5-10

 土曜日に岡崎を家に呼んで、友達人形調査に関する結果の報告を行った。

「……つまり、この人形を持っていても、僕に友達はできないということですか?」

「そうなるね。それどころか、友達を消されていたんだよ。その点は小山八雲に除霊してもらったから心配ないけど」

 岡崎は腕を組んで考え込んだ。

「呪いが解けたなら、消えた友達は元に戻るんですよね?」

「そういう話だよ」

「でも、相変わらず僕には友達がひとりしかいないんですけど……」

「学生時代の?」

「そうです」

「俺も岡崎くんの友達のつもりだけどな」

「あ、それは、そうなんですけど、神市さんはこの人形について相談した後にできた友達だから」

「まぁ、いずれにしても、友達はひとりできるだけでも奇跡みたいなものだから」

 僕は牛乳をひと口飲んだ。岡崎は、求めている解が導き出せない数学者のような顔で腕を組み続けた。

「どうやったら友達ができるんでしょう。ほら、神市さん、友達作るの得意そうじゃないですか」

「別に得意じゃないよ」

「でも、友達になろうって言ってくれたし」

「得意じゃないから、そういうやり方しかできないんだよ。本来、友達になるならないってのは、結果論みたいなものであるはずだし。なろうとしてなるもんじゃないね」

 僕はこの一年でできた友達のことを思い出した。

 佐々木紗英、横山奈々子、長谷川良平とその恋人の橋田ミク、そして岡崎佐知雄……。

 いびつな方法ではあったが、皆、その後の交流がある。ちゃんと友達になれたと言えるだろう。

「確かに俺は、この人とは友達になれるかもって人を見極める力があるのかもしれないね」

「どうやってやるんですか?」

「勘だよ。初めて会ったような気がしないというか、元々この人とは、友達だったんじゃないかと、直感的に思えた人とだけ、俺は『友達になろう』と言うようにしてる」

「勘ですか……」

 岡崎はがっかりしたように眉をひそめた。僕は、偉そうに語っている自分が滑稽に思え、鼻で笑った。

「まぁ、人形なんかに頼らず、気長にそういう人が現れるのを待つしかないよ」

「そうですよね……」

「あ、そうだ、なんだったら、俺の友達を紹介しようか。岩島っていう都市伝説考察系のユーチューバーなんだけど、友達人形の話をしたら、ぜひ取材したいと言うんだよ。会ってみる?」

 岡崎は目をぱちくりさせ、しばらく呆然としていたが、やがて大きく頷くと、

「もちろんでござる!」


 岡崎を見送り、ソファに腰かけて牛乳を飲む。

 友達は多ければ多いほどいいわけではない。

 たったひとりでもいれば、それは幸福なことだ。

 ひとりでもいれば、助けてもらうことができるし、助けを求めてもらうことができる。

 それに……

 スマホが鳴った。

 芽衣子からの着信だった。

「もしもし」

「あら神市、生きてたの? 退屈すぎて死んでんじゃないかと思ったのに」

「死ぬわけないだろ。芽衣子より長生きして、葬式で弔辞を読むのが俺の夢なんだ」

「その夢、今すぐ叶えられないようにしてやろうかしら」

「ところでどうしたの?」

「暇だろうから、遊びの依頼人を紹介してあげようと思ったの」

「ほう! ……」

 それに……生きる喜びが与えられることもあるのだ。

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遊びの依頼 南口昌平 @nanko-shohei

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