初恋は実らない、後編。


階段を降りきったところで1度深呼吸をする。

角を曲がれば目の前は理科室だ。

時間もそろそろだし…


(あー、緊張する。ちゃんと告白出来るかな?)

ドキドキし過ぎて胸が痛くなりそうだ。


キュッと手を祈るように握ってから決心して一歩踏み出し階段から角を曲がり、理科室の方へと歩き出す。


そこには既に結哉の姿があった。


(嘘や悪戯じゃなかった。良かったぁ)

悪戯やドッキリで実は来ません!って事も一応考えた。

でも、結哉は目の前にいる。


呼び出されたのは嘘ではなかった証拠だ。


「よぉ、時間ピッタリだな。」

「う、うん。」

「「…………」」

何処かぎこちない会話に緊張のせいかいつもの様に話せない私。

結哉の方も緊張しているのか顔が少しだけ強張っている。


「いきなり呼び出して悪かった」

「そ、そんなこと無いよ」

「紘にさ、言いたい事があるんだ」

「……うん、私も結哉に言いたい事があるの」

恥ずかしいけれど伝えたいと思えたから。

好きな気持ちを伝えたい。


頭をガシガシとかいて意を決した様に真剣な表情で真っ直ぐに私を見つめてくる。

私もドキドキしながら結哉を見つめ返す。


「あのさ、俺……ずっと前からお前が好きだったんだ」


私はドキドキが最高潮で心臓がバクバクと煩いくらいだ。

でも、私もここで結哉に思いを伝えるって決めたんだ。

「結哉!あのね、わた「そう言いたかったんだ。本当は茉梨に。」


「え?」

「好きなんだよ、茉梨が」

さっきまでのドキドキが嘘みたいにスーッと体温と共に消えていく。

「優しくてでもちゃんと駄目な事は駄目ってしっかり言えて周りを明るくしてくれるそんな茉梨が好きだ」

結哉の照れながらだけど真剣な表情に私は自分の表情や体が強張っていくのを感じていた。

体が冷えたんじゃないかって位冷たく感じる。


「な、んで…私に言うの?」

私の変化には気付かないまま照れを隠すように頭をガシガシと掻いて話す。

「いきなり告白とか恥ずいじゃん、だから比較的話しやすい紘で練習して心の準備したかった。それに……」


まだ何かあるのか…ドンドンと心の中が冷えていく。さっきまでの温かさは完全に消えていた。

「それに、なに?」

「…茉梨と仲良いじゃん、あと頼まれたから」

「…頼まれた…?」


誰に何を頼まれたら私に茉梨が好きだと告白してくるのだろう?

意味がわからない。練習って何?


「遠藤がさ、お前の事好きだって。好きな人いるか聞いてくれって頼まれたんだ。」




あぁ、納得した。

ストンと噛み合ったというか、探していたパズルのピースを填めたというか、とにかく理解した。



昼休みの時に目があったのは、茉梨を見てたから。

ニコっと笑ったのは茉梨に向けて、好印象を与える為だったんだ。

そして遠藤君の事も。

ベランダで結哉の隣にいた。

だから笑ったあとすぐに話しかけてたんだ。


そして水汲みの時。

『気になってる奴居るか』って聞いてきたのは遠藤君に頼まれたから。

あの聞き取れなかった言葉は

『頼まれたから』だったんだ……


………知りたくなかったな………


知らないままでいれたら良かったなぁ。

行動や言動に一喜一憂してウキウキドキドキワクワクしてあんなに楽しかったのに。

もう、戻れない。

恋してたキラキラが一瞬にして砕けてしまった。


私は泣きそうになるのを堪えながら結哉を見る。

茉梨が好きだと言えた事でスッキリとした晴れやかな顔になっている。

こっちの事なんかこれっぽっちも考えてくれてない。


「なぁ、紘。お前さ、気になってる奴いる?」

掃除の時と同じ質問。

でももう、聞いている私の気持ちは同じじゃない。

「…居るよ」

私は小さくそう答えた。

精一杯の笑顔を作ろうとしたけどきっと笑えてないと思う。

ポタポタと涙が止まらないけれど、伝えるって決めたんだから伝えよう。


タイミング最悪だけど、もういいや。


「……私の好きな人は、結哉だよ」


私はそれだけ言うとクルリと踵を返して後ろの階段を駆け下りていった。


「あ、おい?!……嘘だろ…」

泣きながらの告白に動揺してしまったのか結哉はその場にしゃがみ込んでしまった。

茉梨が好きだと告白練習をして伝えた事で酷く傷付けた事の罪悪感からかは分からないが暫くその場から結哉が動くことはなかった。




ーーーーーーーーーーーー




泣きながら階段を降りきったところで1度後ろを振り返る。


追ってくる気配はなく悲しい気持ちになり涙は止まらない。

トボトボと歩き始め昇降口で靴を替えそのまま帰る。



殆どの生徒が下校していて校門近くを歩いている生徒は一人もいない。


世界中でたった一人になった様な淋しいような悲しいような気分になり大声で泣き出したくなった。


でもそれは出来ないからなるべく早く家に帰りたくて急いで歩いて帰る。

その間もポロポロと涙が溢れて止まらなかった。





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