第9話 二人きりの打ち合わせは心臓に悪いのです【騎士キース編】
アイリスはしばらく王宮で暮らすことになった為、身の回りの必要なものだけを厳選して、家から持参してきた・・・はずだった。
現在、アイリスは廊下で荷物とにらめっこ中である。
なんでこんなに重いのでしょうか?
つい、色々持ってきすぎたみたいです。
いつでも屋敷に取りに行けるし、王宮にもあるものばかりだとわかってはいるのですが・・・。
アイリスは鈍感で無頓着なのに、変に心配性なところもある厄介な性格なのだ。
しかも、一人で運べると使用人に大見得を切った挙げ句が、この体たらくである。
この世界ってば、魔法が存在してるのに、誰でも指先一つで魔法使いみたいに何でも出来る訳じゃないところがミソですよね。
移動も馬車だし、重いものは重いし。
魔術師の家系や、王族でないアイリスには、それほど魔力は備わっていない。
よって、人力で乗り切るしかない場面も多いのである。
フンギィィィィ
令嬢らしからぬ踏ん張りで荷物を運んでいると、向こうからキースがアイリスを見つけ、走り寄ってきた。
「お前、こんなとこで何やってんだ?貸せ!!」
荷物を奪い取られた。
「ここでしばらく生活することになったので、荷物を持ってきたのですが、つい詰め込みすぎてしまって。」
肩で息をしながら答えるアイリスを、呆れたように見ながらキースが歩きだす。
「運んでやるから、部屋を教えろ。そんなノロノロしてたら日が暮れちまうぞ?」
ぶっきらぼうだが、キースはいつも優しい。
重い鞄を軽々と持ち上げる姿は、さすが鍛えている騎士は違うと感心してしまう。
アイリスはフフフと笑いながら、「こっちです」とキースに並んだ。
「ありがとうございました。キース、今日の鍛練はもう終わったのですか?」
「ああ。時間が出来たから、昨日打ち合わせに参加できなかった分を、ルカリオに確認しとこうと思ってな。」
なんだかんだで真面目にアイドルの計画に乗ってくれるキース。
「昨日は衣装の打ち合わせだったのです。キースに時間があるなら、今から少しいいですか?」
「それは構わねぇが。」
急遽、アイリスの新しい部屋でキースとの打ち合わせが始まった。
アイリスはキースにも衣装のデザインを見せてみた。
「こんなのはどうでしょう?キースの分は、騎士団の制服っぽくマントも着けてみました。首のここと、袖口のここが青で、あとの部分は三人同じ素材と色で統一します。」
「いいんじゃねえか?俺、そういうのよくわからねぇし。」
あまり興味無さげに言われ、アイリスは唇を尖らせた。
「キースってば、いつもそうですよね。着られればなんでもいいみたいな。」
「実際着られればいいからな。入らない服が多すぎる。」
「確かにキースの体格だと普通の服じゃ・・・って、そうでした!採寸を頼まれてたんでした!!」
王子のルカリオは、常時細かい採寸結果が王家で保管されているが、キースとレンの分は無い為、採寸をしないと衣装が作れない。
今から採寸を済ませてしまおうと、王家の衣装部の人間を呼ぼうとしたが、「お前が測ればいいだろう」と、キースは勝手に騎士団の服を脱ぎ出した。
「ちょっ、キース、待って下さい。勝手に脱がないでーーーーっ」
直視出来ず、回れ右をしながら抗議するアイリス。
「時間が勿体ないだろ?さっさとやるぞ。」
いえいえ、何だかいかがわしい台詞に聞こえるので、その言い方は止めて下さい。
アイリスは仕方なくメジャーを手にとり、赤い顔のまま上半身裸のキースに近付いた。
うわぁ、たくましくて大きな体です。
腕も太いし、胸板も厚くて、私と全然違いますね。
見事なマッチョ体型に、思わず恥ずかしさを忘れて見惚れてしまう。
「くくっ、そんなに珍しいか?」
キースに笑われ、我に返る。
「そんなんじゃありません!測りますよ!!」
しかし身長差が大きく、届かない。
屈んでもらうと誤差が生じそうなので、アイリスは近くにあった椅子に上った。
胸囲や肩幅、袖丈などを測り終わり、首回りも測ろうと腕を伸ばした時、うっかり椅子の上で体勢を崩してしまった。
「きゃっ!」
椅子から落ちそうになったアイリスを、キースがヒョイっと抱きあげた。
「相変わらずドジな上、軽いな。」
「下ろして下さい!!」
キースは慌てるアイリスを面白がって、更に強く抱きしめると、わざと廻り始めた。
きゃああああー
怖いですー!
目が回りますー!
恐怖心でついキースの首に腕を回し、さっきまであんなに恥ずかしがっていたキースの裸の胸に顔を埋めてしまう。
その後、無事に解放され、何事もなかったかのように頭をポンポンされたが、アイリスはしばらくボーっとしていた。
夜、眠る前になって、アイリスはようやく気付いた。
ん?採寸って、別に上着を全部脱がなくても良かったのでは?
キースもイジワルです!!
恥ずかしさで、ベッドの中でゴロゴロ転げ回るアイリスだった。
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