第11話 貴婦人と御令嬢はアイドルがお好き?
色鮮やかな衣装を身にまとい、談笑する貴婦人の群れ。
穏やかで上品に見えるが、社交界におけるその影響力は強大である。
今日は王妃主催のお茶会が、城の庭園で催されることになっている。
名目上は王妃主催となっているが、実はアイリスが王妃こと、マリーママにお願いして急遽開いてもらった、アイドルグループ計画に賛同し、支援をお願いする為のお茶会なのである。
アイリスは、このお茶会での彼女達の反応が、『チェスターズ』の今後を左右すると意気込んでいた。
やっぱりこの世界の女性貴族の理解とサポートなしに、アイドルの成功はありえません。
逆に、この場でファンを増やせれば良いパトロンになって、政治的、金銭的に、この先チェスターズの力強い味方になってくれるはずです。
良くも悪くも、噂と新しいもの好きで、影で様々なことを動かしてきた女性達ですからね。
三人も国歌の練習を頑張ってくれているのですから、私も正念場です!
アイリスが集まっている招待客と会釈を交わしていると、王妃の凛とした声が庭園に響いた。
「皆様、今日は急なお誘いにも関わらず、お集まりいただけて嬉しく思っています。既にお気付きの方が多いとは思いますが、今日のお茶会には特別な意味がありますの。でもそれは後でお話しするとして、さぁ、まずはお茶を楽しみましょう。」
いつものお茶会とは違う、神妙な顔で頷いていた夫人らが、少し顔のこわばりを解いて、静かにお茶会は始まった。
そうなのです。
今回のお茶会は異例で、招待状に用向きが書いておらず、突然王妃によって招集されました。
この時期に急に王妃に呼び出された訳。
それは高官や、上級貴族の妻子ならすぐにわかることです。
突然もたらされた、国の借金問題に関わる大切な話が王妃からあるに違いないと。
今日は、今は引退して領地で暮らしている祖母世代の方や、普段のお茶会ではお見かけしない方など、珍しい顔もたくさんいらっしゃいますし、出席率が桁違いに高いです。
借金問題は限られた高位の者にしか知らされていませんが、やはり国の一大事だと捉えられ、無理してでも参加して下さったのでしょう。
せっかく久々にお会い出来た方も多いのに、ピリピリした空気が残念です。
アイリスも紅茶に口を付けると、両隣に座っている令嬢達が話しかけてきた。
「ねえ、アイリス。アイリスなら今日のお茶会の目的を王妃様からあらかじめ聞いているんじゃないの?」
「そうよ!普段から仲がいいし、もしかして借金返済の目処が立ったお話かしら?そうだったらいいけれど、もし反対に、『これが皆で集まる最後のお茶会です』とか言われたらどうしましょう・・・」
この二人はアイリスの親友で、ダリアとアスターという。
アイリス含め、花の名前をとって名付けられたという共通点と、年齢が近いことから自然と仲良くなった。
因みにダリアの父は財務大臣、アスターの父が外務大臣を務めている為、宰相を父に持つアイリスとは家族ぐるみの仲なのである。
泣きそうなアスターに、今すぐ今日の種明かしをして慰めてあげたいが、勝手に趣旨を漏らすわけにもいかない。
しかも、王妃の目的を知っているどころか、アイリスが今日皆を集めた黒幕本人なのだから。
なんとなく返事をはぐらかすアイリスに、頭のいい二人はすぐに察したようだ。
「なるほど、まだ言えないって訳ね。」
「仕方ないですね。王妃様の発表までおとなしく待ちますわ。」
それ以上問い詰めて来ない二人に感謝しつつ、アイリスはそっと水晶を取り出した。
以前国王達にも見せた、チェスターズの三人の練習風景が記録されている水晶である。
この水晶には、国歌を練習するルカリオ、キース、レンの姿が映っている。
真面目に歌う横顔、輪になって相談する様子、軽口を言い合い、談笑しているところ・・・
特に必見なのが、アイリスの変顔に思わず吹き出す様子や、アイリス以外はまず見ることが出来ない、珍しい爆笑シーンである。
アイリスの変顔はもちろん記録されていないが。
今日はこの水晶の映像を、集まってくれた貴婦人方に見せ、心を掴み、今後の協力を取り付けねばならない。
微笑む三人の顔を頭に浮かべながら、水晶をぎゅっと握りしめた。
みんな、私に力を貸して下さいね。
王妃が手を叩き、皆の注目が集まった。
いよいよアイリスのプレゼンの場が整ったようだ。
チェスターズとこの国の未来を決める、アイリスによる「アイドルグループ作って、借金返済計画」のプレゼンが今始まろうとしていた。
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