第10話 二人きりの打ち合わせは心臓に悪いのです【魔術師レン編】

キースの採寸がなんとか終わり、後は宮廷魔術師団長の息子、レンの分さえ測れれば、衣装の採寸も無事終了となる。


レンは、今日も仕事が忙しいのでしょうか?


アイリスは城内で借りている部屋から、魔術師達が普段仕事をしている魔術師棟へ向かって歩きだした。

もちろん、メジャーもしっかりと持参して。


魔術師は、魔術師棟の上層階にそれぞれ部屋を与えられ、生活をしている。

よって、ルカリオは城内の自室で、キースは騎士団の寮で、レンは魔術師棟で寝起きをしており、これらは全て王宮の敷地内にある為、お互いの行き来は比較的スムーズなのである。


アイリスが、魔術師棟の入り口に続く小道に差し掛かったタイミングで、ちょうどレンが棟から姿を見せた。


「レーーン!!」


アイリスが名を呼び、大きく手を振ると、魔術師のローブのフードに覆われた頭が動き、アイリスに気付いたレンは表情をほころばせた。


アイリスも微笑みながらレンに駆け寄り、話しかける。


「ちょうど良かったです。レンに会いに来たのですが、今からお仕事ですか?」


「僕に?」


レンが嬉しそうに目を細めた。

レンが表情を変えるのは幼馴染みのルカリオ、キース、アイリスと居るときだけの為、通り過ぎる魔術師達が微笑ましそうに二人を眺めながら通り過ぎて行く。


「僕なら、今日は空いていますよ。アイリスが城に部屋を与えられたとルカリオから聞いたので、今から会いに行くところだったんです。」


「だったら、お互い同じことを考えてたんですねー。」


「では、僕の部屋でもいいですか?」


「もちろんです。」


二人でニコニコと笑いあった後、レンの部屋へと移動を始めた。



「レンのお部屋、久しぶりです!」


アイリスは嬉しそうに部屋を見回した。

この部屋を訪れたのはいつぶりだろうか。

昔より物は増えたみたいだが、相変わらず整理整頓の行き届いた、レンらしい綺麗な部屋である。


「今日はね、衣装と採寸のことでお邪魔したのです。」


アイリスはレンに、魔術師のローブ風のデザイン画を見せた。


「レンはローブが似合うので、この衣装を着て、ぜひとも試して貰いたいことがあるのです。というか、むしろ今やってみて欲しいです!」


「この衣装はとてもいいと思いますけど、今試して貰いたいことって?」


首を傾げるレンに、アイリスは興奮ぎみに説明する。


「アイドルには、ファンの子達が思わず歓声をあげてしまう、ドキッとさせる瞬間が色々あるんです。服をはだけさせたり、メガネをはずしたり。レンはいつもフードを被っているので、フードをはずす仕草は絶対女の子達にウケると思うんです!」


アイリスの勢いに若干引きつつ、レンがおずおずと尋ねる。


「これ、被ったままの状態が安心できるんですけど、はずさないと駄目ですか?」


「駄目です!!」


食い気味なアイリスの返事に、渋々とレンは頭に右手をやると、フードを後ろに落とした。


パサッ


その瞬間、いつもは隠れている艶やかな長めの黒髪と、細く白い首元が露になり、眩しげに細めた目と、レンの気怠けな様子が相まって、見てはいけないものを見てしまった気にさせられる。


なんで男の人なのにこんなに色っぽいのでしょうか。

なんだかズルいです。


「アイリス?」


しかも今呼び掛けるのは反則です。

フードをはずした姿も私は見慣れているはずなのに、目を合わせるのが恥ずかしくてたまりません。


思わず下を向いてしまったアイリスの頬に手のひらを添え、顔を覗きこみながらレンが心配そうに問いかけた。


「顔が赤いみたいですが、気分が悪くなりましたか?」


フルフルと首を振り、大丈夫なことを伝えると、アイリスは不自然さを誤魔化すように、レンをクルッと後ろ向きにさせた。


「今の仕草はバッチリでしたよ。後は採寸しないといけないので、ちょっと後ろを向いてて下さい。」


早口で伝えながら、なんとか気持ちを立て直し、肩幅を測り始める。

早く顔の熱が引くことを祈りながら、黙々と採寸を進めていく。


もうもう!!

フードを取る仕草は、私が思ってた以上に妖艶で刺激的でした。

あれで無自覚なのですから、困ります。

あの綺麗な顔と髪、流し目にやられる人が続出しそうです!

絶対曲の途中に、『フード落とし』を取り入れてもらいましょう。

前世なら、歌番組でカメラが寄って、アップになる重要なシーンですね。


アイリスは自分が一杯一杯で気付いていないが、間近で採寸されているレンの顔も真っ赤であった。


自分も無自覚に周りを振り回しているのだが、それには鈍感なアイリスなのである。

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