お店の人には迷惑だっただろうが。)


「ご飯は食べて来た?コロナあるから、軽くお茶だけと思って1時にしたんだけど・・。」


黒木君はメニューを見て、

「俺は食べてきたから、コーヒー頼むわ。」


「私もコーヒーにしようかな。司は?」


「私はー・・、ダージリンティーかな。」

メニューをパタンと閉じる。


店員を呼び、それぞれ注文した。


「司さ、この前の婚活の彼とどうなった?」


おぉ。黒木君、それってめっちゃ唐突!!

私は少しビビった。


「駄目になった。ま、期待はしてなかったし?そもそも会う前にラインを少しやり取りしただけで。そのまま終わったって感じ。」

黒木君の顔を見らずにさらっと答える司。


なんか、なんか?雰囲気悪いんですけど。

気のせいか?気にしすぎなのか?

いや、ここは空気の流れを変えてみよう!


「でも連絡先の交換出来ただけ、見込みはあったんだもんね。

ただ、縁が無かっただけっしょ。ところで黒木君はさ、休みの日とか何してるの?医師会に勤めてるなら、休みは日祝とか?」


店員が飲み物をもって来た。


黒木君はそのコーヒーに砂糖を1個入れて、マドラーで混ぜながら、

「土曜日も時々休みだったりはするけど、基本は日祝休み。仕事で疲れて、だいたい家で過ごす事が多いかな。映画見たり、音楽聴いたりして過ごしてる事が多い。今は一人暮らしだから、料理もたまにしてるけど。」

コーヒーを飲む姿が、なんだか様になっている。


やっぱり、もてない要素は無いよなー。

仕事もしっかりしている。性格も穏やか。料理もたましている。

顔立ちも綺麗。身長も180近くある。もてそうなのに、未だに独身。

と、なると、何か変な癖でもあるのか?


「料理って何作ったりしてんの?」

司が黒木君に初めて質問した。


おぉ!

これは大きな一歩じゃない!


「簡単に作れる丼ものばっかりだよ。ご飯の上に納豆とネギトロ乗せて、醤油かけて食べるだけとか。簡単に作れるのばっかだから、料理って言えるかは分からん。」


「すごいじゃん!それ、料理だから!

まずご飯炊くことが出来ないって言う男子多いって聞くもんね?」

すかさず、司にパスする。


「うん。多いって聞くね。仕事しながら料理やら家事してんの。凄い!

私なんて、未だに実家暮らし。雑貨屋で働いてるんだけど、次のシーズン、どんな商品チョイスするかとか、流行に敏感でいなきゃいけないし。どう陳列すれば、よりお客様に手に取って見てもらえるかとか、そういうの考えるの大変でさ。一人暮らしどころじゃない。ま、そんな事だからいつまで経っても独身なんだけど。」


うん。うん。いい感じでそっちの話しになってきた!

神様!仏様!どうか2人が良い感じになって、連絡先交換出来ますように。

そして欲を言えば、2人が上手く行きますように!!

頼みまーーーーーす!!!!!!!


「雑貨屋?俺もたまに雑貨屋行くよ。男性が?って思われそうだけど、仕事柄、その子の話にでてきたお店とか、見に行ってみたりする。次会った時の話の種にもなったりするし。より深いとこ聞けたりするからさ。」


「へぇ。仕事熱心なんだ。」


「見た目に寄らず、だろ?(笑)あくまで仕事。そう割り切った気持ちが半分と、聞いた事ない飲食店だったりすると、どんなお店なんだろうと思って行ってみたりする。」


「1人で行くことが多いの?」

と、司が聞く。


お?これはもしや??


「飲食店は1人でもどんどん行くね。」


「え~!1人で飲食店入るの恥ずかしくない?」


「女性はそういう人が大半だけど、俺からしたら1人で飲食店って割と普通だな。好きな時に飯食い行くのって、楽じゃね?」


ぎゃっ!危うい。それって1人が楽ですアピールやーん!!!


「でもさ、でもさ、たまに寂しいな~とか、思う事ないの?話し相手欲しいなぁって思ったりさ。」と、私がしどろもどろに話す。


「そうだなあ。仕事柄、人の話聞いてば~っかだからな。でも逆に、聞いた話で溜まったストレスを信頼できる友達とか、恋人とかに話せたら、それもまた、良いのかもしれないな。」


「何、大智、まだ彼女いないの!?」

司が驚く。


いやいや司、婚活パーティに出てから1か月も経ってないよ?

それに、今の会話で彼女いないの、分かるっしょ。


「いねぇよ。相変わらずなんでもかんでも、ぶしつけだな。」

黒木君の顔色が少し変わった。


ゲゲゲ!(ゲゲゲの鬼太郎じゃありません)私の顔が引きつる。

雰囲気やっば!

絶対黒木君怒った。怒ったよぉ、司ぁ。せっかくいい雰囲気出て来たのに

どうしてくれんのよあんた。


「いや、もてそうなのに、未だにいないんだと思っただけよ。」


「お前に振られて以来いねぇよ。」

小さい声で黒木君が呟く。


なぬ!!なぬぬ!?

これってやっぱり未練があるってやつ??

これってこれって、「やっぱりお前の事、忘れられないんだ!」ってパターン!?

ドラマや~~~~~~ん♡


なんて、一人ニヤニヤ妄想していると


気付けば二人、連絡先を交換していた。

「おぉ!3人でライン仲間作れるねっ!」

二人に置いて行かれないように、しれっと間に入る私。


それから、学生時代だった頃の話し、仕事の話し、趣味の話など、話は尽きなかった。

プチ同窓会みたいだった。話が盛り上がっていて、パッと窓の外を見ると薄暗い。

慌てて時計を見ると5時半!!


やば!旦那に子供預けてるから、帰らなきゃ!

さすがに5時半まで遊んでたなんて、無職・・、いや、専業主婦の私がそれは駄目っしょー!


「ごめん!旦那に子供見てもらってるんやわ。

先、帰るわ。お勘定、ここ置いとくから。後、ごゆっくり~。」

はたから見たら、2人は付き合ってるように見えた。

あぁ、神様、仏様。今度こそ!!二人が上手く行きますように!!!!


そう願いながらお店を出た。

すると、「美羽!!!」

と後ろから司が追いかけて来た。


「ん?何か私忘れ物したっけ??」

携帯は入ってるし、他にあの時バックから出したものは無いし・・。

とバックの中をごそごそしていると。


「ありがとね。なんか、この前の電話といい、、なんか久しぶりに大智と会って、なんか昔に戻れたようで楽しかった。チョコレートぐらいであんな喧嘩別れするなんてね。美羽のいう通りだったなって思う。」


「何いってんの~。若気の至りよ!もしかして、司、黒木君の事少しいいなぁって思い始めてる?」と、思い切って聞いてみた。


「そうだなぁ。まだわかんないけど!でも、やっぱりあいつ、優しくて気の利いた良いやつのままだった。また、3人でお茶でもしよね。帰り、気を付けてね。」

そういって、司はお店に戻った。その後ろ姿はとても綺麗だった。

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