第31話 最終決戦〈一〉

 満月の夜に、怪異なるもののがあらわれる。それは、人間の持つ強い怨念によって生まれ、陰陽師の力によって具現化される。


『ねぇあなた、スーパーヒーローになってみない?』


 手相占いの澄子さんは、そう言ってあたしをスカウトした。なんだかわからない注射を打たれたり、肉体改造された挙句、あたしの体は男になってしまった。


 正直に言うと、あたしはあたしがいらなかった。両親にいらない子だと言われた時から、あたしはいらないものだった。


 だけど、澄子さんはあたしを必要としてくれた。だから男の体になってこわかったけれど、それでも受け入れることに決めた。


 心残りは、和彦。あたしを唯一愛してくれたから。必要としてくれたから。でもきっと彼にとってのあたしは、彼の正義感を持続するために必要だったのかもしれない。そんな風に思うようになったのは、澄子さんにそう言われたから。そそのかされたわけでは決してない。


『男はいつだって自分に都合のいいように女を扱うのよ。イケメンは本当に性格悪いし』


 言われてみれば、一理ある。和彦は癖のあるイケメンだったから。


 和彦が目の前で殺されたあの日、あたしは警察病院に入院させられてしまった。


 けど、人目を盗んで抜け出してきた。澄子さんの彼氏だった男の子供の安否が気になっていたから。あの男は、自分の子供にもきっとひどいことを平気でできる。そういう目をしていた。世の中の不幸、不条理を鼻で笑い、あたしのような人間を見下すタイプの人種だから。


 あたしは、警察病院から抜け出し、弁慶と呼ばれていたあの子が隔離されている病院に忍び込み、助け出すことに成功した。彼はまだ小さいのに、おかしな治療を無理やり受けさせられて、ぐったりしていた。


 助け出した後も、三日三晩うなされつづけた。


 時折、警察の無線も聞いてみたけれど、あたしを探している様子はなかった。ただ、刑事が一人、行方不明になったという。だから、前に住んでいたアパートにいても、誰もなにも言ってこなかった。アパートの代金は一年分先に払ってあったし、あたしは最初から透明人間だったのだ。


 警察は、混乱の中で、有力者の息子だという辰宮という男の捜索に必死になっていた。親はよほど権力があるのだろう。あたしたちのことなんて、誰もなにも探そうとはしない。そんな現実が少しおかしかった。もう、何年も笑ってないな。


 あしたは満月の夜。そろそろ決着をつけなければならない。


 目がさめても、話すことができなくなった弁慶をやさしく抱きしめて眠る。せめて今だけは安心してほしいから。


 つづく


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