第8話 二人きりの打ち合わせは心臓に悪いのです(王子ルカリオ編)

今日のアイリスは、王子ルカリオと二人だけの打ち合わせだ。

キースには騎士団の抜けられない練習が、レンには魔術師の仕事依頼があったからである。


「みんな普段から忙しいのに、アイドルまでお願いしてしまって・・・。ルカリオも公務が忙しいんじゃないですか?」


国の為とはいえ、半分自分の趣味に三人を付き合わせている自覚があるアイリスは、心苦しくなってルカリオに尋ねた。


「まあ、僕は夜にまとめて書類を整理したり、自分のペースで出来ることも多いから。アイリスこそ、毎日ここに通うのは大変じゃない?提案なんだけど、しばらく王宮で暮らしたら?」


「私が王宮に?」


「うん、往復の馬車の時間も勿体ないし、体力的にもその方が楽でしょ?」


「確かにそれはそうですが。」


王宮ならお部屋もたくさんあるし、私一人くらいなんの問題もないのかもしれないですけどね。


じゃあ、とアイリスが了承しようとすると、


「僕の隣の続き部屋、アイリスなら使っていいよ?」


は?続き部屋って・・・

お嫁さんのお部屋じゃないですか!!


「冗談は止めてください!もうもう、そんなこと言って、勘違いされても知りませんからね!!」


顔を赤くして抗議するアイリスを、『勘違いさせたいんだけどな』と呟きながら、ルカリオは呆れと愛おしさを込めた瞳でアイリスを見つめた。



結局、ルカリオと同じフロアにアイリスは部屋を借りることになった。

あまり遠くの部屋では自分の目が届かないから駄目だと、ルカリオが言ってきかなかったからである。


「アイドルは正直やりたくないけれど、アイリスと一緒に居られるのは嬉しいよ。最近はあまり会えていなかったからね。父上の借金も少しは役に立つね。」


いやいや、借金はダメでしょう。

確かに子供の頃のようには会えなくなったので、こうして二人だけで過ごすのは随分久しぶりの気がします。

でも今日もやることをやらねば!


「ルカリオ、昨日マリーママ達に歌っている姿を録った水晶を見せたら、とても驚いていましたよ。あら、可愛く撮れてるわねって。」


「可愛く?アイリスが僕達を笑わせるからいけないんだ。」


「え~っ、だって素の表情が欲しかったのです。みんないい顔してましたよ。さすが私の変顔!!」


「アイリスは変な顔したって可愛いんだから、僕達以外の前でやっては駄目だよ?」


あんな顔、他では恥ずかしくて出来ませんよ。

でも今日のルカリオは何か変ですね。

いつも優しいですけど、なにか特に甘い感じがします。


「ルカリオは感覚がずれてるんですよね。今日は衣装について相談しに来たのに、不安になりますよ。」


「僕の感覚は至ってマトモだと思うけどね。で?衣装についてって?」


「ジャジャーン!私がイラストを描いてみました!!こんな衣装はどうでしょう?ルカリオにピッタリだと思うのです!」


「アイリスが描いてくれたの?それは楽しみだな。じゃあここに座って?」


笑顔で勧めてきたのはルカリオの膝の上だった。


「ほえ!?何で膝の上??恥ずかしいじゃないですか!私もう16ですよ!?」


「昔はよく座ってたじゃないか。一緒に1枚の紙を見るなら、この体勢が一番じゃないかな。」


いやいや、それなら隣に並んで座ればいいのでは?


しかし、ルカリオは笑顔で膝を叩き、早くと急かしてくる。

なんとなく急かされた勢いで、アイリスはルカリオの膝に軽く腰を下ろしてしまったのだが。


いやーーーっ、やっぱり絶対おかしいですって!

こんなの恥ずかしくて無理ー!!


逃げようとするのを、ルカリオがアイリスの腰を抱き寄せ、二人はより密着した。


「うん、これで見やすいね。うわぁ、素敵な衣装だね。派手に見えて、下品に見えない。さすがアイリスだね。」


アイリスの耳に、ルカリオの息がかかって落ち着かない。


「はい。王子様のキラキラを意識して、あとはルカリオのメンバーカラーの赤を差し色に使い、他の二人とも統一性のある衣装に・・・」


ルカリオの体温や、腰に回された腕、息遣いが気になって自分が何を喋っているのか意味不明です。

沸騰しそうに頭がグルグルしてきました。


腕の中でゆでダコ状態のアイリスに気を良くしたルカリオは、『ここまでなら許されるかな?』と呟いたかと思うと、アイリスの赤い耳をパクっと咥えた。


ぎゃーーーーっ!!


これは誰!?

ルカリオって、こんなキャラでしたっけ?

優しくて、キラキラで、正統派王子様だった私のルカリオは何処へ!?

こんないじわるで、危険なルカリオなんて知らないですーー!!


アイリスは、ルカリオが優しいだけの王子ではないことを学んだのだった。





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