第23話 エピローグ

 リンガン村には相変わらず冷たい風が吹いていた。それはいつものように草木を傾けさせ、風車を盛んに回させた。それは村にとっての日常で、季節は春を待つばかりの冬だった。


 リリ達五人とペトロ先生が山道の入り口まで着いた時、リリにとっては昨日のことなのにどこか懐かしい場所に帰ってきた気がした。村の広場を示す標識も、その側にある家も、使い込んだ革製品のように見た目にその風合いを醸し出していた。

一キロほど歩くと、リリの母と祖母がいた。リリは気付くと彼女らの元へ走った。リリの母は半年前と何も変わらない娘を抱きしめた。


 後ほどリリが聞くところによるとテオの予想通り村では約半年ほど留守にしていたことになっていた。三日経ったところで捜索隊が組まれ、村周辺を中心に多くの村人が捜索にあたったそうだ。


 グラストゥのことは村の一部の人間しか知らない。村の出身者ではないが、二十年以上村に住むペトロ先生はそのことを知っていた。リリの行方がわからなくなった時、もしやと思い、村の広場にある塔から鐘を鳴らし、テオに事を伝えた。すると、テオからはそれらしき女の子を自分の横にいると伝え返した。ペトロ先生とテオはある地点で落ち合おうと話をしていたのだが、ヤン達が自主的にリリを探しに行ったのと、その途中で起きた土砂崩れが予想外の出来事だった。


 風の冷たさが心地よくなり始める季節、草木が踊り始める季節に、ヤン達は村の外にある学校へ進学した。ヤン、サラ、タムは同じ学校に、アメリアは絵を専門に学ぶ学校へ、リリも彼らとは別の学校へ進んだ。


 リリは村に帰る途中にヤンに聞かれた。今回の「冒険」で怖くはなかったかと、それに対してリリは「楽しかった!」と答えると苦笑しながら「君らしいな」とヤンは言った。もちろん、リリにとっても恐怖を感じる瞬間が無かったと言えば嘘になる。自分の身長より高く生い茂った草むら、何かが出てきそうな廃駅、そして大量のグラストゥ。それらは今までリリ自身が経験してきたもの見てきたものを凌駕するものばかりだった。ただ、リリは思った。こんな近くにまだまだ知らないものがたくさんあったのだ。村の外に出ればもっとたくさんの発見があると。自分はもっといろんなものを見てやるんだ、と。


 旧ユス・バイラン駅跡は未だに秋だった。黄金色の雑草が風で揺れ、回転台に落ちる滝は虹をつくっていた。テオが住む駅の詰所だった場所には用途不明の風車が未だに回り続けている。かつて駅だった場所は、人間ほどではないが、棄てられた駅としてゆっくりと歳をとり続けている。テオが帰ってきた時、その駅は何も変わらない姿で、いつもの通りに彼を迎え入れる。ただ、その時には一つだけ違ったものがあった。テーブルにリリの持ってきた焼き菓子の紙屑がそのまま置かれていた。

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廻る風車、棄てられた駅 紙飛行機 @kami_hikoki

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