第32話 最終決戦〈二〉
すでに、どこからも情報を得られない状況の中、澄子さんの彼氏だった男から手紙が来た。今夜、怪異なるものがあらわれる時間と場所が明記されたそれには、ほかの情報は一切書いてなかった。
ポストには、ご丁寧に押収されたはずのおもちゃの剣が入っていた。一振りすると、不思議な風が起こる。これなら、怪異なるものを消すことができる。
弁慶と名乗った少年は、紙の上にペンを走らせる。
『それは、お父様から?』
あたしは小声で頷いた。透明人間にならなければ、怪異なるものを退治に行けない。もう、これ以上の犠牲は出せないのだ。
『ぼくも行っていい?』
ダメだよ、あぶないからねとゆっくり伝えるけれど、弁慶は嫌々と首を左右に振っている。その大きな瞳からは涙がこぼれ落ちそうなほど潤んでいた。
「不安なの? ここにいるのが」
ちがう、と首を振って返す。
「じゃあ、どうして?」
『お父様を取り戻したいんだ』
走り書きされた紙を前に、どう答えればいいのか迷ってしまう。子供はいつだって、どんなに理不尽な扱いを受けても、いつか自分のことをわかってくれるのだと信じて疑わない。だがそれは、永遠に解決しない泥沼でしかないことを、どうやってこの子に教えればいいのかわからない。
『ぼく、武器に力を込められるよ? 役に立つから、お願い』
お願いされてしまった。もともと人間とどう接すればいいのかわからないあたしには、弁慶が宇宙人にしか見えない。
あたしがスーパーヒーローになるために治療してくれていたお医者さんの言葉が頭をよぎる。
『本当にこのままでいいんですか? あなたには、あなたのよさがある。それをすべて失うことになっても、それでもいいのですか?』
気のいいお医者さんに説得されたけれど、ちょうど澄子さんの洗脳をまともに受けていたあたしには、選択肢なんてなかった。
今の弁慶は、その頃のあたしに似ている。生一本で、疑うことを知らない純粋な瞳。
「しょうがないな。離れた場所にいるって約束できる?」
うんっ、と声が聞こえてきそうなほど力強く、弁慶は返事をした。
つづく
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