1-7

「……紗英は神市に感謝してるって」

 電話の向こうで芽衣子が誇らしげに言う。まるで自分の手柄であるというような口調だった。

 芽衣子が言うには、紗英はその後大地と別れたらしい。

「さすがは私って感じよね。だって、神市を紗英に紹介したのは、私なんだから」

 僕は笑い、「そうだね、芽衣子は見る目があるから」と話に乗っておいた。

「紗英が、今度三人で飲みに行こうって言ってた」

「それもいいね」

「楽しみ」

 芽衣子はご機嫌なようだった。鼻歌をうたっているのが聞こえてくる。

「それにしても毛玉小僧がまさか、良い妖怪だったなんて。意外なオチよね」

「いや、良い妖怪だったかどうかは、俺が勝手に推測しただけだから、真相はわからないけど」

 芽衣子は「ふぅん」とつぶやき、すぐに声色を変えて言った。

「今回の依頼、楽しかった?」

「え? ああ、まぁ、それなりにね。後味はあまりよくなかったけど」

「私のおかげよね」

 芽衣子がなにを求めているのか、すぐに察しがついた。

「うん。ありがとう。今度お礼に、ご飯おごるよ」

「ちょっと、お礼なんて興ざめよ。友達じゃない」

「でもまぁ、せっかくだからさ」

「そんなこと言って、私とデートがしたいだけでしょ。魂胆見え見えよ。まぁ、どうしてもと言うなら、おごらせてあげてもいいけど。表参道のレストラン予約しとく。今週の土曜」

「おめかしして行くよ」

 芽衣子との通話を終えた後、僕はパソコンに向かい、毛玉小僧に関するレポートをブログに書いた。

『……毛玉小僧は、死んでしまったのだろうか?』

 最後の一文を書き終え、伸びをする。

 ギターを抱え、なんとはなしにテレビをつけると、番組またぎのニュースをやっていた。世田谷区に住む男性が強制わいせつの容疑で逮捕されたというニュースが報じられている。

 男は昨晩、世田谷区の芦花公園で、帰宅途中の女性を園内のトイレに無理矢理連れ込み淫らな行為を行っていたところを、巡回中の警官に取り押さえられ、現行犯逮捕されたとのことだった。

 テレビ画面に、連行される容疑者の顔が映る。

 僕は悲しいため息をついた。

 そこに映っていたのは、毛玉小僧の調査初日に声をかけた、ランニングをするあの男の顔だった。

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