第30話 行方不明

 辰宮さんが行方不明になったのだと、お父様から聞かされた。


 ぼくのせいだ。ぼくがふざけて、お父様をあおるようなことをしたせいで、みんなが殺されてしまった。なんてことをしてしまったんだろう。


 今度は辰宮さんまで殺されてしまうかもしれない。


 でも、今のぼくは精神科に入院させられ、手足を拘束された挙句、頭がぼんやりする薬を点滴で投与されている。


 声は、牛丸さんたちが殺されたあの瞬間から出なくなってしまった。


 スマホもない。パソコンもない。助けてくれる人すらいない。


 これは罰だ。大人の仕事に口を挟んだぼくへの、そして絶対者であるお父様へ喧嘩を挑んだ結果の、罰なんだ。


 ぼんやりする頭の中で、メガネをかけたお医者さんが一人で部屋に入ってくるのがわかった。


 あれ? あなたは、たしか正美さん?


「しぃ。助けてあげる。和彦の弔い合戦よ」


 正美さんは丁寧に点滴を外すと、拘束を解いてくれた。


 けど、頭がぼんやりする。


「眠っていていいわ。あたしがあなたを助けるから」


 正美さんは、ぼくのお母様でもないのに、とてもやさしくて。あたたかくて。でも、男の人の姿にされてしまった。


 どうしよう。考えなければいけないことがたくさんあるのに、ぼくは今、すごく眠いんだ。


 つづく

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る