第24話 拷問
玄関のドアを開けた弁慶は、素早く部屋に入り、ガチャガチャと音を立てる重そうなカバンをゆっくりとおろした。
「持ってきましたよー。拷問道具一式」
「拷問って、どういうことだよっ!?」
まだ幼さの残る顔で、弁慶は半分泣いていた。
「ぼくにはアレを倒す力がない。だから、これくらいしか役に立てないんですよ」
「正気か!? こんなの警察の仕事じゃないだろっ」
「だから、部外者がやるんです。ぼくには式神が操れますからね」
そう言うと、弁慶は懐に手を忍ばせた。ぷくぷくとした手がつかんでいたのは、人型の薄い紙。
「そう言うことなので、牛丸さん、少しの間がまんしていてくださいね?」
「は?」
なんで、おれ? と思うよりも早く、弁慶が紙をばらまく。とりあえず人の形をした大きな紙がおれの体を縛り上げた。これ、本当に紙か? というぐらいの力がおれにかかる。そのうちの一枚が、おれの口をふさいだ。声が出せない。
「じゃ、始めましょうか。渡辺 アリサさん、起きてちょうだい」
「っはっ!? くっそう!! ほどけ!! ほどけよぅ!!」
渡辺 アリサは、縄で縛られた手足をばたつかせるが、ほどくことができない。
「あにたは、渡辺 アリサさんね?」
「うるさいなぁ!! その名前で呼ぶなっ!!」
「じゃあ、なんて呼べばいいの?」
「勝手にしろ」
なるほど、と言って、若林は弁慶が持ってきた袋に手を伸ばす。
「本当はね、女の子にこんなことしたくないんだけど」
「ゔー!!」
やめろと言いたいおれの声は、式神にはばまれてしまう。
だめだ。こんなのはダメなんだ。
目を潤ませる渡辺 アリサの目の前に、ピンク色のマニキュアがせまる。マニキュア?
「肉体改造されてまで、どうしてかばうわけ? 誰にやられたの? どんなことをされたの?」
「いやだぁ!! ピンクなんて嫌いだあっ!! ぼくは、本当は男の子になりたかったんだ。あの人はその夢を叶えてくれた。それだけのことなんだ」
だから、アリサとは呼ばないで、と力なく抵抗する。
「さぁ言って。アリサちゃん。あの人って、誰?」
アリサの目の前に、真っ赤なマニキュアが揺れている。
「っくう。あの人、は、澄子様は、ぼくたちの魂を救ってくださる、女神様なんだっ」
澄子? おれの頭の中に派手顔の女が浮かんで消える。澄子って、手相占いの鈴木 澄子のことか?
「言って? もう一人の黒装束は誰?」
「ま、正美お姉様」
正美? なにかが頭の中でパチンと弾けた。正美って、誰だっけ? 大切な名前だとわかっているのに、頭の中がぐちゃぐちゃになる。これは、なんだ?
つづく
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