初恋は実らない。


家に帰り着くと急いで靴を脱ぐ。

いつもなら揃えるけれど今日は一刻も早く部屋に駆け込みたいのだ。

バタバタとリビングを通り越して階段を駆け上がり二階の自分の部屋へと飛び込んだ。


バタンッ


ドアを閉めてその場にズルズルと座り込む。

思い返すのはさっきの事。

結哉の真剣な表情に言葉の数々…。

初めて見た照れた顔も思い出すと悲しくなる。


(せっかく涙止まったのになぁ……)


帰宅途中の間に涙が止まっていたのに思い出してまた涙が溢れてくる。

のそのそと立ち上がり鞄を定位置に置いてベッドまでたどり着くと布団の中に入る。


「…ふっ……うー……ーっ……」


沢山の思い出が蘇る。

好きになったキッカケ

陸上大会や球技大会

合唱コンクールに文化祭

沢山の思い出が結哉の笑顔と共に思い出された。


「ふ……ぅー……うわーん!!」

枕に顔を寄せて私は我慢していた分、大きな声を出して泣いた。





気付くと辺りは薄暗く午後6時半を過ぎていた。

泣き疲れて少しだけ寝てしまったらしい。


丁度良く下から母親が声を掛けてきた。

「紘ー?ただいまー。寝てるのー?」

「お母さん、おかえりなさい。ちょっと疲れて寝ちゃってた。」

「そう、ご飯急いで作るね。」

私は普通に聞こえるように母親に声を掛ける。

多分、気付いてるだろうけど何も言わないでくれたのが有り難かった。


泣いたら少しだけスッキリした気分になれた気がする。

モゾモゾと布団から這い出し制服から部屋着に着替える。


考えるのはやっぱり結哉の事だった。

勢いで告白しちゃったけど茉梨が好きな結哉の返事はどうせ駄目だったのだ。


(走って逃げちゃったから明日、謝らないと…)

上手く話せるか分からないけど明日は学校に行かなくちゃ。

どうせ明日が終われば冬休みで会わなくなるのだから。


(よしっ。本当は明日学校行きたくないけど頑張ろう。)


そう決意して私は1階へと降りる。

「お母さーん、何か手伝うー?」

「ありがとう、じゃぁお風呂お願いするねー。」

そのままお風呂場へ向かい浴槽にお湯を張る。

洗面台の鏡が目に入り自分の目が少しだけ赤くなっているのが見えた。

(あー、冷やさなきゃ明日腫れちゃうかも…)


夜、寝る前に冷やそうと思いリビングへと向かった。



ーーーーーーーーーーーーー



夜の10時半頃、勉強していた手を止め伸びをする。

(キリがいいし止めようかな…)


窓の方が明るく感じて椅子から立ち上がり窓の方へと歩み寄る。

(あ、雪だ…)

静かに降ったようで雪の白さで外が明るく見えていたらしい。

街灯に照らされて白く反射したようだ。

雪国程ではないにしても道路を白く染めている。


少しだけ窓の外を眺めて寒さに少し体が震えた所でカーテンをしめ直して机へと向かい、勉強道具等を片付けて明日の準備を確認する。


(明日は筆記用具とノート位かな?確か…)

少し考えて明日の準備を終えるとベッドに行き布団を掛けて目を閉じる。

疲れていたのかすぐに眠るのだった。



ーーーーーーーーーーーーー



朝起きていつも通りにご飯を食べて準備して制服を着て玄関で靴を履く。

「行ってきまーす!」

「行ってらっしゃい、気を付けてねー!」

母親に挨拶してから家を出る。

昨日の夜に見た少しだけ白い雪の世界が広がっていた。



「おはよー、紘」

「亜沙美おはよー」

待ち合わせ場所で合流すると亜沙美と一緒に学校へ向けて歩き出す。

「寝不足?なんか目の周り赤い?腫れぼったい?」

疑問形で問われ私は苦笑する。

長年の幼なじみにはすぐにバレてしまうらしい。

昨日の放課後の事を話す。

「あのね、昨日…結哉に告白したの」

「えっ!?そうなの?」

「うん、でも好きな人がいるからって振られちゃった」

「そっか…でも告白するなんて頑張ったね」

「んー結局、泣いて逃げちゃったからなぁ…。学校行ったら謝らないと…」

話しながら歩いていたのですんなりと学校に着いた。


校門を通って昇降口へ向かうと丁度登校してきた茉梨が下駄箱から内履きを取り靴を履き替えている所だった。


(あ…)

結哉の気持ちを知ってしまった後ろめたさから自分から声をかけることが出来ずにふいっと視線を逸らす。


靴を履こうと屈んだところで私と亜沙美に気付き靴を履きながら笑顔で挨拶してくる。

「おはよー、亜沙美ちゃん、紘ちゃん」

「おはよ、茉梨」

「…茉梨ちゃんおはよう」

「?紘ちゃんなんか元気ない?」

挨拶の声に覇気が無かった為か大丈夫?と心配してくれる優しい茉梨。

「大丈夫だよ、ちょっと勉強頑張ったから寝不足なの」

「そぅ?なら良いんだけど…」


私は笑顔を作り下駄箱で靴を履き替える為、靴を脱ぎ持ち上げた。

(やっぱり優しいなぁ)

そう思いながら内履きに手を掛けるとカサ…と紙片が入っていた。

急いで外靴を下駄箱にしまい、誰にも気付かれないように自然に見えるように内履きをそーっと床に置くと紙片を持ち上げてポケットに入れながら内履きを履いた。


亜沙美と茉梨が喋りながら私が靴を履き替えるのを待っていてくれて3人で教室へと向かった。

それぞれが自分の席へと行き、鞄をかけたり上着を脱いだりとホームルームの準備をする。

まだ朝のホームルームまでは時間があったため、上着を脱ぎながら先程の紙片を制服のポケットへ入れてトイレへと向かった。


個室に座りポケットから紙片を取り出すとカサッと音を立てた。

紙片を数秒間見つめて私はそーっと広げた。


ーーーーーーーーーーーー

昨日はごめん。

お前の気持ちには応えられないけど好きになってくれてありがとう!

ーーーーーーーーーーーー


名前は書かれていないけど結哉の字だった。

結哉の優しさに涙が出そうになり咄嗟に上を向く。


人一倍心配症でとても優しい茉梨が好きだし、なんだかんだ優しい結哉の事もやっぱり好きだと思わされる。


私がトイレから教室へ戻ると彩葉も教室へ来ていて茉梨と亜沙美で彩葉の机を囲んでいる。

その奥の方には友達とお喋りしながら戯れている結哉の姿も見える。


「あ、紘おはー」

彩葉が笑顔で手を振って私を呼んでくれている。

「彩葉ちゃんおはー」

私も笑顔で挨拶を返す。

「明日から冬休みだねー、いつ勉強会する?」

「初詣して、その後は?」

「「「いいね!!!」」」

「じゃぁ4日にしよっ」

彩葉の提案を皆で賛成しどこに何時に集合するか待ち合わせ場所等を話そうとしたときに鐘が鳴り響いた。



キーンコーンカーンコーン



「また後で話そう」

亜沙美の一言でそれぞれ自分の席に戻る。

先生が来るまでの少しの間に私は物思いに耽る。




今はまだ心の整理がつかないけれど

いつか茉梨と結哉がうまく行ったらいいな…と自然にそう思えた。





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片想いの告白練習。〜好きな人の練習台にされました〜 遊真野 蜜柑(ゆまの みかん) @yukiusa09

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